第15話 龍

 <古文書解読>

 一行は魔術師ギルドに件の研究結果を示した書籍の山を渡す。

 協会に属する魔術師キー・リンが同僚の魔術師たちとこの文献の解読に当たった。

 その中身は、「過去に封じられた魔神」に関する書物であった。

 魔神の力、それが封じられた場所、魔神に対抗する武具、封印の方法などについて書かれていた。

 かの大魔術師はこの魔神を封じた魔術儀式の長だったのだ。

 封の場所は未踏の山奥「死霊の山脈」の霊峰。

 さほど高い山ではないが、魔族が出没し、常人では到達できない場所である。

 一方、魔神に対抗し得る武具は龍に守られていることや、封印は破ってはならない理由が書かれていた。

 魔神が世に放たれれば、あらゆる者の命を喰らい、際限なく強くなるとあった。



 <龍との死闘>

 アイオリアら一行は思案した。

 魔神の封を破るべきではないが、魔神に対する武具については興味をそそられた。

 一行は、龍の住まうとされる山へ向かう。


 不帰の山脈の頂きは3つある、1つは先の魔導迷宮、1つは魔神を封印した場所、1つが古龍の住まう山である。

 古龍が住まうとされる山の中腹には洞穴があり、そこがおそらく龍の棲家に続いているのではないかと思われた。

 直径5mくらいの洞穴を数十m進むと、開けた場所に出た。

 おそらく一辺が50~60mはある巨大な広間だった。

 そして、そこに「巨大な龍」が鎮座していた…。


(我が棲家を荒らす不届き者は誰ぞ)

 <獅子隊>全員の頭の中に威厳ある「声」が響いてきた。

 キー・リンが緊張の面持ちで言う。

「古龍です。

 噂では神代の時代から生きているとも言われる偉大な存在です…。」


「我が名はアイオリア=レイセント。

 人界の戦士なり。

 貴公が『魔神討滅の武具』を所有していると聞いて参った。」

 アイオリアが臆せずに答える。


(痴れ者めが。

 この武具が意味するところも知らずに我が領域を踏み荒らすとは。)

 龍の発する威圧感が増した。

 前衛3人以外の体に冷や汗が流れる。

 この状態で動じていない前衛3人の胆力が異常なのだが…。

 アイオリアがさらに続ける。

「問おう。

 『意味するところ』とは何か、ご教示願いたい。」

 一拍の呼吸をおいて。

 龍の声が続けられる。

(ふむ。

 真に何も知らずに来たか。

 古の闘神どもですら手に余った魔神を、貴様らごときでどうにかなると思っているのか?)

 龍の声に怒りが滲む。

 ずしゃり、と物凄く重い音とともに一歩踏み出す。

 圧倒的な威圧感の前に、アイオリアも思わず後退りしそうになる。

 それでも気力を振り絞って、彼はその一歩を耐えた。

「その武具を任せるに足るか否か、それを確かめるために貴公が持っているのではないか?」

(ほほぅ。

 なかなかに賢しらな事を言う。

 よかろう。

 身の程というものを弁えるがよい。)

 言うや否や、龍が口を開ける。

 その奥に火炎が覗いた。

「火の精霊よ!我に従え!」

 とっさにアミルが火の精霊を支配する。

(ぬぅ!?)

