異世界探査研究用人型非人道最終決戦兵器俺

摂津守

俺、異世界探査研究用人型非人道最終決戦兵器にさせられる。

 営業帰り、セミすら黙らせるほどの酷暑の昼の街を、汗ダラダラで生ける死人のごとく歩いていると、突然全身黒尽くめの、まるでテレビ番組逃◯中のハンターみたいな格好をした怪しげなおっさんがニコニコと話しかけてきた。


「そこの君! いい身体をしているね! 改造人間になって異世界に行かないか?」


「えへっ?笑 いいっすよ笑」


 ジョークだと思った。昨今流行りのユー◯。ーバー的な何かだと思った。


 しかし、それが運の尽き。


「許可を得た。よし、やれ」


「「「「イエッサー」」」」


 黒尽くめのおっさんの一言で、物陰からこれまたおっさんと同じ格好をしたたくさんの黒尽くめ集団が現れ、俺の四肢をガッチリとホールドし、俺は抵抗することすらできず、黒尽くメンズに一瞬にして担ぎ上げられてしまった。


「え゛。なッ……!?」


 突然の拉致である。

 日本海側でもないのに。


「ぎゃーたすけてー!」


 こんなところで白昼堂々拉致られてたかまるか。しかしオレの心からの大絶叫は虚しく響き渡るだけで、黒尽くめたちは俺をあっという間に白昼堂々と、これまた黒のワンボックスカーへと拉致った。

 ちなみにワンボックスの車種はハイ◯ース。今日本で一番拉致するのにアツいマシンだ。


 拉致られた人間を乗せてワンボックスが走り出す。行く先もわからぬまま。


「殺さないでー! 殺すにしても優しく殺してー! キリング・ミー・ソフトリー! キリング・ミー・ソフトリー!」


「おらァッ! この三下のチンピラがぁっ! 今さら暴れるんじぁねーぞアホぉ! 公務執行妨害と契約不履行で一族郎党死刑になりたいのかぁ!? おーん!?」


「ひぃっ……!?」


 ちょっと前までのニコニコ顔はどこへやら、仁義なき戦いも真っ青なマジブチギレ顔のおっさんにビビりまくりのチビりかけた俺はもう黙って頷くしか……って、公務執行妨害!? こいつこのナリで公務員!?


 いや、そんなわけない。善良な一般市民を拉致監禁恫喝する公務員なんていてたまるか。


「おーん? お前疑ってんな? 俺ぁ立派な桜田門組よ? 証拠見せたらぁ」


 そう言っておっさんが取り出したるは、かの桜田門組御用達しのニューナンブ。ピタリと俺の額にくっつけられた銃口がやけに冷たくて死の肌触り。


 なるほど、どうやらマジもんの公務員らしい。


 どっかの誰かが言ってたな。日本最大のヤクザは警察だって……。


 銃口を突きつけられ、抵抗する意志をアロンアルファでも修復不能なレベルでポッキリと折られた俺は、それから体感3時間、実測値約30分の、ビッグサンダー・マウンテン顔負けのスリリングなドライブを経てたどり着いたのは郊外の謎の施設だった。


 パナウェーブ研究所? もしくはサティアン?


 国家と危険新興宗教の癒着が頭の中をよぎる中、車を降ろされた俺は四方をがっちりと黒尽くめんメンズたちに囲まれ、ときどきおっさんに小突き回されながら歩かされた。


 10分後、俺は謎の台の上に大の字に寝かされていた。

 天井やら周りで多種多様な光がピカピカチカチカしている。


 この状況に凄いデジャヴを感じる。

 昔の特撮であったような……ああ、わかった。仮◯ライダーだ。改造手術シーンがまさにこんなんだったような――


「お目覚めかね? 被検体第908号くん」


 突然、部屋中に声が響き渡った。

 固定されて自由度が少ないながら頭を左右上下に向ける。

 ふむふむ、どうやら被検体第908号くんっぽいやつは俺以外にいなさそうだ。ちなみに被検体908号くんが俺だとしたらお目覚めの意味はよくわからない。だって拉致られてからこの方、約40分間に一回も寝ていないし、それどころじゃなかったし。


「おらァッ! 答えんかい! 総理大臣閣下直々のお言葉がけじゃい!」


「は、はいぃっ!!」


 耳をつんざくおっさんの声に、人生で一番大きなイエスを口にした。


 ん? 今総理大臣閣下って言ったか?


 パッと天井が急に明るくなったと思ったら、天井一面に我が国の総理大臣のいい歳してとっつぁん坊やな赤ら顔が映し出され、俺を直上からたっぷりと見下ろしてきた。


「そ、総理大臣……石橋ゲル!?」


「てめぇ誰に口を聞いてんだぁあぁん!? 閣下をつけろよデコ助野郎!」


「は、はいぃ! 石橋ゲル閣下殿でした!」


「ゴリ、あまり可哀想なことをしてやるな。彼は鳥の餌にも等しい備蓄米ごときをありがたがる下賤の下級国民ながらも我が国のために命を捧げんとする立派な志を持っておるのだ。一寸の虫にも五分の魂。たかだか増税ごときで阿鼻叫喚するようなたとえ虫けら並の取るに足らない存在であっても大切な人身御供であり人柱。最低限の敬意を払ってしかるべきだよ」


 もの凄い言われようである。くっそー上級国民め。今度からは絶対に選挙に行くことと、やつらの政党には投票しないことを固く心に誓った。


 いや、そんなことより気になることがある。


「あの~、人身御供とか人柱とか物騒な言葉が聞こえてきたんですが……」


「そうだ。君は今から改造手術を施され人権を剥奪され、異世界探査研究用人型非人道最終決戦兵器となるのだ。下級国民の分際で国家に貢献できることを誇りに思い給え」


 石橋ゲル閣下からのありがたいお言葉である。

 もちろん俺は抵抗するで? 言葉で!


