第14話 生贄の十字架 後編

「来てくれたんだね!

ずっと会いたかったよ、エスフィリア。」


夕陽がわずかにのこった黄昏の空。両者は夜景がよく見える丘で相対した。


「かならず、勝つわよ。」


道礼のその声は震えていた。冷静で精神的な動揺を見せない彼女ですら、いざ死と向かい合うと恐怖する。それでも、この言葉で戦いに勝って仲間と世界を守りたい気持ちを奮いたたせた。


三人は頷いて、それぞれの持ち場につく。


(ミレイさんは、絶対に守る。)


咲季は最前。


(怖いけど、怖がってたらダメだよね。)


奏は左。


(もう後には引けない、これ以上人が死ぬ前に絶対に倒す!)


優利は右。


「行くわよ。

はあぁぁあ!」


中央の道礼は剣を掲げると、鎖を生成して影の領主に巻きつける。鎖が完全に固定されると、影の領主から力を吸い出し始める。一方で道礼も鎖に縛られて動けなくなった。

そんなことなど気にせず、道礼は堂々と立って、優利たちに合図を送る。


「フェニックスドライブ!」


蒼い不死鳥が影の領主を襲う。

命中。

ようやく、影の領主にまともなダメージを与えられた。ここまでの苦労が報われた気がした。


だが、まだまだこれから。


「ディバインクロス!」

影の領主は剣を抜き、二連撃をかます。

道礼を正確に狙った攻撃だ。

そう、この陣形は中央の道礼が弱点。そこを狙わない理由はない。


「フィリアプロテクション!」


一撃目は道礼に命中したが、なんとか二撃目は防ぎきった。


「守りますからね。」


道礼の横でそっとささやく。


「信じているわ。」


道礼はまだ大丈夫そうだ。


今のところ、影の領主と対等にわたりあえてきている。エスフィリアに勝てる希望が生まれていた。これで、ようやく今までの苦難が報われるのだ。

だが。


「サジタリウス!」


大きく弓を引いた。発射まで時間がかかるが、威力は大きい、力のこもったエネルギーの矢。あの影の領主が放つから、当然威力は高い。それはフィリアプロテクションなど軽々粉砕して、無慈悲に道礼と咲季を襲う。


「…!」


咲季はなんとか盾で道礼を守るが、防ぎきれなかった。


「大丈…」


「終わりだ。」


その言葉を言わせる前に影の領主はすかさず剣で追撃。本当に容赦がない。


砂煙から立ち上がった道礼。その体は一連の猛攻を無防備で受けたのがわかるほど、ひどく傷ついていた。もう限界だ。


「「負けないで。」」


そう言うのは咲季と奏。


(行くよ、サキ。)


奏は膝をついているサキに肩を貸しながらハープを奏でる。心がつながる感覚がする。


「「エンジェルコーラス」」


二人のハートテラーが共鳴する。聞こえるのは、天使のような歌声。その音は聞くものの魂を安寧へと導き、癒す。


「レイさん、大丈夫だから!」


奏と咲季は必死で歌い、道礼に力を与える。


「負けてられないわね。」


二人の天使を見て優利は叫んだ。


「プロメテウスの灯火!」


二人が天使なら私は神。その神が与えた炎は、影の領主の真上に落とされた。直後、影の領主は大きく炎上する。目に見えて影の領主に大ダメージを与えている。


三人の力が一つとなり、道礼を支え続ける。





…かに思われた。


「ふふふ。ここまで追い詰めたのは褒めてやろう。

だが、この技は見きれまい!」


「マリオネット!!」



影の糸で操られた無数の一般人が現れる。千は超えるだろうか。それらはエスフィリアに銃口を向ける。

影の領主が影の領主と言われる由来である。


「どういうこと?!」


「みんな、私に支配されたがっているんだよ。


自分の運命は、自分で決めたくない。

誰かに決めてほしい。

世界の運命に流されたい。


他人に決められた運命(シナリオ)なら、もし自分が不幸な目にあっても、他人のせいにできるだろう?」


"必要悪"はその口に笑みを浮かべた。



「エスフィリアは操れないのが残念だよ。」



こんなにも自分の意思で物事を決めたい人が多いのか。エスフィリアは彼らを殺さないように加減しながら戦うが、本来そんな余裕はない。圧倒的な物量に押されてしまう。今度こそ、本当の終わりだった。


もう、後には策がない。


エスフィリアは最大で五人らしいが、あと一人増えたところで焼石に水だろう。


そう、訪れたのは、絶望。


ひとつ、声がする。


「お嬢様、お逃げください!」


その声の主はもう命はない。この従者は咲季が桃緒家の後継者から外された後でも、変わらず接してくれた数少ない従者の一人だ。咲季の優しさが大好きで、後継者ではない「桃緒家での咲季の役割」をさがし続けた、いわば忠臣と呼べるであった。

咲季にとって失いたくなかった人なのは言うまでもない。


「はっ。」


その声に咲季は我に返る。


「逃げましょう、みなさん。」


「ここで引いたところで。」


もう有効な作戦は残されていない。



実は皆、…あの優利でさえ、心のどこかでエスフィリアは"いつかはうまくいく"魔法少女だと思っていた。人は無意識のうちに自分のやることを間違っていないと認識してしまう。

「エスフィリアは必ず報われる。」


その神話が今日、壊れた。

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