第28話

「変な色の噴水…本当にあったよ。アーノルドさんが言うにはアレの近くならモンスターが出現しないし、入ってこれないはずだが…」


正直言ってアーノルドさんが言っていた噴水広場の件だけは半信半疑だった。何せ一年間もなるべくこのダンジョンに潜ってはいるがこのボスエリアと同じく見た事も聞いた事もないからだ。


「もしかして、このダンジョンの仕様がそんな感じなのかもな…」


ダンジョンは人と同じだ、ダンジョンによって必ず何処が他のダンジョンと違う。多分今までこのダンジョン以外だとギルドが作った実地試験用の擬似ダンジョン施設に入ったくらいだから気づかなかったが、あの噴水広場はこの階層ではボスエリアの後ろにしか配置されていないのかもしれない。


「…あれ?そう言えば腹が減ったけれど今何時だ?」


俺はそう言いつつ広場に向かって歩く、すると広場に入った途端に競り上がっていた道が塞がる。これも多分この階層の仕様なんだろうと考えつつ、俺はドッグタグに収納していたスマホを取り出して画面を見る。


「…19時30分!?…しまった、CWDタイプのダンジョンは太陽の光が入らない閉鎖空間だから時間の感覚が狂うのは自覚していたけれど、ここまでガッツリダンジョンに潜っていたのは初めてだから時間感覚がズレてたわ…」


俺はスマホの画面に映る時間を見て唖然とする。確か入ったのは朝方で、お昼に乾パンと野菜ジュースを食べた時は13時…そこからノンストップで探索していたから大体10時間はダンジョンに潜っていた事になる。正直ビックリした、何時もは長くても大体6時間位しか潜っていないのに、それを4時間もオーバーして潜っていた事実に対して俺はいつも通りの感覚でいたから17時位だと錯覚していた。


「…取り敢えずコンテナを出して回収した物と食料品を出そう。明日に備えて準備しないとな」


俺は正直驚きつつも、明日はいよいよ2層に挑戦する方が大切だと何とか割り切った。そして宿泊用のノアとコンテナを2つ出して準備を始める。

 


〜〜 1時間後 ノアの車内 〜〜



「あちち…電子レンジと専用の容器があれば簡単にミートソースが食べられる。いい時代だな」


俺は全ての準備が終わった後にノアに乗り込み、シャワーを浴びてから夕食の準備を始める。今日の夕飯は持ち込んだ電子レンジを使って作るミートパスタ、電子レンジで茹でる専用の容器と電子レンジ対応のソースがあるから手軽に作れる。企業努力様々だ。


〈こちらとしてはパスタよりも一層をこんなにも早く攻略した雄二に驚きを隠せないでござるよ〉


「そう言ってくれるなよ、ただ今回は1日で見つかる距離にあっただけだ…二層はこうはいかないだろうな」


俺はパスタを食いつつスマホで武蔵とビデオ通話をしている、武蔵はまさか俺が一日で一層を攻略した事に驚いていたが…正直二層からは間違いなく違うだろう。


〈それなんでござるが、実はネット情報だと二層は『廃鉱山の坑道』らしいですぞ?〉


「マジか、それが真実なら色々ヤバイな」


そんな感じに考えていると、武蔵が画面内でキーボードで何かを操作しつつそう教えてくれる。メタルリザードみたなモンスターの情報は少ないが手に入る、だが階層全体の情報はネットでの配信か有料サイトで情報を購入するかでしか確定した情報は手に入らない、だからその情報が確かならばかなり危険な可能性がある。


「落石、地盤沈下による割れ目、蝙蝠みたいに超音波で獲物を探すモンスター、モグラみたいに穴を掘るモンスター…少なくともメタルリザードはいる。それしか分からないが他の要素を軽く予測した程度だとこれくらいかな?」


〈ふむ、妥当な所でござるな。後は地震とゴーレム系のモンスター、ゴブリンなどの小型のモンスターを想定していれば完璧でござる〉


「あ、それもあるか」


俺はパスタを完食してから武蔵とそう話す、武蔵は本当にいい奴だ。俺の気の許せる親友としても、ダンジョンでのアドバイザーとしても優秀で助かる。そう思いつつ話すと武蔵は一旦メガネを取り、メガネ拭きで拭いてから再度メガネをかけてからこちらを向く。


〈雄二、調べた結果が出たでござるよ。【超癖っ毛ヘヤー】のスキルカード、かなり需要があるですそ。主に頭が残念な方にでござるが〉


「…マジ?使ったら髪の毛は抜けないし脱色しないが最低でも髪型が一生パンチパーマになる厄物だぞ?」


そして武蔵に調べてもらった事を言ってくれたのだが…なんか【超癖っ毛ヘヤー】のスキルカード、かなり需要があるらしい。

武蔵の説明だとこのスキルカードを使うと、例え頭の毛根が死滅してようが問答無用で髪の毛が生える。だから病気で頭の毛を無くした人や頭の毛が薄い人とかにかなり人気がある、例えそれが使えば髪型が確実に一生パンチパーマ、最悪一生アフロヘアーになるとしても…だ。


〈だから出す人は億は出すみたいですぞ?実際にギルドの買取価格も4000万とかなり高額ですな。髪型が自由に変えられる【うるおいヘヤー】なら億は硬いでござるらしいが〉


「…何処に需要があるか分からないもんだな、武蔵」


〈で、ござる〉


俺はそう言ってノアの天井を見る、正直需要なんてないから捨てるか悩んでいたが…マジで何が人気になるか分かったもんじゃない。俺はそう思ったのだった。

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