答えはいつもらうのか?

hororo

放課後と喫茶店

 基本、勉強とはつまらないものである。

 それも使い道のない学問であれば尚のこと。必死になって覚えた文法や公式も一度実社会で不要とわかれば次第に学ぶ意欲も薄れるもの。


『そんな勉強を楽しくするために学校には一定数、優しい先生がいるの』と前にぼくは聞いたことがある。


 けれどそれをぼくに教えてくれた人は、おおよそ先生の手など借りずに勉強出来るのだから信じるとならば大概だ。

 

  ◇ ◇ ◇


 月曜日の放課後。

 ぼくは学校近くのとある喫茶店に来ていた。

 喫茶店『ファルシー』。これまでに何度となく訪れている外観の可愛らしいお店だ。


 店ではいつも有線が流れていて、曲は専らクラシック。入店して店内を見渡せばお客さんはちらほらと居る。けれどぼくの知る高校の制服を着た人はいないみたいだ。


 そういえば最近ファルシーはデザートメニューにも力を入れているようで、この前までは見なかった『季節のスイーツフェア』なる紙がメニュー表の最後に挟まれていた。その気もないのにざっと目を通せば、


『季節のフルーツジュース』……イチゴやマンゴー、バナナを使ったシェイクです。

『季節のシュークリーム』……イチゴ味のクリームを自家製の生地で包みました。

『季節のチュロス』……イチゴをふんだんに練りこんだ特性チュロスです。


 載っているものはどれもイチゴ尽くしで、前にここで舌が太るほどに甘いココアを飲んだぼくにとっては、とてもじゃないけどしょくせそうにない。


 ぼくは水を持って来た顔馴染みのウエイトレスさんにミルク付きで紅茶を頼んだ。


「……」


 さて。

 注文を終えたぼくの前の席では、未だもりさんが楽しそうな顔でメニュー表を吟味している。


「……」


 店内に流れる有線。それと注文を待つウエイトレスさんの目を完全に無視して鼻歌を歌う彼女こそ、本日ぼくをここに呼び出した張本人だ。


 杜みやこ。

 肩までかかる黒髪がどこか幼げな印象のぼくの旧友だ。十五歳を超えた今でもホラー映画を映画館で見ようものなら一度は入場を止められてしまうらしく、最近はいちいち説明をするのが面倒という理由で心に優しいアニメ映画ばかりを見ているそうだ。


 そしてそんな杜さんがぼくを呼び出す時、それは決まってぼくに愚痴を聞かせる時なのだ。だからぼくは空気にでもなった気持ちで杜さんが切り出すのを待っていた。


 注文を受けたウエイトレスさんが去るのを見送って、杜さんが話を始めた。


「あのね。広瀬くんは知らないと思うけど、今日からうちのクラスの日本史に新しい先生が来たの」


 杜さんはとっておきの秘密を告げるように言い出したけどそれは知っている。だってぼくのクラスだもの。

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