泣く男

ほいどん

第1話 泣き屋誕生①

幸田(こうだ)俊(しゆん)はスピード狂であった。

ストレスが溜まると、札幌市北区と東区の境界を南北に伸びる北海道道(道道(どうどう))伏古拓北通り約十キロを深夜、中古で買った八十万円のレクサスで、飛ばす。


レクサスの走行距離は十五万キロにもなっているが、エンジンは快調であった。

かつて俊はモトクロスに凝っていた。百二十五㏄のモトクロス・バイクを改良して、札幌西区の練習場に週末に出かけていた。


灯火類を全て取り除き、軽量化したモトクロッサーとしてのレース用バイクに乗った。

レースにはたまに出たが、入賞などした経験がない。あくまで趣味であった。

スピードを出し、高いジャンプする行為に爽快感を覚えた。


しかし、二年前、旭川で開催されたトライアル・レースに出場して、腰を打って以来、バイクには乗らなかった。


ジャンプをしたときに、転倒して腰から落ちた。一瞬、折れたと思ったが、幸い打撲ですんだ。その後、後遺症で一度、腰が抜けた事実がある。二十八歳で腰抜けになった。


以来、専ら、車だけを乗り回している。バイクに乗ると恐怖心が起こった。


深夜二時の伏古拓北通りは、車は一台も走っていない。道道の周りは、高い丈の雑草が群生している空き地や、夜は無人の倉庫群しかない。無論、パトカーなどは走っていなかった。時々ダンプの運ちゃんが仮眠を採っているくらいである。


「犬とか、撥ねないでね」

助手席に座る紺野春香は、スピードを上げても怖がらない。犬の心配ばかりした。

最近、飼い犬が車に撥ねられて亡くなった事故がトラウマになっているらしい。

 

春香は瓜実顔で、切れ長の目元、鼻はややアップノーズで形がよい。口元は小さく品がある。

どれも、俊のお気に入りである。背が百五十五センチで、百七十五センチの俊とは体が良くあった。

年齢も、一歳下の二十七歳である。

 

俊は頻繁に、夜中春香を連れ出して暴走行為をした。

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