夜明けの枯木星
山口鳶
Prologue
「あと、少しだけ一緒にいてもらってもいいですか?」
私の我儘な願いに彼は黙って頷いた。
興味がないのか、はたまた彼なりの優しさか。
どちらでも構わなかった。
そばにいてくれる、それだけがただただ嬉しい。
冷たく降り積もる雪が、ゆっくりとカウントダウンを始めた。
「……本当にいいのか」
彼の言いたいことは分かった。
私は小さく頷く。
「大丈夫です。私がいたら、辛い思いをさせるだけですから。」
いや、これは自分への言い訳か。
私を、守るための言い訳。
彼は下を向きながら、ぼそりと呟く。
「……俺はいいんかい」
「いや!いいっていうか、あの、その、嫌なら帰ってもらっても大丈夫です。」
私が慌てて答えると、彼は少し笑う。
「雪ん中、公園に一人女置いてけるわけない」
「ありがとう、ございます」
沈黙が流れる。
私は、心の中で驚く。
思ったより、彼が会話をしてくれた。
無口で人に無関心そうに見えたが、意外と愛想もいい。
私はちらりと時計を見てから、話しかけてみる。
「……あの、まだ名前、聞いてなかったですよね。
えっと、私、東野雲谷っていいます。」
彼は長く伸びた前髪越しにこの日はじめて真っ直ぐに私を見た。
「黎条道明」
雪の降る、冬の日。
わたしは、黎条道明に、東野雲谷の最後を見届けてもらうことにした。
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