PDOL

 ドンドンドンドン!!

 ドアを激しくノックする音が聞こえる。

 ああ、うるせぇ……。こちとら『月の法律を作ってくれ!』という無理難題に四苦八苦しているっていうところなのに。

 とりあえず、一通り各国の大まかな法律の根源となるものはわかった。つまるところ、簡単に言うと道徳感や倫理観だ。そういうものはどこの国も基本的には一緒っぽい。でもまぁ、わかれば問題はない。ただそれを守ることがすごく難しいと言うだけだ。

 ともかく僕がドアののぞき穴から相手を確認すると、目前にいたのは月の法律を依頼してきた外国人だった。

「……あんたですか。っていうか、前回はインターフォンを使ってくれたのに、今日は直ノックとか、乱暴ですよ」

「昔はインターフォンなどなかったですから」

「今はあるでしょ。ドアノックするにもマナーがあるかと」

「逆にインターフォンを使うと居留守を使われる可能性があったので。私は学習しました。それに、これが日本のマナーかと」

「……誰に教わったんです。ヤクザじゃないんですから」

「上がっても?」

「……」

 僕はしばらく逡巡する。どうしたものだろうか。家に上げたくないので、とりあえず玄関で粘ることにしよう。

「ご要件は? 月の法律はまだですけど。一年経ってないですし」

「貴方にさらなる仕事を引き受けていただきたいのですが」

「……なんですか」

「やはり暇そうだ」

「いい加減にしてくれますかね」

 男性は分厚い封書を僕に渡す。封筒は昔、役所などが使っていたような、紐がついているものだ。今どきこんなものはあまり見かけない。というか、僕自身が無職だからかもしれないけども。

「これに目を通していただきたい。契約書各種です」

「何の契約書ですか」

「プラネタリーディフェンスに関するものなのですが、条約としてまとめたいのです。貴方にはそれができるかと」

「新手の詐欺ですか?」

「人聞きの悪い」

 男性は封筒を手に僕をじっと見つめる。これは受け取るまで粘るやつだ。仕方なく受け取ると、その場で内容を確認する。

「月の法律だけではなく、貴方には『Planetary Defense Of Law』を取りまとめていただきたい」

「ぷらねたりー……なんですって?」

「契約書をご覧になればわかるかと。では」

 男性はまた荷物を押し付けると去っていってしまった。


 はぁ……やれやれ。一体今度はなんなんだ? ちらっと内容を見た感じだと、どうやら音波振動で落下してくる衛星から地上を守る発明の特許的なものらしい。


 というか、あの男性はいつ、僕が弁理士資格も持っている可能性があるっていつ知った!? この弁理士資格というのも、ある意味特殊な、法律の盲点をついての取得方法だったので『あえて取っていない』ということにしておいたのだったのだが。


 月の法律だけではなく、大量の契約書を押し付けられた僕は、頭をかくしかなかった。


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