十二 鉄塊
結局、
綺麗な緑の芝生が生い茂っていた庭の至る所に土砂が運び込まれていた。
「何で最初からこうしなかったんだろう……」
工事の様子を見ながら自室の窓辺でぼやく大和に、
「にゃははー……。まあ
「あんたねえ……。絶対同情してないでしょ!」
大和が大泣きしたあと、信長はさすがに悪いと思ったのかスマホをちゃんと返してくれた。もっともSNSのアイコンやアカウントはそのままで、それが大和の心に暗い影を落としているのだが。
「こんな
大和は自身のSNSのプロフが表示されているディスプレイを冷めた目で眺めて素直に思う。
【
改めてプロフを見て
首を刎ねるなんてプロフに書いてよく凍結させられないものだ。このSNSの運営の目は節穴なのか、それとも緩いだけなのか。
「あーあ、あたしのアカウント、髭に乗っ取られちゃった。せっかく芸能界デビューに向けて頑張ってたのに」
ちなみにフォロワーは一日で100人ほど増えて616人だ。信長効果はてきめん。
「でもさ、ほとんどフォロバしてないのにその数はすごいと思うよ」
大和の机を借りてノートパソコンのキーボードをタイプしていたレックスが言った。
レックスは椅子の背もたれに手をかけて上体を
その時部屋のドアがノックされ、
「皆さーん! 私もアカウント作りましたよー!」
「はあ?」
大和が変なところから声を出す。
「
疑問を投げてきた奏多に乱はオホン、と咳払いをしてから、
「……上様によれば『SNSは立派な武器である……!』とのこと。ならば私もその新型の武器を使わないわけにはいかないでしょう!」
凄みを
「あんた。いつの間にそんなポーズ覚えたの」
大和が半眼で
「上様の学習速度の速さを見ていたら、『私だって!』という気持ちになってくるんです。ちゃんと時代に
いつの間にか横文字もお手の物だ。乱はスマホを白のパンツのポケットから取り出すと、大和に差し出してきた。
ディスプレイにはSNSのアカウントのプロフ画面が表示されていた。大和が目を見開く。
【らんまる】
上様の為なら西へ東へ、東へ西へ!フォロー返しはあまり行っておりません(*ノωノ)
「蘭丸……これ……!」
「えへへ、どういうわけか皆さんが『蘭丸』って呼んでくださるので『らんまる』にしました。何か……愛称みたいで嬉しくって……」
乱が照れ笑いを浮かべながら鼻の頭を人差し指の腹でこする。
「そうじゃなくてこのスマホどうやって買ったの」
「…………」
大和の言葉のボディーブローに場の空気が凍った。乱は照れ笑いを浮かべたまま固まっている。どれだけの時が経過しただろうか、乱が大和の手からスマホを素早く奪い取って入り口のドアへ歩き出した。
「ほな」
「『ほな』じゃない‼ どうせあたしの口座から勝手に下ろしたんでしょ‼」
乱は手で口を覆って悲しそうな顔を作った。
「いくらなんでも心外です大和殿! 私はそんなことしていません! 私の眼を見てください、嘘をついているように見えますか?」
澄んだ両の眼を大和に見せつけてきた。
「見える」
「あちゃ、バレましたか」
「入るぞー!」
信長が半開きになっていた入口のドアをドカンと開けて入ってきた。
「大和! 貴様の口座からスマホ代を払ってもいいか屋敷の者に訊いたところ、
もはや大和は声が出てこなかった。
とりあえず分かったのは屋敷の人間は無能ぞろいだということ。
色を失った大和を差し置いて、ノートパソコンを操作していたレックスが伸びをした。
「ふうっ、蘭丸ー? 近場の自動車教習所とかの調べものなんだけど」
「おお、レックス殿ありがとうございます!」
部屋の中を驚きが包み込み、奏多が小首を傾げる。
「きょ、教習所ー? 蘭丸さん、あなた教習所で何するつもり?」
「もちろん免許を取って車を運転するんじゃないですか」
さもありなんと表情を変えずに答える乱。
そんな乱の背中を信長がばっしばっし叩きながらニカっと笑った。
「こいつが
まだこの戦国大名は飛行機や新幹線の存在は知らないらしい。
「で、あとは免許取得後に乗る車なんだけどさ」
レックスがマウスを動かして車の画像を出す。
「ちょっと待って! もうそんな後のことまで! 免許取ってからにしようよ!」
反対意見を述べようとした大和に、乱はその小さな胸を張った。
「安心してください大和殿。私は優秀なんです。免許の二百や三百、簡単に取ってごらんにいれますよ!」
「二百や三百も取れなかったと思うけど……! てか住民票とか身分証明書は? SNSでアカウント作るみたいに簡単じゃないんだよ⁉」
「あー……」
そう言ったっきり沈黙した乱は——ちらと信長に視線を送った。
信長はニンマリと顔を
「心配には及ばん。余がちゃあんと根回しして何とかなるようにしておくわい! とっとと
「すごい悪党だね……『
奏多の呟きも納得のいくものになってしまった。
——それから約二か月後。
乱は本当に車の免許を取ってしまうのだった。
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