 キー・リンとリョーマの掛けた魔法障壁も姿を表した。

 さらにグインが守りの祈祷を始める。

 それでも盾のないイリアス兄弟は、龍の火炎ブレスにより皮膚をわずかに焼かれる。

 守りの祈祷が終わったグインが、即座に治癒の祈りを捧げ始めた。

 アイオリア、イリアス兄弟は、全身に闘気を漲らせ、火炎と物理威力の両方に備える。

 龍としてはもう少し火炎の効果を望めたはずであったが、アミルの存在がその計算を狂わせた。

 だからといって、これでお手上げなわけではない。

 大気を震わす音とともに、咆吼する。

「ぐぁっ!」

 キー・リンの悲鳴が聞こえた。

 この咆吼は、直接精神力に影響を及ぼしているのだ。

 さらに地響きとともに、その前足を踏み出し、踏みしだこうとした。

 頭頂高10mを越えようという巨龍の踏みつけである。

 喰らえばタダでは済まない。

 その動きは緩慢に見えて、実際にはかなり早かった。

 前衛3人がその一撃から何とか逃れる。

 すかさず、ぎゅん!と風切り音がして、巨体の死角から巨大な尻尾が襲いかかってきた。

「くっ!」

 闘気を乗せた全身の力を使い、盾で尾の一撃を受けるアイオリア。

 しかし、彼我の体重差は如何ともし難く、いとも簡単に吹き飛ばされる。

 洞窟の壁面まで吹き飛ばされ、したたかに鎧の上から岩肌に打ち付けられた。

 鎧の上からでも身体が軋み、喀血する。

 イリアス兄弟も大剣で受け止めはしたものの、やはり吹き飛ばされて地を転がった。

 さらにそこに踏みつけが襲いかかる。

 イリアス兄弟はすんでのとこで転がり出て躱したが、あと一瞬遅ければ地に埋められていたであろう。

 再度、龍の火炎ブレスがパーティを襲う。

 魔法使い2人の魔法防御とアミルの使う火属性の精霊の加護をもってしても無傷では済まない威力だ。

 単なる火炎というわけではなく、多分に魔力的なものを含んでいるためだ。

「ぐっ!」

 灼熱が肺腑を焼かんと襲いかかる。

 それでも前衛3人は果敢に龍に挑んだ。

 しかし、龍の前足による踏み潰しだけで苦戦を強いられている。

 時折襲い来る尾による打撃と、火炎のブレスが<獅子隊>を消耗させていく。

 龍の鱗は硬く、未だ有効打が打てずにいた。

 魔力弾を撃ち込んでいるのだが、正直、効果を上げているのか分からない。

 そもそも古龍にもなれば、生得の魔法防御力が人の領域など軽く凌駕している。

 リョーマとアーサーの雷撃が龍の頭部に命中するが、これもどこまで効いたものか。

 龍は益々猛り、その暴圧は留まるところを知らなかった。

 魔法の武具で固めているとは言え、その威力は鎧の上からでも痛打になる。

(ジリ貧か・・・!)

 アイオリアは、何度目になるかわからない尾の一撃を受け吹き飛ばされる。

 闘気を全身に張り巡らせているおかげで致命傷には至っていないものの、それでも体中に打撲の跡が残っている。

 イリアス兄弟も同じ様であった。

 だが―――。

「グォォォォォォ!!!」

 龍が肉声で吠えた。

 龍の尾にアイオリアの魔剣スティアリスが傷をつけたのだ。

 ずっと前衛3人は尾の同じところを狙って攻撃を続けていたのが、今結実したのだ。

 ずううん、と地響きを立て龍の前足が荒ぶる。

 力の逃げ場がない分、尾の一撃以上にヤバい代物だ。

 ガギィ!と鈍い音がして龍の鱗が弾ける。

 龍の右前足に対しても、同じ場所を狙って攻撃し続けていたのだ。

 3人が踏み込もうとした瞬間、その頭上から火炎ブレスが浴びせられる。

(くそっ!)

 アイオリアは盾をかざしてその火炎を遮る。

 その影を滑るようにして、オルディウスが龍の足元に潜り込み、その大剣を龍の前足に叩き込む。

 命中した箇所にわずかに肉が覗いた。

 龍が苦悶の咆吼を上げた。

 ぶぅん、と風切り音がして、今まで見たことのない速度で尾がオルディウスに叩きつけられた。

「ぐはっ!」

 とっさに大剣を盾にしたものの、総重量300kgにもなるオルディウスが木の枝のように吹き飛ばされる。

 キー・リンとリョーマの魔術防御がなければ、その一撃だけで戦闘不能になっていたであろう強力な一撃だった。

(魔神はこの程度ではないぞ!)

 龍の声が響く。

 尾の傷と前足の傷はもう塞がっている。

 だが、まだ鱗までは再生していない。

 狙うならそこしかないが、龍とてそれは重々承知の上である。

 すぐさま使う足を変え、尾の動きも変わる。

 狙えない。

(くっ!)

