第16話 言い争い

「ねぇねぇシトラ!あのお店なに!?行きたい!!」


「あれは……魔道具店。良いよ。行こうか。」


レリアとシトラは王都の中心部、店の立ち並ぶところまでやってきていた。


レリアの指差した店に二人は向かう。


そこは少しばかり小さめの店で、中には様々な形の道具があった。


「レリア!これなに!?なんかここに穴空いてるけど……」


「それは魔銃。危ないからあんまり触らないで。」


「魔銃!名前は知ってるよ!!何かバーンって撃つんでしょ!……あっ、これは何!?」


「それは火起こし器。……なんで危ないものしか触らないの。」


レリアはこんな調子で店の様々な道具を見て回った。


すると、一つの道具の前で立ち止まってまじまじとそれを眺める。


「むむむ……これは……」


「……どうしたの?レリア。何か気になるものでもあった?」


「この自動研磨器が気になってて……でも、私はお金持ってないしなぁ……。」


「……これぐらいなら私でも作れるよ。お金も要らないし。」


「えっ!?ほんと!?」


「というか、これは質が悪すぎ。買うだけ無駄だよ。……そもそもこの店にあるもの全部私が作れるし。行こ、レリア。」


シトラはそう言って半ば無理矢理レリアの手を引く。


レリアはまだまだ見足りないという様子で抵抗したが、やがて諦めて大人しく引きずられる。


するとレリアは、再び何かに興味を引かれ足を止める。視線の先には魔水晶専門店と書かれた看板があった。


「魔水晶専門店……ねぇシトラ!魔水晶ってなに?」


「魔力の籠った水晶。あれを使って魔道具とか作るの。欲しかったら私が作るよ。」


「シトラそれも作れるの!?」


「うん。というか、魔法なら大体なんでも出来るよ。」


「じゃあエンチャントも出来る!?」


「出来るよ。その刀のこと?」


「うん!!じゃあ帰ったらお願いしようかな〜!」


イロハから貰った刀にもエンチャントは付いていたが、シトラのエンチャントの方が良いかもしれない、とレリアは考えた。


実際、その刀はイロハがエンチャントを施したものであったが、魔法の能力という面でいえばシトラの方が高かった。


「……というか、レリアってエンチャントとか知ってたんだね。魔法のことは何も知らないのかと思ってた。」


「師匠から教えてもらったからね!……詳しくはわかんないけど。」


「ちなみに、どんなのが良いとかあるの?ないなら適当に耐久性と斬れ味上げとくけど。」


「自動洗浄とかつけれる?一々血を落とすの嫌でさ……。」


「血……わかった。そうする。」


シトラは一瞬レリアの口から物騒な言葉が聞こえて戸惑ったが、レリアもそれだけ成長したのだろう、と自分を納得させた。


シトラからすれば、あのレリアが刀で血の出る生き物を斬るというのはかなり戸惑うことであったが、もうレリアも子供ではないと考えを改める。


「さて、それよりお腹空いちゃった!シトラのオススメのお店ってある?」


「あるよ。……この時間なら空いてる。行こうか。」


「やったぁ!シトラのオススメ、楽しみ!」


このとき、レリアはまだ、シトラが如何に上流階級に居るのかを把握しきってはいなかった。


そしてシトラも、自分がどれだけの立場に居るのかを理解していなかった。



「……シ、シトラ……?な、なんか……私、ほんとに場違いな気がするんだけど……。」


レリアとシトラは、非常に落ち着いた雰囲気のやたら高級そうなレストランに居た。


周りには高貴そうな格好をした客がおり、客が居るテーブル一つ一つにウェイターがついている。


「そう?別に、余程汚い食べ方をしない限り文句は言われないよ。ほら、メニュー決めちゃって。」


「うぅ……なんか、料理名難しくてよくわかんないし……じゃ、じゃあこのラエスタ肉のステーキにしようかな……これしか分かるものないし。」


「そう。私はリグレで。注文聞いてたわよね?持ってきて。」


シトラが近くに居たウェイターにそう声をかけると、ウェイターはかしこまりました、と言いながら深く頭を下げて、その後厨房の方へと向かっていった。


