第5話 美しき恐怖 前編
「なによ、これ。」
登校したユウリは驚愕した。
学校が絵の具で塗られた城になっていた。
まわりで混乱する生徒には目もくれず、道礼に協力を要請する。
「行くわよ。」
「ええ。」
二人で中に駆ける。
途中で何人もの死体を見かけた。憤怒と悲哀と申し訳なさで胸がいっぱいになる。
中は影の眷属でごった返していたが、彼女らの敵ではない。
…絵の具のダンジョンを瞬く間に制圧し、残りは屋上のみとなった。
一個飛ばしで階段を駆け、扉を開ける。
そこにいたのは。
「彩葉…。」
「やっぱり来たんだ。」
おそらく絵の具で作ったであろう、灰色の美しいローブを纏い、妖艶で狂気的な笑みで迎える。手にはパレットと絵筆。
「わたしのアートを理解しない奴は全員消せたし、満足かなぁ⭐︎」
後ろには多くの生徒が十字架に磔になっている。中には奏もいた。
「ひどいよね、あの先生。」
美術教師を指差す。
「私が気に入らないから、「2」をつけたんだよ。
私はコンクールで入賞する実力を持っているのに。」
「そういう「悪い」人はプイッ⭐︎」
美術教師に茨が刺さり、絶命する。
「なんで、そういうことするの?!」
その回答が予測はできていたが、それでも面白かったようで不敵に笑う。
「学校って、よくないよね。
人を缶詰みたいに押し込めて、それでも入りきらない人は「社会不適合者」の烙印を押す。
この学校でもさ、いじめとかあるじゃん?」
「見て見ぬふりしてきたのかな、正義のヒーロー?」
優利は知っていた。だが、多忙な優利はこれを「個人の問題」として"後回し"…悪いふうに言い換えれば「見て見ぬふり」をしてきたのだ。
「…」
何も言い返せない。
彼女の心を支えていた「エスフィリアは正しい」という正義感。それが揺らいでいた。
「じゃあ、無能なヒーローの代わりに、私がお仕置きしてあげるね⭐︎」
「や、やめろ。」
怯える男子生徒。
「やめろって言っても、あなたはやめなかったよね。」
銀色の美しいイバラが心臓を貫く。
綺麗に流れる赤を見て微かに笑う。
優利は何もできなかった。自責の念と無力感が彼女を覆った。呆然としてその場にうずくまる。
そんなことはお構いなしに暴君は次の"死刑囚"を探す。
「許して!あなたの言うこと、何でもするから。」
「じゃあ、死んで⭐︎」
一人。
続いて
「君も、生きている価値ないよね⭐︎」
二人。
正義感の強い暴君はどんどん公開処刑を続ける。
「すべての命が尊いとは言えないかもしれないけれど。」
道礼は黒い刃を抜く。
「やっとやる気になったね⭐︎」
彩葉の攻撃が始まる。
絵筆を動かして空中に茨の鞭を描くとそれが実体化して道礼を襲う。
表情を崩さずに茨の鞭に対して向かいながら大きく回転斬り。茨はぶつ切りに裂かれる。
「お見事⭐︎」
次の攻撃は描かれた軍隊である。
号令のラッパの音で戦列歩兵は一斉に射撃する。命中率を弾数で補ったその攻撃は逃げ場がない。
「!」
道礼は優利を隠すように移動すると、一つ一つ弾を見切り、弾き落とす。エスフィリアの身体能力だからこそできる離れ技である。
「はぁ…」
息があがる。今回の攻撃はさすがに厳しかった。
「あら、生きてたんだ。さすがだね。」
「ユウリ、立ちなさい!
ただ攻撃することを考えて。」
道礼の叱咤で優利は立ち上がる。
次に優利に沸いた感情は怒りである。本来は自分に向かう怒りであったが、それを彩葉に向ける。
「あら怖い。」
無意識に睨みつけていたようだ。そんなことはどうでもいい。ただ純粋に攻撃を追い求めた。弾込め中の兵士たちを蒼い炎で一掃する。次は彩葉。蒼い炎は龍のように哀れな芸術家を襲う。
「はあぁぁぁあ!」
総力を込めた怒りの蒼い炎は彩葉を飲み込んだ。
だが。
「誰も私の絵を…芸術を理解してくれない。評価してくれない。
わたしは世界を否定(こわ)したい!
わたしをいらないとしている、世界を!」
蒼い炎の中から彩葉が現れる。優利にも彩葉にも譲れないものがあるのだ。
「エスフィリア、世界を守るというのなら!
…消えて!」
絵筆で描くのは無数の爆撃機。
空が紅く染まり、終わりが始まる。無差別爆撃だ。その光景は残酷にして恐怖である。しかしその破壊は美しさを伴っているのは認めざるを得ない。
「ふふふふ、これが、"芸術"よ!」
死が空から降りてくる。
磔にされた生徒の多くはまもなく死を迎える。
だが、それでも道礼と優利はできるだけ多くの生徒を救おうと奮発する。
優利の蒼い炎で爆弾を空中で爆破させる。道礼の斬撃で爆撃機を墜す。
それでも、無力ではあるかもしれない。
横を見れば、一つ、また一つと爆弾が投下される。
「エスフィリアは諦めないのよ。」
強く気高い炎は出力を上げる。
ようやく爆撃が止む。あまり時間が経っていなかったが、長い時間が過ぎたように感じた。
「みんな、救えなかったね⭐︎」
事実、この攻撃で七割の生徒は死を迎えた。
「これだけ救えたわ。」
しかし、裏を返せばこの攻撃で死ぬはずであった三割は救えた、ということである。
「いずれ死ぬけどね。」
彩葉の言うことは正しい。
道礼も、優利も、もうそろそろ限界であった。
次の攻撃は受けれそうにない。
その前に決着をつけるべく優利は炎を纏い決死の突進をする。彼女の不屈の闘志は不死鳥のように輝く。
「しつこい。」
そんな攻撃も、軽々と弾き飛ばされる。
あらゆる抵抗は無駄であった。
彼女の正義が正しく、エスフィリアは悪であった。おそらく後世ではそう記されるであろう。
"正義のヒーロー"は"偽善者"の最期に、哀れみの言葉をかける。
「評価されなければ価値がない。
負けたあなたたちには評価されることもない。
それは、とっても。哀しいこと。」
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