 別の場所を最初から狙うか、悩むところだ。

 ヴレンハイトが機敏に回り込み、龍が庇っている右前足に斬りつけた。

(ぬぅ!)

 龍の怒り声ともうめき声とも取れる声が響く。

 アイオリアは左前足の側に回り込み、的を絞らせまいとする。

 イリアス兄弟に右前足の損傷部位を任せ、左前足に集中する。

 前衛3人の体の奥から強烈な力が湧いてくる感触があった。

 グインの長い身体強化の祈りが終わったのだ。

(ありがたい!)

 かなり長い祈りを捧げたため、消耗しきっているグインを目の端で確認すると、アイオリアは猛然と龍に斬りかかった。

 イリアス兄弟も同時に龍に猛攻撃をかける。

 ゲバは何度目になるかわからないクロスボウの射撃を、龍の眼を狙って撃っていた。

 龍とて眼はやはり弱点と見え、クロスボウの射撃を避けている。

 龍の集中を阻害するくらいにはなっているであろう。

 ディオノスの魔力弾とフィレーナの風刃も眼を狙うが、これは龍の高い魔法防御に遮られて効果を上げきれていないようだ。

 激闘はとどまるところを知らず、延々と続いた。

 だが、時間の経過は<獅子隊>に不利に働いている。

 龍のスタミナが尽きないのだ。

 若い龍ならば火炎のブレスが「枯れる」頃合いだろうが、古龍であるこの龍にはそのような欠点は無いようだった。

 それに対し、<獅子隊>の面々は疲労の色が濃くなってきていた。

 アミルの火炎防御を持ってしても全くの無傷とはいかない。

 前衛3人は、重症必至な尾の一撃を防御の上からとはいえ幾度か食らっている。

 グインの回復能力ももはや限界に来ていた。

 アイオリアは戦局の悪化を鋭く見て取った。

「引くぞ!!!」

 盾を掲げてブレスを防ぎながら鋭く叫ぶ。

 アイオリア、イリアス兄弟が龍の攻撃を引き付ける。

 他の面々は瞬時に理解し、洞窟の外に向けて駆け出した。

 龍が出入りに使っているのはおそらく天井に開いた穴だ。

 <獅子隊>が入ってきた出入り口は龍には狭く、追っては来られない。

 後衛が戦域離脱したのを確認し、アイオリアらも撤退を始める。

 ある程度の距離を取り、龍が通れない位置まで来たのを確認して駆け出す。

 一行は山を転げ落ちるかのような速度で森林の中まで撤退した。

 果たして、龍は追っては来なかった。

 魔導武具を含む財宝を守っているのだろう。

 そういう意味では安心ができた。

 とはいえ、一行の損耗はひどいものであった。

 闘気を巡らせ、身体強化と魔法防御までかけていても、龍の物理攻撃は前衛3人の身体をボロボロにしていた。

 打撲、骨折、裂傷、火傷などなど、まさに満身創痍であったのだ。

 後衛の面々にしても無事な訳では無い。

 防御越しに火炎ブレスが着実にダメージを及ぼしていた。

 なにより前衛3人を援護するため、精神力のギリギリまで魔法を使っていたのだ。

 撤退する体力はまさに最後の一滴であったと言えた。

 グインの回復を待つ間にも、とりあえず応急処置を済ませる。

「ここまで強力だとはな・・・。」

 ヴレンハイトが唸る。

「ああ、これは作戦を練り直さないと駄目だな。」

 アイオリアが答える。


 野営を経てある程度の体力回復をはかった後、行軍ができる程度に回復した一行は、数日をかけ塔まで引き上げた。

「さて、根本的にどうするかだが・・・」

 リョーマが切り出す。

「戦法的には今回の方法で間違いない。」

 オルディウスが自信を持って言う。

「確かに。

 手傷を追わせることはできた。」

 これはグイン。

「できる限り打撃力を上げて、龍の防御を破る必要があるな。」

 アイオリアが続ける。

「だが、具体的にどうする?

