第227話・集う色達

「お待たせしました」

 ジャックはジョゼフの方に向き直る。


「待たせたのはジャックが悪いんだから・・・

 素直にわたしの要求を飲んでいれば、もっと早く終わったんだからね」

 ジャックの腕にしがみついて頭を肩の乗せながら、イアが文句を言う。


「無視して下さい」

 無言でジャックはジョゼフに語りかける。


 口に出して言えば、また墓穴を掘る事になるので口に出す事は出来ない。


 ジョゼフの方も理解したのか、無言で小さく頷く。


 執事には、時として主人が言葉に出さない言葉を読み取る事を要求とされる。


 長年執事を務めたジョゼフは、その能力にも磨きがかかっていたのだった。



「それで、ナイト・クラン・ウォーで使うプログラムの依頼という事ですが、ボクは触った事がないプログラムなのでなんとも言えないです」

 ナイクラで使われるプログラムは全てライセンス登録されていて、許可を受けたコンピュータでなければ動かす事も出来ない。


 一般人が気安く触る事が出来ない仕様だ。


「そうですか、ご無理を言って申し訳ありません」

 ジョゼフは諦め、頭を下げて席を立とうとした。


「触った事がないだけで、触ってみて出来るかどうか判断したいのですが」

 そんなジョゼフをジャックは引き留める。


「大丈夫でしょうか、急ぎと言う程でもないですが、そんなに待つ余裕もありませんから」


 ヴィオレットのクラン戦参加までには確実に、今、ヴィオレットの挑戦している事を出来る形に持っていきたいのだ。


「一度、そのプログラムを見てみたいのですね」

 出来るかどうかは、使うプログラムを見てみないと判らないのは当然の判断だろう。


「確かに、仰る通りですな」

 ジョゼフもジャックの言う事に一理あると納得する。


「こちらはいつでも構いませんが、お時間のご都合の方は?」

 早速予定を組みに入る。


「今日は買い出ししないから、夕食作るまでに帰れれば大丈夫だよ」

 イアが自分の予定をさっさと言ってしまう。


「あのな、ボクの予定を聞いてるんだぞ」

 ジャックが文句を言うが、


「わたしの協力必要なんでしょ?

 それとも手伝わなくていい?」


「ぐっ」

 イアの言葉に反論出来ず、ジャックは言葉を詰まらせた。


「えへへへへ、ジャックがわたしに口で勝とうなんて十年早いんだから」

 ジャックの肩にスリスリしながら、イアは勝ち誇る。


 その仕草は猫が甘えているようにしか見えないが、ジョゼフは何も言わずにジャックの言葉を待つ。


「それじゃあ、これから行っていいですか?」

 ジャックはイアのやりたいようにさせながら告げた。


 止めたいのはやまやまだが、一悶着起きるのは判りきっているので、ぐっと我慢したのだ。


「これからですか?

 はい、宜しくお願いします」

 今日の予定は立った、後は現物を見て貰うしか進めようがないのだ。


「じゃあ、お爺ちゃんに出かけるって言ってくるね」

 ジャックに張り付いていたイアが、さっと立ち上がるとパタパタと奥の方に消えた。

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