杜さんの頼み

「あのね、伝えたいことがあるってのは本当でね、今ちょっと困ってるの」


「困ってる?」


 わずかに目線を下げ、困り顔で頷く。


「うん。それでまだ詳しくは言えないんだけど、広瀬くんに助けてもらいたくて……」


「連絡したの?」


「うん……」


「……」


「……」


 なるほどね。

 さては杜さん、ぼくが了承して初めて頼み事を話そうという魂胆こんたんだな。具体的な援助の中身は伏せて助けてほしいとは、これはまた随分と虫の良い話じゃないか。


 しかしまあ、こうして正面から杜さんに助けを求められるケースは極めて珍しく、ぼくの知る限りで初めてだ。流石のぼくもきな臭い話にまで手を貸す気はないけど、きびすを返すのは雲行きを見てからでもいい話。

 なにせ、ここで杜さんに恩を売るのも悪くないはず……。


 そこまで考えを進めて、ぼくはなるべく自然に答えた。


「もちろん、杜さんの頼み。ぼくに出来ることなら喜んで補翼するよ」


「ありがとう広瀬くん」


 ぼくの言葉に杜さんは本当に嬉しそうに笑った。


「あのね、実はわたし、この教室でをして。それを広瀬くんに探して欲しかったの」


 失くし物?

 なんだそのくらいお安い御用……。


「わたしの青春よ」


 出来ることにも限度があるんだよなぁ。

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