第10話 アルバイト
「――ありがとうございました、またお越しくださいませ」
それから、二週間ほど経て。
一学期が終わり、夏休みへ――そして、そんなある日の午前のこと。
扉を開きそう伝えると、笑顔で手を振り応じてくれる年配のご夫婦。少なくとも週に二回は来てくださる常連さんで、いつも優しい二人の笑顔に癒しをいただいていて。
さて、そんな(どんな?)僕がいるのは住宅街に佇むカフェ『
ともあれ……何とも僥倖なことに、入学ほどなくこちらで働かせてもらっているわけで。
元々、高校に入ったらアルバイトはしようと思っていた。でも、僕に出来るとしたら清掃やデータ入力のような一人で黙々と進めるイメージの仕事で、人と関わる仕事――それも、その代表格のような接客業という選択はまるで頭になかった。
だけど……高校からの帰り道、ふと目に入ったこのカフェにぐっと心惹かれ近づいてみると、ガラス戸の隅の方に一枚の用紙――アルバイト募集の旨が記された用紙が貼っていて。でも、もっと見えるところに貼った方がいいんじゃ……なんてお節介な思考が過ったのはともかく――
――カランカラン。
『いらっしゃいませ、お客さま』
そっと扉を開くと、優しい笑顔で出迎えてくれる丸眼鏡の男性。なんとなくだけど、店主さんかなと思う。ともあれ、緊張の中ゆっくりと口を開いて――
『……あの、すみません。その……アルバイト募集の用紙を見まして……』
そして、10分ほどの面談の後なんと採用――正直ダメ元だっただけにほんとに驚き……そして、すごく嬉しかった。
とは言え、やっぱり不安はあって。奇跡的に採用していただいたはいいものの、接客業という大変高度なコミュ力を要するであろう専門職が果たして僕なんかに務まるのかどうか……でも、やるしかない。採用していただいたからにはお役に立ちたいし……それに、辞めたくないし。
だけど、そんな心配はほぼ杞憂だった。いや、もちろん僕のコミュ障は変わらないので、未だに上手く話せないし緊張もするんだけど……それでも、店主さんやスタッフさん、そしてお客さんもみんな……いや、まあ時々少し変わったお客さんもいるけど……でも、みんな優しくて、僕にとって本当に暖かな居場所で。
――すると、そんなある日のことだった。
「ところで、
「…………へっ?」
開店準備の少し前、休憩室にて柔和に微笑み告げる丸眼鏡の男性。彼は
ともあれ……へっ、急に? いや、もちろん不満なんてない。一緒に頑張る仲間が増えることに、何ら不満なんてない。ただ……僕の知る限り、松橋さんの性格ならもっと事前に言っておいてくれそうなもの……なので、こんなにも突然だったのが意外で――
「――それじゃ、紹介するね」
「……へっ?」
すると、僕の困惑を余所に続けて話す店主さん。……えっ、もうそこにいるの? あの、心の準備がまだ……あと、心做しか僕を見る店主さんの
「――初めまして、
そう、朗らかな笑顔で話す見目麗しき少女。一方、あまりの衝撃に声も出ない僕。……うん、色々聞きたいことはある。あるのだけど……ともあれ、ひとまずは――
「……いや、その挨拶はおかしいでしょ、風奈さん」
「あははっ、いい反応だね陶夜くん! いやー折角だしびっくりさせたいなって」
「……いやまあ、びっくりはしましたけど……」
そう告げると、何とも楽しそうな笑顔で答える風奈さん。いやまあ、びっくりはしましたけど……でもまあ、楽しそうで何よりです。
「うん、依月さんから聞いていたけど本当に仲が良いみたいだね。それじゃ、彼女のことは任せたよ、陶夜くん」
「……へっ、あ……はい、店主さん」
すると、楽しそうな笑顔のまま、軽く僕の肩に手を置き去っていく店主さん。きっと、キッチンの仕込みに向かうのだろう。
……うん、これだったんだね。楽しそうだった理由は。そもそも、今日からというあまりに急な報告に違和感はあったし。きっと、風奈さんの発案だろう。僕をびっくりさせるために、直前まで言わないでいてほしいと。……まあ、店主さんもノリノリで応じたとは思うけど。意外とお茶目なところあるからね、あの人。
まあ、それはともあれ……うん、色々聞きたいことはある。あるけど、ひとまず今は――
「……それでは、僭越ながら僕が教育を担当させていただきます」
「はい! 宜しくお願いします、陶夜先輩!」
そう伝えると、ビシッと敬礼のポーズで答える風奈さん。……うん、まあ、
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