「ね、ねぇ。リグレってなに?」


「グラタンみたいなもの。一口食べる?」


「き、気になるけど……行儀悪くないかな……。」


「なにも?というか、さっきから緊張しすぎじゃない?」


「だ、だって……」


レリアは終始小声で恐る恐る喋る。


シトラはその様子を見兼ねて、テーブルの上に置かれているレリアの手を握った。


「私の婚約者を相手に文句を言える人間がここに居ると思う?私、その辺の貴族より偉いから。だからレリアも胸を張って。」


レリアはその言葉を聞いて、なんとなくショックを受けた。


シトラはこんなに遠い存在となってしまったのか。結局、自分はシトラに守られるだけなのか。


レリアは淡い笑みを浮かべて、弱々しくそうだね……、とだけ言った。


シトラはレリアの様子に違和感を抱いたが、その違和感に踏み込めなかった。


気まずい時間の中、ウェイターが料理を運んでくる。


「お待たせいたしました。こちらリグレとステーキとなります。ステーキはこちらのソースをおかけください。それでは、失礼致します。何かあればお声がけ下さい。」


そう言って、ウェイターは二人の会話が聞こえないような場所まで行って控える。


二人が気まずそうにしているのを察しての行動だと思われた。


「それじゃあ食べよっか!美味しそうだね!!いただきま〜す!!」


「……そうだね。……いただきます。」


どことなくぎこちなさそうにそう言い、二人は食べ始める。


レリアは使い慣れていないナイフとフォークをなんとか駆使して、形だけでも綺麗そうに食べる。


食事中、二人は一言も喋らなかった。



結局、二人は店を出るまで、少し一言二言交わしたぐらいで殆ど喋ることはなかった。


無理してこの空気を壊すことも出来たが、それをして相手がどう思うのか、と考えてしまうとどちらも一歩を踏み出せなかった。


二人が手も繋がずに王都を歩いていると、突然正面から声をかけられる。


レリアが驚いて顔を上げると、そこにはクレアが居た。


「レリアさん!……あっ、シトラさんも!お出かけですか?」


「はい!今シトラと王都を歩いてて……そ、そうだ!クレアさん!!ほんとにごめんなさい!その、いきなり飛び出しちゃって……。」


「ふふっ、あの時は本当に頭を抱えましたよ。まぁ、元気そうでなによりです!それに、シトラさんとも仲が良さそうで……。」


レリアはそう言われ、少しばつが悪そうに顔を逸らす。


「……?どうかされました?」


「……なんでもないわ。それより、私達の時間を邪魔しないで。」


「えっ……あ、そ、そうですよね!すみません!では、失礼します……。」


シトラに冷たくそう言われ、クレアは少し怯えながら立ち去っていく。


「……なんでそんな強い言い方したの?シトラ。クレアさんは私の事助けてくれたのに……。」


「……王都は危ない人ばっかりだから……」


「危ない人ばっかりだからシトラが全部管理するの!?!?」


突然レリアが大声を出し、周りの者が何事だとざわめき出す。


「シトラ、やっぱり変だよ!!昔もこうやって私を守ってくれたり忠告したりしてくれたよ!!でも、昔は私もシトラも対等だった!!でも、今のシトラは、何だかもう私の上みたいに振舞って!!私って、もうシトラと対等じゃないの!?!?」


「レ、レリア……そういう訳じゃ……」


「じゃあ何なの!?守ってあげるとか、そんな事言って私の選択肢を勝手に奪っていくじゃん!!シトラのバカ!!!」


「ちょっと!レリア!?!?」


レリアは言うだけ言い捨ててどこかへと走り去ってしまった。シトラは慌ててレリアの事を追おうとしたが、人混みに阻まれてレリアを捕まえることは出来なかった。


シトラは昔の、レリアに魔力が無いとわかった時のことを思い出しながら、何を間違えたのかと自問自答し始めた。


人混みが落ち着いてから、シトラはレリアを探し王都を走り回った。


一方クレアは遠巻きからそれを眺め、また頭を抱えた。

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