第10話 夢の実

 山県の死後、しばらくの間、都の街は静けさに包まれていた。だが、その静寂の中にも、何かが渦巻いていることを誰もが感じ取っていた。力竹瑠衣、八坂、四谷、連城六郎が手を組み、山県の冷徹な支配を打破したその後、彼らが手にした権力と資源は、誰もが目を見張るほど強大だった。しかし、山県の死は必ずしも終わりを意味するわけではなかった。それが引き起こした反響は、予想以上に広がり、他の勢力たちも動き出すこととなった。


 その中でも、山県の死を最も深く悲しんだ男がいた。それは、烏丸であった。


 烏丸は山県の側近であり、彼に忠誠を誓っていた男だった。ホームズが烏丸でワトソンが山県だったが、山県が夢を実現させるアイテム『夢の実』を使った為に逆転した。 

 表向きは冷静で理知的な人物であり、政治的な手腕を持つものの、内心では山県の存在に深く依存していた。山県の死が告げられた瞬間、彼の心に湧き上がったのは、失われたものへの深い喪失感だった。彼の理想や信念、そして全ての計画は、山県の支配の上に成り立っていた。しかし、山県が死んだことで、それは完全に崩れ去った。


 烏丸は、まず最初にその死を受け入れることができなかった。彼の瞳には、ただの冷徹さや理屈では説明できない感情があふれていた。山県の死は、単なる権力の移動ではなく、烏丸にとっては長年抱えてきた支配者への盲目的な忠誠心の崩壊でもあった。


「山県様…あなたの意志は、私が引き継がねばならぬ」

 烏丸はつぶやきながら、山県の死を深く悲しんだ。

 彼はしばらく一人で考え込む時間を持った後、ようやく立ち上がり、自らの運命を切り開く決断を下した。山県の後継者となること、そして瑠衣たちとの戦いを挑むこと。そのすべてが、彼にとって新たな挑戦だった。


 だが、烏丸にとって最大の試練は、山県の死後の虚無感をどう埋めるかだった。烏丸は山県に心の奥深くで依存していた自分を認めざるを得なかった。山県の冷徹な支配の中で、烏丸は安心して自分の立場を保っていた。しかし今、山県を失ったことで、その空虚な部分が一気に押し寄せてきた。


「私が、全てを支配する」

 烏丸はその言葉を繰り返し、自分を奮い立たせるように言った。しかし、瑠衣とその仲間たちが築いた新しい秩序を前に、烏丸の心はどこか不安に満ちていた。


 彼は新たに権力を奪うべく、次の手を考え始めた。力竹瑠衣の冷徹さに対抗するためには、彼女が最も恐れているものを突きつけなければならない。八坂、四谷、連城六郎――彼らはもちろん強力な仲間だが、烏丸には山県を支えていた経験があり、冷静に戦局を読み解く力があった。だが、それでも瑠衣たちの力が増す中で、烏丸の前に立ちふさがるものは次第に増えていくことになる。


 山県の死が烏丸にとっても深い悲しみをもたらしたことは否定できない。しかし、彼の悲しみは次第に復讐と支配への渇望へと変わり、瑠衣との対決を決意させるまでに至った。


 烏丸は再び動き出す。山県の死を悼みつつも、彼は新たな戦争の火種をまくため、策を練り始める。そして、力竹瑠衣とその仲間たちが築いた新しい秩序に、再び立ち向かう決意を固めるのだった。


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