第224話・集う色達

「お取り致します」

 メイド達がサラダサーバーを使って、サラダを取り分けてくれる。


 取り分けたサラダに、メイド達の手によってタルタルソースがかけられていく。


 メイド喫茶のメイドさんではなく、本物の一流のメイドさんによってだ。


「おおっ、これがあの有名メイドさんによる美味しくな~れか?」

 うかれる有紀。


 沼津からだと新幹線を使っても東京までは一時間かかる。


 東京駅から更に秋葉原に出なくてはならないので、オタクの物欲に小遣いの殆どを使ってしまう有紀は、まだメイド喫茶未体験。


 秋葉原でメイド喫茶は、地方のオタクのにとって大きなテイタスなのだ。


「違うぞ有紀、あれはオムライスにケチャップをかけて行うからこそ成り立つ儀式なのだ。

 サラダにタルタルソースでは、萌え萌えキュンが召喚出来ないのだよ」

 奈緒が涙目で訴える。


 そう、それはメイド喫茶のメイドさんのみに許された神聖な儀式なのだ。

 本物のメイドさんでは、オタクかみに祈りが届かないのだ。

 オタク神に祈りが届かなければ、本物の萌え萌えキュンは発生しないのだ、だ、だ!


「おいしくな~れ?

 萌え萌えキュン?」

 ヴィオレットが話が見えなくてきょとんとした顔をした。



「あの二人、やはり駿河湾に静めましょうか?」

 ニーナが小声でジョゼフに言ったのを、視線を向けずにニーナの唇を読んだミドリが苦笑いをする。


「いざとなったら、有紀と奈緒を連れて脱出するくらいならなんとかなるかな」

 着ている学生服の中に忍者道具は仕込んであるので、それを使えばなんとかなるなとさっとプランを作成する。


「お嬢様が悲しむのでおよしなさい」

 ジョゼフがたしなめてくれたので、そのプランは使わなくて済んでホッとしたが。



「有紀も奈緒もさ、オタク発言するとヴィオが困ってるぞ。

 もうちょい穏便にいこうな」

 ミドリが二人に注意を入れる。


 この二人が暴走して駿河湾に沈められるのも困るから。


「お、おう・・・

 ゴメンなヴィオ」

「ごめんなさいヴィオ」

 ミドリに注意されて、大人しく頭を下げる。


「いえ、いいんです気にしないで下さい。

 お話の意味は判らないですけど、有紀と奈緒のやり取りは見ていて楽しいですから。

 お話に付いていけるように、頑張って勉強します」

 健気だ、とことん健気だった。


 それから食事は時々、有紀が暴走する以外は何事も無く終わった。


「お家の方が心配しますので」

 まだ名残を惜しむヴィオレットを宥めて、ジョゼフが各人を家まで送り届けた。


「友達の家に遊びに行くのは、家に着くまでが遊びに行くだからな」

 有紀が訳の判らない事を言っていたのは、いつもの事という事で。

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