第3話 終わりの始まり
「あの人、綺麗だったなぁ〜。」
中学校に行く途中の坂道、優利と咲季が並んで話していた。
「ああ、レイのこと?
美人よね。
私の大切な親友よ。」
優利は自慢げに話す。
「いいなぁ〜。
私もあんなふうにかっこよくなりたい。」
「咲季には無理でしょ。」
「だよねぇ〜。
私なんの取り柄もないし。」
「ところで咲季、エスフィリアのこと、誰にも言って無いわよね?」
「えっっと…奏にしか言って無いよ。」
「エスフィリアのことは誰にも喋らないでね〜。
あとは奏が言ってなきゃいいけど。」
「あ、奏〜。」
黄色の髪をした少女、朝黄奏(あさぎ かなで)が見えた。
奏と合流すると、三人は小声で話し始めた。
「エスフィリアのこと、誰にも言っちゃいけないんだって!
もう言っちゃった?」
「まだ誰にも言ってないよ。」
「よかったぁ〜」
ふぅ、と胸を下ろす二人。
「でも、優利が魔法少女だなんて、驚いたなぁ。」
「へへ〜。ま、私優秀だからね!」
得意げに話す。
---
その日の昼休みは特に何事もない昼休みだった。こういう光景がずっと続いて欲しいと思うような、そんな時間。
安寧を引き裂いて、奴らは現れた。
影の眷属だ。総勢千を超える影の眷属たちが音もなく学校に侵入し、無作為に襲いだした。
悲鳴を上げて逃げる女子生徒たちを無理やり押し退けて、優利は影の眷属を燃やしに走る。
(質は大したことないけど、量が多いわね。)
階段まできたところで、ふいに紫髪の少女が横から現れる。
「ユウリ、この下はあたしに任せて!
あたしとエスフィリアで手分けしましょ!」
現れたのは虹ヶ崎彩葉(にじがさき いろは)。優利や咲季、奏のクラスメイトで、美術が得意な女の子だ。
「彩葉…ありがとう、助かるわ。だけど…
…なんでエスフィリアのこと知ってるのよ!まさか…」
その瞬間、彩葉の顔に一瞬の仄かなしわ寄せが見えたが、すぐに笑顔に戻る。
「えへへ。盗み聞きしてたんだ。
ごめんね。」
許さないわよ?と、小さく笑って許した。
「じゃ、任せたわよ。
何で戦うか知らないけど、くれぐれも無理はしないこと。」
出現した影の眷属自体はあまり強く無い。
ギリギリ一般人でもなんとかなるだろう。
ユウリは階段を上に駆け上がる。
---
時間を少し遡り、優利が上がった階段の下。彩葉が降りてくるはずの方である。
押し寄せる影の眷属に皆混乱していた。
「私が、守らないとだよね。」
逃げるクラスメイトたちを横に、咲季は勇敢にも立ち向かう。
しかし、非力な咲季の攻撃は影の眷属には届かない。
逆に影の眷属に脇腹を打たれ、吹き飛ばされる。
「咲季!」
駆けつけた奏が、なんとか咲季を抱き止めれた。
「許さないからね。」
友達を傷つけられた怒りに身を任せた、奏の渾身の突きが影の眷属を打ち倒す!
「はぁ…ふぅ…」
なんとか一体は仕留めたが、戦いに夢中になった奏は多数の影の眷属に囲まれていることに気づく。絶対絶命である。
それでも。
「咲季、行くよ!」
「う…うん…!」
影の眷属の壁に二人で体当たりをかける。
体に幾つもの傷を受けながらもなんとか包囲から脱出する。
しかし…影の眷属はそれでも迫る。
徐々に体力が削れていった。
最終的に行き止まりで逃げ場はない廊下の隅に追い込まれてしまった。
奏は半ば意識を失いながら咲季の腕に縋るようにしがみついている。咲季も体を何十箇所も傷つけられている。気力も限界だ。
「エスフィリアになれれば…
私だって…」
咲季の心の奥が温まる。
どこかで自分の力と共鳴する物がある…気がしただけだった。
「でも、私には、できないよね。」
一種の諦め。咲季は今まで何の才能も無かった。音楽、絵画、習字、そろばん、スポーツ、学習塾…富裕層だった両親は咲季にあらゆる投資をしたが、一つとして人並み以上の成果をあげれたものは無かった。
これまでの失敗や無力感が重くのしかかる。
死。力の無い私には、そういう運命なのだろうか?自分の力を信じることができず、諦めの気持ちが勝っていた。
影の眷属が襲いかかる。
思わず目を閉じた。
このまま緩やかな安寧に身を委ねながら、咲季と奏は沈みゆく定めなのか?
否。
黒き光が影を裂く。
「…!」
目を見開けば、道礼が鋭い斬撃で影の眷属を一掃していた。
「あ、あの…ありがとうございます。
私、何もできないけど…応援…してます。」
「そう。」
咲季の心には無感情に響いた。
道礼は足早に立ち去った。
(私、足手まとい…だよね。)
---
今日の襲撃で多くの生徒や教職員が犠牲になった。優利のクラスメイトに限っても犠牲者はゆうに10人を超えた。
「次は絶対に負けない。誰一人、欠けることなく勝利を掴み取るのよ。」
優利は道礼に頷き、決意のこもった眼差しを向けた。
一方で階段の下に見かけなかった彩葉について、疑問に思った。咲季や奏と一緒に戦っていてもいいはずであった。
(…耐えられなくて逃げちゃったのかしら、ね。)
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