第5話 まだ打つ手はある。多分
「ごめんくださ〜い」
「おぉ、リエナ様じゃないですか。今日はお一人なのですな」
「そうなの。ちょっと武器屋のおじさんに聞きたいことがあって……」
「おうっ。答えられることならなんでも答えますぜ」
「ありがとう。じゃあ、麻痺状態付与の魔剣とか、相手を空想世界に閉じ込める杖とか売ってないかな……?」
「……え?」
「……え?」
武器屋のおじさんと私の間に、なんとも言えない空気が流れた。
*
昨日に引き続き、今日も今日とて情報収集。
千ページを軽く超える鈍器……もとい古書も随分と見慣れたものだ。
私が知らなかった、アンデットに対する追加情報は以下の通り。
・状態異常無効
・上級個体は持続回復機能を持つ。
この領内で状態異常付与の武器は手に入りそうにないのは確認済み。なので前者はセーフ。
しかし、最初のボスであるレ・ゼンテ・エスボール7世はどう考えても上級個体。
回復量によっては、絶対に勝てない即詰みのモンスターになりかねない。
部屋の扉がノックされる。『は〜い』と答えると、ばあやが入ってきた。
「お嬢様、お茶の準備が整いました。そろそろ休憩なされてはいかがでしょう?」
「ありがとう。すぐに向かうわ」
開いていた古書を閉じると風が舞い、部屋の隅にあるカレンダーを揺らした。
最初のアンデットが目撃されてから約一週間。
あの日から目撃証言はなし。私がプレイしていた時も同じだった。
つまり、確実にストーリーは動いている。
私の記憶が正しければ、次のピックアップポイントは三日後。
この領地を旅のシスターが訪れるので、話を聞くと臨時クエストが発生するのだ。
「(内容は確か……素材提供だったかな)」
このクエストの報酬は聖水なのだが、これが本当にボス戦で役立つのだ。
ボスは体力が20%を越すと霊体化し、物理ダメージが入らなくなる。
その際に聖水を奴に浴びせてやれば、霊体化が解除される仕様だった。
「(私はこれに気がつくまでに何度死んだことやら……)」
今となっては懐かしい思い出。
昔はただの嫌な思い出。
でも、これらが積み重なって今の私がいて、安全に物語を進めることができる。
死んでいった私たち。君たちの死は……決して無駄にはしないわっ!!
「お嬢様?いかがなさいましたか?」
「ううん。なんでもないよ。今日のおやつも楽しみだなぁって考えてたの」
「ふふっ。左様でございましたか。今日のおやつは……向こうに着いてからの秘密です」
*
扉を軽くノック。『入れ』の声を待ってから部屋に入らせていただく。
「失礼します」
私——アルガルド家執事長を務めるモルドレックは部屋に入ると、まず一礼をした。
部屋の中にいた人物は書類を書く手を止め、軽く右手を挙げた。
「モルド、急に呼び出してしまってすまないな」
「お気遣いは必要ありませぬ。御当主様のお呼び出しとなれば、万難を排して馳せ参じるのが我らの務めでありますゆえ」
「相変わらず硬いな。こんな男と結婚したメニアは大層不便で可哀想なことだ」
早々に妻の名を出した冗談……なるほど。
差し出された紅茶を一口。私たちの間に緊張感が漂う。
「先日、お前から報告を受けた内容だが……先ほど、王国からの手紙で事実だと判明した」
「やはりそうでしたか……行商人の噂は一日で大陸を横断するとも言います。滅んだ国の名前を聞いてもよろしいですか?」
御当主様は軽く頷かれると、机の引き出しから一通の手紙を取り出し、こちらに渡してきました。
私の予想ではリアネッタ。もしくはサーエンホルンあたりが濃厚か。
もう何年も後継者争いの内戦ばかりをしている両国はいつ滅んでもおかしくない。さて、天秤はどちらに傾くのか……ん?
「……なんです、と……」
「あぁ。俺も正直まだ信じられていない。普通ならありえない事だ」
滅んだ国の名は……エスボール。
大陸の中でも名の知れた巨大国家で、私も何度か足を運んだことがある。
あの国の王は未だご存命……それに、『鉄の掟』の下では決して王位継承権争いなんて起きるはずがないのに……。
「これは、いったいどういうことですか?エスボールが滅ぶなどありえませぬ!」
「だが、これは事実なのだ。いくら理屈の上ではありえないとしても、現実としてそれが起きてしまっている。今の俺たちに必要なのは今何をするべきか、だ」
そう言うと、御当主様はさらに紙を一枚渡してきた。
右下には赤と青の王国印。国王が認め、議会が承認した証。偽造は不可能ですね。
内容を目で一気に読む。なるほど、先日のアンデットにエスボール王国の滅亡が関わっていることは確定……。
御当主様は再び書類に手をつけ始めた。
私も紅茶の残りを少しだけ残してカップを返却する。
「これから数週間は関所と周辺の警備を強化しろとの命令だ。行商人は荷物の検査をしてから通行可能。他の職業の者は郊外につき行動を許可する」
「かしこまりました」
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