 魔法的支援も全部突っ込んであれだぞ?」

 ヴレンハイトがやや渋い表情を作って言う。

 一行は思案顔になった。

 ふと、キー・リンが思い立ったように言う。

「龍殺しの武具、の伝承ならありましたね。」

 一斉に全員がそちらを向く。

「一旦魔術師ギルドに戻ります。

 大魔道士の古文書になにか情報があるかもしれませんので。」

「了解した。

 その間こちらも対龍の作戦を練る。

 装備も直さないといかんだろうしな。」

 アイオリアがキー・リンの提案を肯定した。

 こうして<獅子隊>一行は、タイジェルに帰還することとなった。


 ゲバ「それにしても、魔法の武具でよかったの。

   あれだけ食らっておいて、よくこの程度の歪(ひず)みで済んだもんじゃ。」

 ゲバは防具の修繕に大忙しであった。

 武器については高位の魔力武器であったおかげか、痛みはほぼないのが救いだった。

 対龍として喫緊の課題なのは、火炎ブレス以上に物理的な攻撃の方が強いことであった。

 もちろん、並みの冒険者であれば全員揃ってこんがり焼けているだろうが、このパーティには幸い火の精霊そのものであるアミルがいる。

 何十トン、悪くすれば百トンもある体重から繰り出される尾と踏みつけをどう凌ぎ、あの堅牢な鱗を叩き切るか、それが難問であった。

 キー・リンの調査の間、アイオリアらは対龍の戦法・戦術を練った。

 躱し、斬る。

 ただそれのみを純粋に鍛え上げる。

 アミルは火業の修練に励み、龍のブレスに備えた。

 これにはフィレーナとアーサーも協力し、互いの魔力の増強に務めた。

 リョーマは凍嵐の術を魔術師ギルドから買い、ディオノスは魔力の護符により魔力弾の威力向上を図った。

 タイジェルに帰還して7日が過ぎ、キー・リンが一行に知らせを持ってきた。

「かつての龍殺しの伝承が示すところですが…神王(主神)の古神殿に武具が安置されている可能性が高いです。

 場所は古都イシュタットの北にある山中で間違いないでしょう。

 ただ、武具は全て『名前持ち』なのと、強力な『守護者』がいるようです。」

 名前持ちの武具ということは使い手を選ぶということであり、同時に強大な威力を秘めていることの証左でもある。

 人の世に持ち出せば軍事バランスに影響が出かねないアーティファクトの可能性もあり、そうであれば、それを守る門番も凄まじい強さであろう。

「あと、これは余談になりますが・・・。

 あの古龍は、人、というか闘神が変じたもののようです。

 かの大魔道士の仲間の一人だと思われます。」

 これにはさしもの<獅子隊>全員が度肝を抜かれた。

 神代の時代において魔神と戦った本人が龍となって現存しているのだから驚くのも無理はない。

「なるほど・・・魔神の力を身を以て知っているということか。

 我々はその眼鏡に適わなかったわけだな。」

 リョーマが少し悔しげに言う。

「だが、手の施しようがない、とも言えん。

 少なくとも一撃は入った。」

