第8話 ゲームと悪役
「どうしたんですか、パスカル様。やつれていますよ」
「うるさい」
「はうっ」
あの後、朝食をとって居間で物思いに耽っていた。
リンファさんはどうでもいいんだ(いつものことだし)。今問題なのは……
「……それに、何だかアイリス様と距離が近いですよね」
「あら、そうですか? それは失敬しました」。
そう、アイリス。アイリスが問題なのだ。
「それで、今日は何をなさるんですか?」
「……ん、あ? 今日、今日な、まだ決めてない」
「……大丈夫ですか?」
「……」
多分大丈夫じゃない。
絞り尽くされた疲労と隣で抱きついてる(結局ポジション変わってない)アイリスに関する心労でどうもこうもいかないのだ。
この世界がゲームだというのは分かった。随分とアバターのポリゴン多いなとか、僕がゲームのキャラクターに憑依したのはどういう原理だとか、そんなこと考えてはいけない。
重要なのは僕が憑依したのはゲームのキャラクターだということだ。
そして、あのステータス。何かおあつらえ向きじゃなかろうか。
この世界はゲームの世界だ。それならシナリオがあるんじゃないか?
そして、才能を持て余した傲慢貴族なんてゲームの悪役にピッタリじゃないか。
つまり、僕が言いたいのは……幸運の値がマイナスに突入しているのは、ゲームのシナリオで悪役だからじゃないかということだ。
だが、ゲームのシナリオで悪役だと何が困るかという話になる。これは話を原作通りに進めたら確実に自分は破滅するというところだろう。
仮にこのゲームの世界にシナリオがあったとして、舞台となる場所は心当たりが二つある。
一つは優秀な冒険者や軍人を輩出する王国切手のアラバンダ学園、もう一つが貴族だけが通えるビリバンダ学園だ。
男性向けゲームなら主人公は平民のはずだ。なら、学園に通える庶民がいないといけない。その中で有力な候補といえばアラバンダ学園しかないのだ。(イエメールくんの記憶によれば)
しかし、必ずしも男性向けゲームとは限らない。ここで盲点なのが、この世界が女性向けゲームの世界だという可能性だ。
その場合、主人公は平民か貴族に絞られる。そして、華やかな学園生活を謳歌するなら貴族が基本的に通うビリバンダ学園が最も有力だろう。
ただ、そうなると悪役が男性というのはいささか齟齬が出てくる。普通、女性向けゲームの悪役は女性なのだ。
だから、現状で有力なのは……
「アラバンダ学園……」
「どうしました?」
「アラバンダ学園ですか。確か冒険者になりたい人が集う、貴族なども通う学校でしたっけ」
「それがどうかされたんですの?」
「ああ、いや……」
ただ、これは仮定に過ぎない。
その上、仮にそうだとしても、それならアラバンダ学園に通わなければいいだけの話なのだ。
品行方正、家で引きこもりライフを満喫していたらそれでいい。もしここに主人公たちが訪れるシナリオだったとしたら……どうしようかな。
まあ、いい。むしろ問題は今日取得してしまったユニークスキルの方だ。
────────────────────────────
〈巫女との契り〉:帝国の巫女と結ばれた証。
何があっても結ばれないといけない。
違えると死ぬ。
────────────────────────────
これがあるせいで事態がおかしくなっている。
まずそもそも「違える」とは何を指すのだろうか?
不貞行為? 一緒にいないこと? 結ばれなくなるとは何だ?
条件が曖昧すぎる。
それに、この説明文に記載のある帝国の巫女。これはおそらくアイリスさんのことだ。
「……?」
「……」
可愛いお顔が至近距離にある。疑問に溢れた無垢な顔が余計に可憐だ……っ。
この真性純粋銀髪サキュバスが帝国の巫女というのが死ぬほど不味い。絶対に手を出しちゃいけない相手筆頭だ。
でも、もう手を出しちゃった。
「どうすっかなぁ……」
「パスカル様が悩まれている……珍しい」
「このアイリス、手伝えることがあったら何でもしますわ!」
「……」
アイリス、今君のことで悩んでいるんだ。僕、どうしたらいいかな?
