おっさんから始まる無双ライフ 〜スキル『シャドウマスター』は最強でした〜

フユリカス

1.運命の出会い

「――シェイド、前へ」


 司祭のやけに響く声が、俺の名前を呼んだ。

 今日は成人の儀式の日、1人前の大人としてようやくスキルが与えられる日だ。

 ここには俺の村出身のやつらが、この儀式のために集まり賑わっていた。

 俺もそのうちの1人というわけだ。


「ふうぅ――……」


 深呼吸して司祭の前に立つ。

 この儀式で授けられるスキルによって、この後の人生が決まると言っても過言ではない。

 村人として畑を耕すのか、それとも、街に出て冒険者として名を馳せるのか。

 そんなことを考えていると、緊張しないわけがない。

 司祭は厳かな顔で手を掲げながら俺に祝福の言葉を授け、与えられたスキルを読み解く。


 ――いよいよだ……!


 司祭の視線が俺を捉え、その口が開かれた時、俺の心臓は、まるで戦場に立つ兵士のように、激しく脈打っていた。


「……この者のスキルは――な、なに!? ……『シャドウマスター』!」


 シンと静まり返っていた教会が、司祭の驚愕の声によって、すぐに爆発的な歓声へと変わり、俺の鼓膜を打ち砕いた。

 俺はというと、驚きのあまり目の前が真っ白になり、次に、歓喜の震えが全身を駆け巡るのを感じた。


 なんせ『シャドウマスター』という、「マスタークラス」のスキルだからだ!