 アミルが慰みとも自信ともみえる表情で言う。

「まずは『古神殿』とやらに行ってからだ。」

 アイオリアが決断する。

 異を唱える者はいなかった。

 一行はすぐに出立の準備を整え、陸路、古都イシュタットへ向かう。

 数日掛けてイシュタットに着いた<獅子隊>一行は、しばし休息を取った後、古神殿へと出発した。

 道中、亜人の集団や野獣などに出くわすことはあったが、今の彼らにとっては鎧袖一触である。

 <獅子隊>がそれ以上の困難に遭うことはなかった。


 イシュタットを発って3日後、イシュタット北部に座するディスペリオ山の森林奥に、巨大な神殿が見えてきた。

 鬱蒼と茂った森の奥にもかかわらず、神殿周囲はきれいに開けていた。

 まるで手入れがされているかのように、である。

 グインが呟く。

「すごい神気だな・・・。

 礼拝者もいない神殿とは思えん。」

 それは誰もが肌で感じていた。

 白亜の神殿は苔すら生えていない。

 由来からして1000年以上経っているはずだが。

 神殿の天頂高は、30mはあるだろう。

「魔力・・・のような反応があります。

 ゴーレムの類かもしれません。」

 キー・リンが注意を促す。

「ああ、もとより承知だ。

 どのみち砕かねば目的は果たせまい。」

 オルディウスの表情が引き締まり即時戦闘状態に入る。

「みな、準備はいいか?」

 アイオリアが振り返って全員を見る。

 こくり、と全員が頷いた。

 普段通りに隊列を組み、美しい石柱が立ち並ぶ廊下を進む。

 ややあって、物々しい両開きの鉄扉に突き当たった。

 キー・リンが魔力感知を掛ける。

「魔力施錠ですね。

 解除してみます。」

 キー・リンが呪文を詠唱し、扉が光りに包まれる。

 キー・リンの額に汗が浮かんだ。

「駄目ですね。

 相当に高位の魔術施錠のようです。」

 ダメ元でリョーマが試してみたが、やはり解錠できない。

「これをもらってきておいて正解でしたか。」

 キー・リンは1枚の羊皮紙を広げる。

 そして書かれた呪文を読み上げる。

 キィン、と金属の鳴るような音がして扉が光った。

「開きました。」

 ふぅーっとキー・リンが溜息を付く。

 スクロール(巻物)の高位呪文を行使した代償にかなりの精神力を消耗したようだ。

 例によって魔力補充の水晶で精神力を回復し、すぐ戦線に復帰する。

「開けるぞ。」

 オルディウスが言う。

 イリアス兄弟が重い扉を慎重に開ける。

 中は巨大な石室であった。

 高さで20m、四方は50mくらいはあるだろう。

 その中央に鎮座するものがあった。

 ギギギ、と耳障りな音を立てて動き始める。

「!」

 一行は息を呑んだ。

 一見して輝かしい金属色をしている「それ」が立ち上がった姿は、まごうことなく「龍」だったのだ。

 だが、その目も金属でできているようで、生物のそれとは完全に異質であった。

(龍型のゴーレムということか!)

