第31話 サムライ、ニーチェと鎬を削る

 闘技場の熱気は最高潮に達していた。

 宗介がゆっくりと中央に歩み出ると、観客からは大歓声が巻き起こる。


《サムライ決勝進出!》

《ついにこの時が来た……!》

《相手は派手仮面! 正体が気になる!》


 対する派手仮面も、奇抜な装飾のマントを翻しながら登場。

 観客席に向かって余裕たっぷりに手を振る姿に、宗介は眉をひそめた。


「……ふざけた格好だが、実力は確かだった」


 派手仮面はアリーナ中央に立つと、ゆっくり仮面に手をかけ外した。

 続いて装飾過多な衣を脱ぎ捨てる。

 その下には、宗介と似た麻の衣に腰に二本差しという侍のような装い。


 長髪をなびかせる端正な顔立ちの男が微笑む。

 彼のそばに浮く白いグリモアが、金色に輝き始めた。


《え、ニーチェ!?》

変幻自在ドッペルゲンガーのニーチェきたー!!》

《やっぱり! 模倣と言えばだよな!》

《殿堂入りの配信者ライバーじゃねえか!》

《主催者が大会に出るとか、ありなのかww》

《負けた人かわいそww》


 宗介は驚きと戸惑いの入り混じった視線を向けた。


「ニーチェだと? いったい何の真似だ?」

「こうして顔を合わせるの初めてね。私は模倣が得意な配信者ライバーなのよん♪」


 ニーチェは楽しそうに笑いながら宗介の周りをゆっくりと歩き始める。


「ソースケちゃん、あなたの技術も勉強させてもらってるわ♪」


 その言葉に観客席がさらにざわめく。


《オリジナルvsコピー! 勝つのはどっち!?》

《完コピした上であの強さだもんなぁ》

《ソースケ、どう対抗する!?》


 開始の合図とともに、ニーチェは恒次つねつぐそっくりの刀を抜き、宗介に襲いかかった。

 その動きは宗介自身の剣技を完全にコピーしたもので、一瞬たりとも隙がない。


 ニーチェの一撃が宗介の刀に重く響き、火花が散るたびに体に重圧がのしかかる。


「己と戦っているようで厄介だ……!」


 押し込まれるたびに宗介の額には汗が滲み、観客席からはどよめきが起こった。


《え、ソースケ押されてる!?》

《ニーチェの剣技、やばすぎる!》

《やりづらそう》


 宗介は懸命に防御を続けるが、ニーチェは次々と攻撃のテンポを変え、予想を裏切る一撃を繰り出してきた。


「どうしたの、ソースケちゃん? あなたの剣技、ここまでだったかしら?」


 ニーチェの攻撃が急所を狙うたび、宗介はギリギリで受け流しながら後退を余儀なくされる。

 だが、ニーチェはそれを見越して追撃を放った。


「甘い!」


 その声とともに放たれた斬撃が宗介の左脇腹を浅く切り裂く。


「ぐっ……!」


 宗介は痛みを堪えながら距離を取るが、ニーチェはすぐに間合いを詰めて再び攻め立てた。

 さらなる一撃が宗介の肩を掠め、次は脛当での防御を果たすものの、その衝撃に宗介の足が僅かによろめく。


《ソースケ、やばくない!?》

《これ、ニーチェに完封されるんじゃ……》

《ここから逆転できるのかよ!?》


 宗介は汗を拭いながら、深く息をついた。

 その目は鋭く光り、ニーチェを冷静に見据えている。


(確かに技を模倣されている……だが、あれも完璧ではない。奴には欠けているものがある)


 宗介は静かに目を閉じ、一瞬で心を落ち着かせた。

 刀を握る手に再び力を込めると、ゆっくりと構え直す。


「所詮、真似事に過ぎぬ」


 ニーチェは挑発するように片眉を上げ、余裕たっぷりの笑みを浮かべる。


「ならば証明してみなさいな。本物と偽物の違いを!」


 ニーチェの剣が宗介を追い詰めるように繰り出される。


「なにっ……!? 飛燕を……!」

「だけじゃないわよ♪」


 宗介の鋭い一撃は流転で返される。


「くっ……! 流転まで!」


《これ、ソースケ完全に押されてる……》

《ニーチェの剣技、宗介超えてないか!?》

《逆転のきっかけがないと厳しい……!》


 だが、宗介はその場で動きを止め、心眼に意識を寄せる。


(技を真似てみせるだけでは、剣に込められた想いには及ばぬ)


 ニーチェが一閃を放つ。

 宗介は紙一重でかわし、鋭い反撃を見せる。


「どうだ……!」


 宗介の声に、観客から歓声が上がる。


 ニーチェは驚きつつも、宗介の動きに合わせて再び攻撃を繰り出す。

 宗介はそれを予測し、流転でカウンターを決めた。


「くっ……!」


 ニーチェが後退する隙を見逃さず、宗介はさらに攻め立てる。

 飛燕と流転の連携が、流れる水のように止めどなくニーチェを追い詰めていく。


「所詮、模倣では本物には届かない……!」


 宗介の言葉に、ニーチェは笑みを浮かべた。


「いいわね……! 本物の技には、私も応えなくちゃ!」


 するとニーチェの刀が赤熱を帯び始めた。

 これまでとは異なる雰囲気に宗介は警戒する。


「これが私の剣技――『陽炎かげろう』!」


 ニーチェが放った斬撃は、熱と幻影を纏い、軌跡を霞ませながら宗介に迫る。

 その動きは予測を超え、宗介を翻弄するものだった。


「なっ……!」


 熱波が皮膚を焼くような錯覚を引き起こし、宗介の視界が次第に霞む。


陽炎かげろうきたーーー!!》

《ニーチェのオリジナル剣技!?》

《ソースケやばい……!》


 宗介は間合いを取るが、陽炎の奇妙な軌道に翻弄され、防御が追いつかない。

 次第に押され始める宗介に、観客席からも焦りの声が漏れる。


「ソースケちゃん。これが私の高みよ!」


 ニーチェの声が響く中、宗介は冷静さを取り戻し、再び刀を構え直す。


(高みか……。ならば、それを超えるまでだ)


 その瞬間、脛当と籠手から鈍い光が滲む。

 宗介の意識が深く沈み込むと、彼の脳裏に鮮やかな情景が浮かび上がった。


 古びた橋の上――。

 若人が華麗な身のこなしで刀狩りを翻弄している。

 軽快かつ鋭いその動きは、まるで星が瞬くような美しさを備えていた。


(これは……)

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