 与えられるスキルには、明確な階級クラスがある。

 下から順に『クラスなし』、『リーダー』、『エリート』、『ヒーロー』、『キング』……そして、俺が授かった最上級の『マスター』へと続く。


 その内訳は、『クラスなし』が全体の60%、『リーダー』が30%、『エリート』が10%ほど。

 ほとんどの人間が、この3つのクラスに分類される。


 しかし、それで全てが埋まるわけではない。

『ヒーロー』は0.1%、『キング』は0.01%、そして『マスター』は、さらにほんの一握り以下……0.00000001%だ。

 それは、1億人に1人しか存在しないという、まさに奇跡のようなスキルだった。


 つまり、俺は――、


「すごいな、シェイド!」


「マスタークラスのスキルだってよ!」


「ああ! 人生最高の日だ!!」


「勝ち組であると約束されたのだ!」と……。

 そう、この時の俺は、まさしくそう信じていた。


「……あれ?」


「どうしたんだ、シェイド? いや、マスター様って呼んだほうがいいか?」


 村の悪友どもが、俺をからかい始める。

 しかし、そんな彼らの声は、今の俺の耳には、ほとんど届いていなかった。

 頭の中には、奇妙な感覚が広がっていたからだ。


「あ、いや……なんで――も!?」


 突然、俺の記憶が鮮明に蘇ってきた。

 俺が元々日本という異世界の人間だということ。

 そして、交通事故で命を落とし、この世界に転生したこと。

 要するに、俺は異世界転生者だったわけだ。


「おい、シェイド、大丈夫か?」


 悪友の1人であるマークが、さすがに心配そうな顔で声をかけてきた。


「あ、ああ! 大丈夫、大丈夫。ただ、あまりにも驚いちゃったからさ!」


 マークはが、「まあ、そりゃマスタークラス様だしな!」と、俺を茶化す。

 俺は笑って誤魔化しつつも、内心では「チートスキル来たアアア!!」と、歓喜の叫びを上げていた。


 ――が、人生最高の日は、ここで終わりを迎えることになった。


 その夜、俺は当然のように『シャドウマスター』を試し尽くした。


「『シャドウ』、現れろ!」


 すると、俺の影がゆっくりと立体化して、俺の前に立ち上がった。

 自分の影が具現化した存在、俺はそれが嬉しすぎて『シャドウ』と名付けたほどだ。

 だが、初めて見たその姿は、俺の期待を大きく裏切るものだった。

 動きは鈍く、力もなく、まるで操り人形のような木偶の坊。


「なんだよ、これ……嘘だろ……」


 それから、何日も練習を重ねたが、まったく使い物にならなかった。

 少なくとも、戦闘では囮で使えればいいほうと言えるくらいの代物だった。

 そして、当然、そんなことはすぐに村の連中にバレてしまい、


『え、これでマスタークラスのスキル?』


『俺の『クラスなし』スキルのほうが、よっぽど強えーじゃん!』


 と、まぁ散々だったわけだ。

 そんな状況に嫌気が差した俺は、すぐに村を飛び出し、街で冒険者になることにした。

 まあ、どうせいつかは街に出て冒険者になろうと考えていたから、少しばかり予定が早まっただけだ。


 マスタークラスという肩書きのおかげで、冒険者としての登録は、何の問題もなく完了した。

 辺鄙な街には、キングクラスどころかリーダークラスすら珍しい。

 だから、俺には多くのパーティーから勧誘が殺到した。

 たが、全員『シャドウ』の実力を知ると、次々と失望し、俺をパーティーから追い出した。


『――すまないが、君のスキルは我々には役立たないようだ』


『――もう、来なくていいから』


『――マスタークラスだからって特別待遇で迎えたのに、リーダー以下の実力って詐欺かよ!』


 その度に心が折れそうになったが、俺は諦めなかった。

 ソロで地道な依頼を受け、時には『シャドウ』と一緒に依頼をこなしていった。

 薬草採取では『シャドウ』に手伝ってもらい、低ランクの魔物には『シャドウ』が囮となって、魔物を引きつけることで俺が倒す成功率は上がった。

 ま、なんだかんだで上手くやってこれたほうだ……周りの声さえ聞かなきゃな。


「――そんなこんなで、もう俺も30かぁ……。『シャドウ』、お前のおかげでなんとかやっていけるよ」


 俺は薬草を採取しながら、隣にいる『シャドウ』に話しかけた。

 『シャドウ』はいつものように答えることはなかったが、俺とともに確かに歩み続けてきた。

 俺がこれまでの昔のことをしみじみ思い返していると、


「――!」


 森の奥のほうから、誰かが戦っている音が聞こえた。

 しまった、今日は少し奥に入りすぎたか。

 俺がその場から移動しようかと考えていると、


『――グルウオオォォォーッ!!』


 身体がビリビリと震えるような、魔物の咆哮が聞こえた。

 ヤバい、ヤバすぎる。

 俺が冒険者になってから、ここまで一気に汗が吹き出した魔物の咆哮なんて聞いたことがない。

 俺はすぐにでも立ち去ろうとするも、


「くっ、俺が行っても……でも、もしかしたらまだ生きてるかも……」


 俺は迷った挙句、冒険者がまだ戦っているのか確かめに行くことにした。

 急いで声のほうへ駆けつけると、そこには、サイクロプスと対峙するフードを被った冒険者がいた。

 よく見えないが、どうやら魔法の杖を持っていることから、魔法使いということはわかった。

 だが、


 ――俺と同じソロかよ!?


 それは、明らかに自殺行為のように思えた。

 こんな森の奥深くなんて、普通はパーティーで来るのが当たり前だ。

 俺も大概だが、俺の場合は経験から比較的安全な場所で薬草採取していただけだ。

 こんな奴のように無謀なことはしない。


「――っ!」


 その魔法使いは火の玉を放ったが、サイクロプスの棍棒の一振りによって、あっさりと掻き消されてしまった。

 さらに追撃をしようとサイクロプスが棍棒を振ると、魔法使いはなんとか躱したものの、風圧で吹き飛ばされ、その小さな身体は木にぶつかって崩れ落ちてしまった。


「くそっ、このままじゃやられる……!」


 俺は、ダラダラと流れる嫌な汗を感じながらも、


「おい、こっちだ!! 『シャドウ』、あいつを引きつけろ!」


 大声でサイクロプスを振り向かせ、俺は『シャドウ』に命令する。

『シャドウ』は、ゆっくりとした全速力で、サイクロプスに向かっていく。

 サイクロプスが『シャドウ』に気を取られる間に、俺は魔法使いを助けるために走り出す。


「うおおぉぉぉぉぉ――ッ!!」


 俺は小柄な身体を担ぎ、一目散に逃げ出した。

 とてもじゃないが、命がいくつあっても俺が敵う相手じゃない。

 ある程度距離を取ったところで、チラリと後ろを振り返ると、『シャドウ』がワンパンで消え去る瞬間が俺の目に飛び込んできた。

 すまん、『シャドウ』。


「――ん……?」


「おっ。お目覚めか?」


 腕の中でぐっすりと気絶していた魔法使いが、ようやく目を覚ましたようだ。


「わ、わっ」


「っとと! 急に起きようとしないでくれ。今、下ろすからさ」


 俺は、驚いて立ち上がろうとした魔法使いを、ゆっくりと地面に立たせた。


「はぁ、はぁ……とりあえず、無事か?」


「……えっと、あなたは?」


「ああ、俺の名前はシェイド。ブロンズの冒険者だ。お前さんがあのデカブツに襲われてるのを見て、助けに入ったんだよ。命懸けでな」


 息を整えながら、フードを被った冒険者の方を見る。

 声からすると、どうやら少女のようだ。


「そういえば、サイクロプスに……危ないところを助けていただき、ありがとうございます」


 少女はペコリと頭を下げ、感謝の言葉を述べた。


「いや、確かに覚悟を決めて行ったけど、実際やったことは大したことじゃないしな。気にしないでくれ」


「いえ、そういうわけには……でも、お礼をしようにも、お金もありませんし、食べ物もありません。私にできることがあれば――」


「――うおっと!?」


 少女は、まるで糸が切れたようにふらっと揺れ、倒れそうになるのを、俺は咄嗟に支えた。


「おい、大丈夫か? どこか痛むのか?」


「いえ、そうではなくて……」


「なんだ。どうした?」


 なぜか言い淀む彼女に俺が聞き返すと、


「…………食事をここ数日とってないんです」


 小さな声で言った。

 フードから覗くその顔は、少し恥ずかしそうに赤らめていた。


「フッ、可愛い顔してるじゃないか。フードなんて被らなくてもいいんじゃないか?」


「え?」


 思わず口走って、ハッとした。

 これはセクハラに当たるだろう。

 久しく異世界でソロばっかりやっていたせいで、そこら辺の感性が鈍くなっていたようだ。

 だが、大きな緑の瞳と整った顔立ちを見れば、誰でもそういう気持ちになるだろう?


 ――後になって思えば、これはまさに、『運命の出会い』と呼ぶにふさわしい出来事だった。


―――――――――――――――――――――――


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