古代最強魔術師が未来でリベンジする話

UNDER DOG

PROLOGUE 〜とある昔の少年少女の物語〜


 遠い昔の日本では、21世紀を生きる私たちの知らない歴史があった。私たちの世界にはない魔法が存在したのだ。その時代、魔法が使える者は魔術師と呼ばれ老若男女問わず領土拡大を目指す統治者たちによって戦争に強制的に参加させられていた。

 

 

 そんな魔術師が戦争の道具のように扱われていた時代に、多大な戦果を挙げていた一人の少年がいた。その少年こそがせいである。政は底しれぬ魔力を使い、膨大な数の敵を殺し戦争の勝利に貢献した。そのことから人々は彼を黄泉の大神と呼ぶようになった。



 そんな戦争で戦果を挙げ続けていた政はある時、偶然知り合った翠国という国の統治者から、まだ歳いかぬ姫の護衛役を頼まれた。政は、すぐにその依頼を承諾し、それからというもの政と姫は主従関係上、多くの時を一緒に過ごし、少しずつ二人の距離も縮まりはじめていた。



 しかし、神はその幸せな日々を長くは与えなかった。


 翠国は国の命運を左右するような重要な戦いで大敗を喫してしまいその結果、国内に敵兵が押し寄せ翠国内の村々に火が放たれた。


 



「おらは、魔術が使えないんだ。どうか、おらだけでも助けてく・・・・・・」


 


「助けてください。この子はまだ赤ん坊なんです。どうか、この子だけでも助けてください。お願いしま・・・・ 」

 

  


「おぎゃ〜〜〜〜〜〜おぎゃ〜〜〜〜おぎゃ〜〜〜〜〜〜おぎゃ〜〜〜      おぎゃ〜〜〜〜〜〜」




「誰か、助け・・・・・・ 」




 夜にも関わらず空が赤く燃え上がる中、返り血を浴びた武具を身につけた者たちが血眼になって誰かを探していた。


 


「翠国の姫は、そっちにいたか」


 


「いねえよ。どっかの平民に混じってて誰かが殺っちまったんじゃないか」


 


「そんなわけないだろ。美人だって噂の女だ。そこらへんの死んだ女と一緒にするのはかわいそうだ。とっとと見つけて、上に連れてく前に俺らで可愛がってやろぜ。」



 男は血に濡れた刀身を、まるで獲物を味わうかのように舌で嘗(な)めた。



「そりゃ楽しみだ。俄然いろんながみなぎってくる。」





  翠国内で敵兵の暴虐の限りを尽くされる最中、少年少女を乗せた一頭の馬が国内から逃れるために駆けていた。




「戻ろうぞ政。わらわの民たちが、殺されておるのだぞ。お前の力なら民を助けることができるだろ。民たちの苦しむ声が聞こえないのか政。」



「・・・・・・・・・・」




「無視するでない。早く馬を戻せ。早よ。」


 


 姫は何度も何度も大声を出し、必死に命令した。しかし政はその言葉を無視し前に座っていた姫が馬から落ちないように必死に抱き留めた。



「政、頼む。もし何か助けにいけない理由があるなら教えてくれ。」



政は一滴の涙を流しこう言った、


 

「                           」




 馬の駆ける音だけが聞こえる時間が長く、永遠のように続いた。そして姫は大粒の涙を流すと同時に生まれたばかりの赤子のように大声を出し泣いた、、、、、、

 不本意な決断を噛みしめつつ、政は馬をむち打ち、ひたすらに翠国から遠ざかる道を選んだ。





 


 ◆            




 2人はやっとの思いで翠国内から脱出した。だが追手おってが迫っている可能性もあったので、暗闇が長く続く洞窟の中に入り隠れることにした。洞窟に入る月明かりは、姫のリンゴのように赤く充血した目を政の視界に映し出した。



「政、これからわらわたち、・・これからどうすれば良いのかの」



「・・・・・・・・・・」



「思い切って遠くの町で、2人で商いでも始めてみるか。」



「・・・・・・・・」



「そいえば今頃は桜が見ごろを迎える季節だったな、政。わらわは小さい時に見て以来でな。今度、一緒に見に行きたいものだなぁ。」



「・・・・・・・・・」



 政はずっとうつむいていた。政もわかっていた。姫様は本心を押し殺し、政の気を紛らわそうと気遣っていることに。だが、政の口から出る言葉はなかった、、、、、

 その事を察したのか姫は、髪を束ねていたかんざしをとり、長い髪を下ろし、いつもの声とは違う優しげな口調でこう言った。



「政よ、わらわと初めて会った時のことを覚えておるか?ずっと其方そなたは無口で、わらわが話しかけても「御意ぎょい」の一言でつまらん人間だと思っとった。だがなぁ其方そなたはいつもわらわが悲しい時や、辛い時にはずっと寄り添ってくれたなあ。流石のわらわとて、心動かぬということはなかったのだぞ。」




 政が顔を上げるとそこには、頬を赤らめている姫がいた。




わらわ其方そなたのことを日本一、恋焦こいこがれておるおなごぞ」




 政はそれを聞き、堪えていたはずの大粒の涙を流し、一人の女性を抱き寄せた。




「申し訳ございません。姫様、私は飛んだ臆病者です。姫様、姫様、姫様」




 その後、二人のいた洞窟から謎の白い光が空高く噴き出しその光は日本全土に降り注いだ。それを浴びた魔術師たちは皆ただの人へと成り果ててしまったのだった。




 ◆



 それから何千年の時が過ぎた西暦2100年1月1日12時00分。

 4歳くらいのアメリカ系アフリカ人の男の子は真夜中になっても眠れなかったので暇つぶしに意味もなく自室の窓から空を見上げていた。

 そんな時だった。突如として世界中に膨大な謎の光が空から人間の暮らす地上に降り注いだ。



 「なんだ。あの光は。早くお母さんに伝えないと」



 小さな少年は好奇心に駆られ自室を飛び出し、両親のいる部屋へと走って向かった。そして、その部屋の扉を開けるとそこには両親が布団をかぶりながら、もぞもぞとまるで新種の生命体のように動いていた。


 

「ママ。お外で、お星さまが降ってきてる。早く窓の外みて。」



 両親は子供の前で布団から出ることができなかったので、顔だけを布団の外から出した。そのため、男の子は部屋のカーテンを開け両親に外の様子をみせた。そして二人は同時にこう言った。

 


「カーテンを今すぐに閉めろ。」



 そして母は窓側に近い位置のベットにいたので、恥を忍んで息子が開けたカーテンを布が今にも破れてしまいそうな勢いて閉めた。それを見た子供はこう言った。


「wow《ワーオ》」

 


 母は謎の光よりも自分たちの夜の営みが近隣の人に知られるのを恐れての行動だったが、その思いとは裏腹に、謎の光を撮ろうとした新聞記者の写真にその様子が写りこんでしまい、それが新聞の一面に掲載されてしまうのだった。

 そのような笑える事件を引用し、この謎の光が降り注いだ事件はファンブル(性的なチャンスを逃す)事件と呼ばれるようになった。



 そして世界中の科学者がその光の正体を調べた結果、一人の日本人による、現実離れした発見――人類は魔法を使えるようになった――が、瞬く間に世界中の人々を震撼しんかんさせた。突如として現れた謎の光が魔法を使えるようにした原因は定かではないが、この発見により人類が進化の階段を二段、三段飛ばしに駆け上がったことは明らかだ。

 その発見に伴い、様々な魔法が世界中の研究機関によって開発されるようになり、その多くが軍事目的の用途に応用されるようになった、、、、

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