「アイリス、ここにいろ」
「はい、一緒にいますわ。イエメール様♡」
「……」
多分意味わかってない。ここにいろっていうのはずっとってことなんだけど、多分無理だよなぁ……帝国の巫女なわけだし。
でも、そうなると〈巫女との契り〉がどんなふうに判定するか分からない。もしかしたら離れるだけで一発アウトな可能性もある。
本当に、どうすっかなぁ……
◇◆◇◆◇◆◇
昨日と同じように満点の星空をアイリスと見る。
隣にいる彼女の横顔は、月光を浴びた白百合のように綺麗だった。
「お前は本当に綺麗だな」
「……突然、どうしましたの」
「思っただけだ」
「やめてくださいまし」
「……」
白銀の肌を林檎のように真っ赤に染めたアイリスさんが、こちらを垣間見るように覗く。
「照れてしまうではありませんか」
「……いじらしいな」
「あっ♡」
彼女を抱き寄せる体で胸を揉んだ。アイリスさんは満更でもない顔をしていた。
「……どうして、ダンジョンに行きたいだなんて思ったんだ?」
「え?」
「だって、普通は女が近寄るところじゃないだろう。あそこは」
「……そうですわよね。わたしは少しおかしいのかもしれません」
「……」
おかしいのは貴方の美貌と魔性です。
「……笑わないでくださいな」
(そんな、絶対笑わないよ!)
「はっ、すこぶる愉快な内容だったら大手を振って笑ってやる」
「……」
ああああああああ、こんな時に限ってええええええ!
「……王子様に助けて欲しかったんですの」
「は?」
「ほら、ありますでしょ!? こう……ダンジョンで路頭に迷った姫を助ける王子様の話が」
「まず姫はダンジョンなんて行かないし、そう都合よく王族同士が鉢合わせたりしない」
「うう……そうですが」
なんて夢のないことを言うんだ僕は! それでも15歳か!
あっ、15歳だから捻くれてるのか。じゃない! 限度がある!
「それでしたら、イエメール様はどうしてあの場にいたんですの?」
「俺は……単なる暇つぶしだ」
「暇つぶし?」
「そうだ」
「……んふふ、んふふ」
「何がおかしい」
「だって、暇つぶしで【アビゲール】を倒してしまったんですのよ? 笑いたくもなりますわ」
「……周りの奴らがとやかく言うが、あんな雑魚騒ぐほどでもないだろう」
「そんなことありませんわ」
彼女の真剣な態度に僕は今の今までアイリスの左胸を揉んでいた手を止める。
すると、彼女は一転柔和な笑みを浮かべて「続けていいんですのよ?」と笑った。
やべえ、アイリスマジ天使。マジサキュバス。マジ堕天使。
「私の故郷は一度、【アビゲール】の手によって半壊いたしましたから……」
「……そうだな」
「まあ、大昔のことですけどね」
そう言って笑う彼女は寂しげだった。
知っている。帝国は一度、【アビゲール】の手によって滅んでいるのだ。
滅国の使徒、荒野に佇む死神、巷ではそんなふうに呼ばれている。だから、あの時エンカウントした時も最悪の相手に絡まれたなと思ったわけだ。
ところで、この胸を揉むのいつやめたらいい? この雰囲気で胸を揉んでるのシュールなんだけど。
「……お前は俺が守る」
「はい♡ イエメール様♡」
「今はいい」
「……イエメール♡」
やっぱやめた方がいいよね? めちゃくちゃいい雰囲気なのに胸揉んでるせいで台無しなんだけど。ねえ? だれか──
「さ、寝室に参りましょう」
「……アイリス、今日は」
「あら、怖気付きましたの?」
アイリスの悪戯っ子の笑みが僕の心と下半身に突き刺さる。
瞬時に僕のお稲荷さんはポークピッツからホットドッグ用ウインナーに成長した。
「良いだろう、朝まで泣かせてやる」
「きゃっ♡」
……結局、朝まで搾り取られたのは僕の方だった。
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