脳筋陰陽師と雪女
ランドリ🐦💨
第1話 邂逅
とある雪の日。降雪の切れ目に雪が人の形を成したような少女が姿を現した。
白。
全てが白で統一された少女が白い雪で飾り付けられた神社の前に立つと、消えてしまいそうなほど儚く見える。
しかし彼女が口を開くと、そのような印象は吹き飛んだ。
「ここが例の陰陽師さんがいるっていう陰陽房ね! たのもー!!! あ! 居た! そこの雪かきをしている陰陽師さん! ちょ〜っと、お願いがあるんだけどー!」
「その気配、人並み外れた美しさ。お前人間じゃないな? どうやって俺の滞在を知った?」
見た目の印象と違いオーバーリアクション付きで喋りまくる彼女に返事をしたのは、着流しに雪を背負っている青年だ。
何の寒さも感じていないらしい青年は雪かき片手に首を傾げつつ、白の少女が人間ではないと見破ったようだ。彼が怪奇雪背負い男なのは誰が見ても明らかなのだが……。
雪背負い男の滑稽な看破を受けて……人外少女は腰をクネクネさせて喜びながら、律儀に怪奇青年の疑問に答える。どうやら指摘を褒め言葉として受け取ったらしい。
「そんなぁ〜♪ いくら事実でも人並み外れて美しいだなんて言われると、照れちゃうなぁ♪ あ! 私って人間じゃなくて雪女だけど、悪いことは考えていないから! お話みたいにお年寄りを氷漬けにもしない善良な一般妖怪だから!! 退治しないでね!!! ね? 陰陽師さんの居場所はスマホで調べたら分かったよ!」
「そんなバカな……。それに俺は休暇中なのだが……」
陰陽房とは。国家が全国を飛び回る陰陽師の為、全国の寺社仏閣に整備した拠点なので国営であり、情報公開の一環で陰陽房の宿泊状況は国のホームページに公表されているのだ。
スマホやネットカフェを利用するような世の中の流れに合わせられる妖怪には滞在がバレてしまうので近年問題となっている。
あと、陰陽師が陰陽房を使っているということは仕事の待機扱いとなるので、賃金が発生している。休暇中ではない。
「陰陽師さんのプロフに怪異の事ならば何時でもご相談承ります! ってあったよ!!」
「プロフ……。そういえば、プロフィール欄を設定するようにと師匠から言われていたな。こういうことか……」
「ところで陰陽師さんは小林 金太さんっていうんだよね! 陰陽師さんだと長いし小林さんって呼んでも大丈夫?」
「構わない。半ば芸名のようなモノだ」
「へぇ~! 真の名は〜って奴? 格好いい!」
「そんなところだ」
そう。雪女よりも世の中の流れに置いていかれている陰陽師の名は小林 金太。
真の名は隠せても所在が完全オープンになっていたのは知らなかった。自称善良な一般妖怪よりも近代化の波に乗り遅れている若き陰陽師である。
陰陽師のプロフィールから自分の目的を思い出したらしい雪女は、さも名案を思いついたかのように表情を明るくすると、再度お願いをする。
「あ!! そういえば小林さんにお話を聞いてほしいんだった!」
「ふむ。話を聞くだけならば承ろう。妖怪からの相談は受け付けていないのだが……困っている奴を放置した結果、トラブルに発展したら俺の仕事が増えるからな。休暇中の呼び出しはごめんだ」
繰り返すが陰陽房を利用している限り、休暇中扱いとはならない。陰陽房は陰陽師資格を提示すれば無料で寝泊まりが可能だが、仕事の待機場所であって無料宿泊所ではないのだ。
「ありがとう!」
「客間で茶でも出そう。お前にとっては居心地が良かろうが人間にこの寒さは応えるのでな」
「あ、お構いなく〜。って!? えっ! 雪女の混血じゃ無かったんだ!? どうしてそんな薄着なの!? なんで!?」
「うちの家系は代々普通の陰陽師であって、そのような大層な謂れはない。気合で耐えていただけだ。そしてコイツはここの支給品だ。なんといっても無料だからな。タダより安いものはない」
「えぇ〜!? 絶対に冬用じゃないよね!?」
「このような場所は全国にあるからな。季節ごとにバリエーションを設ける余裕はないのだろう」
どうやら怪奇雪背負い男ではなく人間だった青年は、雪かきを積もった雪に突き刺すと何かと激しい反応を見せる雪女を奥へ導く。
彼の言う通り陰陽房は全国で一気に整備された施設であり、その備蓄品も良く言えば効率的に配給されたものである。
しかし着流し一種類とはいえ対怪異に耐える特殊な術のかかった防護服を大量に配給したのだから、当時の担当者は悲鳴を上げていたに違いない。
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