日記はどこに消えたのか?
hororo
ひとの秘密
基本、ひとの秘密は気になるものである。
それも交友関係が広がり出す高校二年生ともなれば尚のこと。
『その秘密を知るために人は他者からの信頼を得ようとするの』と、前にぼくはそれが自身で見つけた「秘密」かのように聞かされたことがある。
けれどぼくにそれを教えてくれた人は決してひとに秘密を漏らすような人ではないので、だから信じるともなれば大概だろう。
◇ ◇ ◇
放課後の学校。
その日、ぼくは三階の図書室で本を読んでいた。
ぼく自身、好きな作家の一人や二人はいるものの図書室に足しげく通うほどではなく、ゆえにその日図書室に来ていたのは本当に偶然だった。
加えて偶然にもその日は月初めの金曜日で、そのことが影響をしているのか図書室はとても静かだった。なにせ今いる利用者はぼくだけなのだから。
図書室入り口にあるカウンター。その隣では今月入荷された本が『最新作!』と書かれた厚紙のポップでコーナー化されている。机を一つ使ったそのスペースにジャンル関係なく様々な本が並べられている。現に今ぼくが読んでいるSF小説もそこから持って来たものなのだ。
主人公が特殊な力で戦う物語なのだけど、カタカナで命名された語呂の悪い用語が多くて何だかよくわからなくなってきた。何となく手にした本だけに用語を確認するためにページを戻すのも馬鹿らしい。ふと壁掛けの時計を見やれば時刻は五時三十分を迎えたところ。
さて、帰ろう。
ぼくが手にしていた本を閉じて椅子から腰を上げた、その時だった。
制服のポケットに入れていたスマホが震えた。
ここは図書室。電話なら出られないし、あまりにバタバタするようではお里が知られる。ぼくは急ぐでもなくスマホを取り出しモニターを確認する。
見れば、
「おや? 珍しい」
画面にはショートメッセージで
【
と出ていた。
杜さんだ。
本名、杜みやこを名乗る杜さんはぼくのクラスメートで数少ない旧友。童顔に低身長という、どことなく小動物を思わせる見目形が特徴の女子生徒だ。校内でこそ制服だが私服の杜さんは絶対に高校生には見られない。良くて中学生で悪ければ小学生だ。
そういえば今日クラスメートから耳にした噂では、昨日杜さんはオープン一周年の本屋さんの前で小学生以下に配る風船を上機嫌でもらっていたらしい。なんというか、旧友としてもっと周りを気にしてほしいところではある。
そしてそんな杜さんがぼくに連絡をしてくる時、それは決まってぼくに愚痴を聞かせる時なのだが……。
「う~ん……」
今日に限って言えばちょっと珍しい。いつもの杜さんのメールは『今日の放課後空けといて』や『来週の土曜日って暇だよね?』といったぼくの予定を完全に無視したものなのに、このメールは違う。ぼくの現在地を確かめている。
すなわちこれは急を要する案件だ。
ぼくは正直に『図書室』と返した。
すると、ものの数秒で返信。
『よかった。教室に来て。待ってる』
待ってるかぁ……。
本当は帰りたかったけど、別に帰ったところで急ぎの用があるわけでもない。
だからぼくはカバンを持って図書室を出た。
教室に行くために。
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