第4話・日常風景

さて、ここいらで一度物語の世界観を軽く説明しなければ流石の読者も困惑のあんまりに物語を堪能出来ないと思う。


なので、少しばかり話そうか。


勘のいい読者様なら薄々気づいたかもしれない、勘の悪い読者様も何気に気になっていたと思う。


死人が生き返り、金銭の価値が失われ、0時には何かが起きる。


その全ては今のこの世界の異常さを示しており、本来の世界なら有り得ない事ばかり――と。


そう、その通りである。


今のこの世界は異常だ、ただ一つの異常が全ての異常を平常にした。


本来の世界をリアリズムの小説に例えるなら、今のこの世界はまさに現代ファンタジーそのもの。


全ての始まりは2024年12月24日――クリスマス・イヴ。


世界は、この日を境に終わったとばかりに明日がやってこなくなった。


何の前触れも前兆もなく、気付けば今日が永遠になっていた。


0時になる度に世界は12月24日を繰り返す。


24日に食べたパンは24日が始まる時にある場所に戻り、その日に壊れたものもその日に始まる時の状態に戻る。


組み立てたものも組み立てられる前に戻り、怪我や死もなかった事になり。


全てが24日が始まる時の状態に戻る。


全てが24日の状態を繰り返していく。


記憶だけは持ち越したまま。


それがきっと一番の不幸だろうと、シュエが語った。


いっそのこと、記憶もまた繰り返していれば、と。



「うわ~…またやってるよ~」



今日も変わらず、雪の降り注ぐ街。


だけどいつもと違うのは俺が別の女の人と一緒に歩いている事、しかも腕を組まれた状態で。


別に浮気でもなければそもそもシュエとは恋人ですらない。


なのに、なんだろう…


謝ろう、素直に。


シュエの好きなチョコレートスイーツを持って。


大丈夫、何だかんだシュエはちょろいだから直ぐに謝ればきっと素直じゃない言葉で全てを許してくれる。ツンデレみたいに。



「ね!聴いてる?」


「へァ!?」


「もう…ちゃんと話を聴いてよねー。」


「ご、ごめん。」



心ここにあらずで無視してしまったみたい、失礼な事をした。



「えーと、なんの話?」


「ん、あそこ。」



顎の動きで指した場所にはファンキーな格好をしている四人の若者達がいた。


彼らはいわゆるグラフィティアートを協力して作り上げている。


手慣れた動きで、色とりどりのスプレーを無遠慮に好き勝手にばら撒き、通った後の壁を無造作に時には綺麗に彩ってゆく。


単なる落書きかと思えば綺麗なものも描き、気分次第で手当たり次第。


0時になれば全てがリセットするのをいい事に何の遠慮もなしに街をキャンバスにした。


時々見かける光景、その四人の顔も何だかんだ見慣れてきた。


最初は怒る人もいるが、結局また今日が始まれば白紙はくしならん白壁はくへきに戻るからいつの間にかただただ呆れるようになっていただけ。


日常風景のようなものだ。



「よくもまぁ…飽きずにやれるわね…」


「――元気いっぱいで何よりだ、いつまでも続いてほしいものだよ。と、シュエが言ってたな。」


「あんたね……腕に別の女が居るのになんで堂々と他の女の話しができるわけ?」


「えっと…ごめん。」



どこか拗ねた様子が少し可愛くて、シュエを連想させる。


いや、待った。


離れて直ぐこれか?目の前にはコートを纏といながらも程よく肌を見せている美人ギャルが居るのに。


似てもいない二人を連想させて直ぐにシュエのことを考える、これはもはや末期どころか毒されているのでは?


同じ手遅れでも病気ではなく中毒だこれ。



「…ところで、どこに行くんだ?」


「スパイス。」



…冗談だろう?


あそこに行くのか?本気で…!?



「いや、待って、そんな魔境に行きたく――」


「カッコイイ所見せてね♪」


「ホントに待って!?なにか勘違いしていない!?俺はそもそも荒事が得意じゃない…!」



どっちかというと頭脳派だ――とは、とても言えない…


だってシュエが居るのに頭脳担当だなんて、言えるはずがない。


例えばの話し、もし彼女を主人公に見立てて、彼女視点で推理小説を書くようなら犯人が登場するだけでこいつが犯人ですと直ぐに地の文でネタばらししないといけないくらい彼女は出鱈目に名探偵だ。


直ぐに真実を見抜いてしまうが故に扱いにくい主人公である。


それでもどうしても彼女を主人公にしたいのなら、語り手を別の誰かに、例えば俺のような助手役に任せるしかほかはないだろう。


それ程までに頭の出来視点が違う、でも、だったら俺は荒事担当かと言うともっと違う。


バット一本で拳銃持ちの荒くれ者共をしばきあげたのがシュエだ。


俺は精々銃がそこそこ扱えて、身体の動かし方を少し分かるくらいの一般人。



――そう、だから君は頭脳担当でもなかければ荒事担当でもない、ただの苦労担当。一生懸命私のために働き給えよ、パシリくん。



ああ、思い出すだけで腹が立って来た、いくら笑顔が可愛くて、声も可愛くて、仕草も可愛いとしてもそれは流石に酷すぎるだと思わないか?…事実だけれども。


でもやはり可愛いから許してしまう……可愛い暴君め…!



「またまた~謙遜しちゃって~」


「謙遜じゃない…!」



シャルロットの笑顔が眩しい…!頼りにされるのは嬉しいが、荷が重い。


どうも彼女は俺を過剰評価している…!


そんなに初対面の時にカッコ良かったのか俺?


にしても力強っ!?全然シャルロットの手を振りほどけない…!


いや待って、レストラン『スパイス』はマジでヤバいですって!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る