「ちょっ! 待っ! 待て待て待て待てーい! なんで俺がそんなわけのわからんものに!? 政府の陰謀だ! 法治国家にあるまじき暴虐だ! こんなことが許されていいのか!? 人権侵害だ! 国連に訴えてやるぅ!」


「フハハハ! 下級国民はやはり愚かなり! 国家が本気を出せば国連なんか目じゃないのです! 今もどこかで空爆があり、今もどこかで民族浄化が進行中! 人権なんざただのお題目ぅ! 止めたきゃかかってこいや国連め! 政府の陰謀? 法治国家の暴虐? ノンノンノン! 俺が国家! 俺が政府! 俺こそ第1XX代内閣総理大臣石橋ゲル! 天に代わってお仕置きよ!」


「な、なに言ってだこいつ……!」


 我が国の総理大臣は結構キてるらしい。

 関税やら選挙やら色々あったからなぁ、心中お察しします。ざまぁみろ。


「最上級国民たる内閣総理大臣は暇ではない。それでは失礼させてもらうよ。下賤な下級国民の分際で私と口がきけただけでもありがたく誇りに思うのだな。フハハハ!」


 モニターの中の石橋ゲルはバサーッ! とマントをなびかせて背を向けた。マントってあんた……つくづくマジかよ……。


 いや、呆れ返ってる場合じゃない。


「ちょ待てよ! めちゃくちゃだ! こんなの横暴だ! 国家権力の濫用だ! このままで済むと思うなよ! 我魂魄百万回生まれ変わっても恨み晴らすからなー!」


 もう聞いちゃいなかった。返事はないし、ちょ待ての時点でモニターはぷっつり切れていたし。


 政治家はみんなそうだ。国民の声なんか聞いちゃくれないんだ。だからみんな、選挙に行こう。国民の声を一票に! 俺も今度からはちゃんと行くからさ!


 国民一人ひとりが政治に参加することの大切さを心に刻んでいると、足元の方からウィーンと音がした。続いてたくさんの足音。誰かが部屋に入ってきたらしい。


 彼らが俺を取り囲んだ。見たところ緑色の手術着を着ているから医者っぽい。なぜ断言できないかというと、それぞれの手には手術器具ではなくトンカチやカンナやカッターナイフや斧があったから。


「あ、あの……改造手術をするんですよね?」


「その通り」


 医者? の一人が答えた。


「それで?」


 俺は目線で医者? の手にあるトンカチを示した。

 恐ろしいことに医者は頷きやがった。


「おいおいおいおいおい! 手術のことを日曜大工かなんかだと思ってらっしゃる!?」


「安心しろ。弘法筆を選ばず。我々の手術の成功確率は50%以上だ」


「いや、厳しいって! その成功率マジで危機感もったほうがいいって! スパ◯ボじゃ当たんないし、ファイアーエ◯ブレムでも信頼ないって!」


「仕方がないだろう、予算がないんだ。ま、見てくれは悪いがちゃんと手術できるから問題ないのだ。さ、麻酔のユリコさん。こっち来て」


「そ、その人が麻酔科医……!?」


「何か問題でも?」


 問題大アリだ。ユリコさんというのはでっぷりと太っていて何やら嫌な匂いが漂う腐りかかった妖怪みてーな、嫌悪感の擬人化的ババアだから。その傍らには緑の布がかかったトレーが。あれが麻酔器具か?


「君、我々はプロだ。安心したまえ。手術に痛みはないし、麻酔が効けば恐怖心も消える。そしてユリコさんの麻酔は昇天級なのだ」


「麻酔で昇天って物騒すぎるんだけど!?」


「ユリコさん、スタンバイ!」


 ユリコさんはニヤッと笑って、トレーの布を取り払った。そこにはニンニク、ニラ、玉ねぎ、納豆、キムチ、くさや、ドリアン。それを手づかみでむしゃむしゃと貪り始めるユリコさん。


「ま、まさか……麻酔の方法って……!」


 そういえばさっきユリコさんが笑ったときに見えた口の中は非常に汚かった。食べかす、虫歯、歯槽膿漏だらけだった。そして同時に異様な口臭が漂ってきた。


 ユリコさんの麻酔ってまさか口臭――


「効くぞ~ユリコさんお麻酔は。さ、イッちゃってください!」


「ぎゃー! やめろー! 俺はそういう趣味はないんだ! ババアとなんていやー! つーか匂いが既にイヤー!」


 抗議も虚しく、ユリコさんがのしかかってきた。

 そしてマウストゥマウス。


「ぐdjさmつぁエイあsgさdjが」


 もはやそれは匂いというレベルを越えていた。

 脳に直接働きかける未知のなにかだった。

 俺の感覚は一瞬にしてバグり、意識が遠のいた。




 気がつけば俺は……俺は誰だっけ?

 そして、ここはどこ?


 目の前には見知らぬ世界が広がっていた。

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