 体高10mを超えんとする巨躯、先の古龍戦の記憶がみなの頭をよぎる。

「やるぞ!」

 アイオリアが発破をかける。

 金属様の素体にもかかわらず、その動きは俊敏であった。

「右足をやる!」

 オルディウスが吼え、強烈な一撃を見舞う。

 金属同士がぶつかる強烈な音がし、大剣が弾かれた。

 ヴレンハイトも右足を狙い、アイオリアは的を絞らせないために左足にかかる。

 金属龍が口腔を開いた。

 その奥に光が見える。

 カッ!と光線が迸(ほとばし)る。

 精霊使い3人と魔術師2人そしてディオノスを狙ったものだった。

 とっさに魔術防壁と火炎及び風の壁を展開し、その威力を削ぐ。

 グインは身体強化の祈りを捧げ終わり、武器の聖別にかかる。

 魔術師2人も各人の武器に魔力強化を掛ける。

 アミルは剣に火炎を纏わせ前衛の戦闘に混ざる。

 オルディウスとヴレンハイトは大地の精霊力を高め、パーティ全員の頑強度を強化する。

 ゲバは魔術師ギルドから買い受けた「巨人殺し」のスリングを使い、石弾を金属龍に叩きつけた。

 石弾とは言ってもスリングの魔力によってその強度は金属に匹敵し、威力も岩盤に穴を穿つ程の強烈さである。

「龍とやるために龍を倒せ、なんざ洒落になんねぇぜ!」

 ディオノスが毒づきながら魔力弾を叩きつける。

 死力を尽くした戦いは数分間続いた。

 愚直に同じ箇所を叩き続ける戦士たち。

 同じところに魔力弾を叩き込み、火炎の剣で斬りつける。

 光線ブレスと尾、そして踏みつけを何とか凌ぎながら戦い続けていた。

 とはいえ、数撃は受けている。

 あまりにも長期戦になれば、命に関わるレベルの威力だ。

 そうした緊張感の中、ついに龍の足や体にヒビが入る。

 パーティが疲弊と負傷のあまり倒れそうになる寸前、金属龍の体に複数のヒビが刻まれ、ボロボロと崩れだす。

「ぬぅ!」

 これが最後とばかり、パーティは死力を尽くして金属龍を攻めた。

 バラバラと破片を散らしながら、金属龍は最後の光線ブレスを吐くと、瓦礫の山と化し動きを止めた。

 全員がその場にへたり込む。

 もしあと数秒~数十秒戦いが長引いていたら、全滅の憂き目に遭っていたかもしれない。

 それに、最後の光線ブレスは、疲弊しきったパーティにとどめを刺していった。

 回復役であるグインを含め全員が重症を負ったのである。

 リョーマが最後の力を振り絞って敵意感知と魔力感知を行う。

「・・・・大丈夫だ、これ以上敵の反応はない・・・。」

 この後、パーティが動けるようになるまで優に2時間以上を費やすこととなった。



 傷の治療を終え、精神力の回復も終えた<獅子隊>は、広間の奥へつながる扉へ向かう。

 この扉は施錠されていなかった。

 ギギィと音を立てて開く扉。

 その先もやはり石造りの部屋であった。

 その中央には、主神の像が立っており、その台座には「龍を退けし勇者にのみ武具を与えん」と刻まれていた。

 主神の像の後ろにもう一つの扉があり、その扉にも高位の魔法で施錠がなされていた。

 キー・リンがもう一枚の羊皮紙を取り出し、先の扉のように解錠する。

 石造りの玄室の中には多数の武器防具や魔法の道具が置かれていた。

「これが龍討伐の武具か・・・。」

 明らかに尋常でない魔力の気配。

 一つ一つ己が使えそうな武具に触れていく。

「名前持ち」は自らが仕える主を選ぶ。

 選ばれなかった武具は持ち帰ることもままならぬので、そのまま安置しておくしか無い。

 それでも一行の戦力は着実に上昇した。




 こうして龍討伐の武具を得た<獅子隊>は、再び古龍の巣へと向かう。

「先に戦いを挑んだアイオリアと申す!

 闘神どの、再戦を希望する!」

 アイオリアが巣の入口で大音声を上げた。

 しばらくして、一行の頭の中に以前と同じ威厳ある「声」が響いてきた。

(来よ)

 巣に入る許しを得た<獅子隊>一行は、再び龍の巣へと立ち入った。

 休んでた古龍が、巨大なその身を起こした。

(少しは勉強をしてきたようだな。

 よかろう、まずは我が名を教えよう。

 我は魔道士ザナフ=ガジェの盟友エルディナス。

 汝らが知る通り、秘術により龍に変じた者なり。)

 放たれる威圧感はそのままに、気勢のみが少しだけほころんだ。

(とはいえ、先の戦いで見たままでは魔神には及ばぬ。

 再戦し、我に力を示せ。

 力及ばぬようでは、武具に「選ばれる」こともできぬ。)

 こうして二度目の古龍戦が幕を開けた。

 対龍束縛の呪文、対龍抵抗の呪文、強力無比な魔法の武具、そして何より古神殿での戦いを切り抜けた「実力」。

 両者の激闘は10分近くも続いたが、ついに古龍-エルディナスに深々と剣が突き刺さった。

 エルディナスの威厳ある声が頭に響く。

(どうやら我の負けのようだな。

 よかろう、我が守護する武具に「選ばれる」がよい。)

 エルディナスの許しを受けたものの、両者激闘の傷は深く、<獅子隊>の一行はしばらく動けなかった。

 一行は、エルディナスの守る武具(アーティファクト)から自分たちを「選んだ」武具を手に入れることができた。

 だが、そんな<獅子隊>にエルディナスは告げる。

(しかして忘れるな。

 我らも魔神を倒すことはできなんだ。

 功名心や好奇心に駆られて封を解くでないぞ。

 戦うは、真に封が脅かされたときの最終手段と知るがいい。)

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