ランチ

 今日もいる。少し年上そうだから「いらっしゃる」と丁寧に言わなくてはいけないかもしれないけども、そんなことはどうでもいい。今日はおにぎりか。中身はなんだろう? 卵とハムのサンドイッチを口にすると、子ども用の科学ラジオ相談を聞く。このラジオ番組はいい。子どもの視点は斬新だ。この番組を糧にして、新たな発見をしたいと思いながら昼食を摂る。今日は晴れ。しかし、完全な晴れでもこのキャンパスは少し暗い。多分、高い建物が日差しを遮っているのだろう。鬱蒼としている木立は、美しさよりも科学者たちの疲れがにじみ出ている。はぁ……。


 今日も彼はいる。サンドイッチか……。中身はなんだろうか。僕のおにぎりはツナと梅干しだ。タンパク質と酢酸は夏に向けて必要な栄養素である。そして、サラダと牛乳。ビタミンと繊維質も摂取しなくては。科学者も身体が資本である。基本運動はしていないから腹はあまり空かないが、脳に栄養素を送らないと頭が働かない。

 一旦スマホをオフにした。キャンパスにいることはわかっているだろうし、昼食はここで食べていることは有名だから、何かあったら誰か呼びに来るだろう。


 スマホ、いじってるな。あの人。僕もアプリでラジオを聞いているけど。今、彼は一体どの分野に興味を持っているんだろう。気になるな。……おっと、ラジオに集中しなくては。しかし、最近の子どもの視点は子どもらしくなくなってきたんだなぁ。「子どもらしさ」というものは、そもそも大人が作る幻想なのかもしれないが。だけど、こんなに子どもが持つ疑問点が大人びてきていると、僕ら大学教授はどういう立ち位置になればいいんだろうと思ってしまう。ただでさえAIを使う学生のレポートを見破ると言い切ってるんだ。僕らには、考えることをやめない人材を育てるという役割がある。


 ……ん? 彼、音楽を聞いているのか? 耳に有線イヤホンがついている。この時代に有線イヤホンというのも珍しいが、無線イヤホンだとたまにいらない電波を拾うことがあるからな。落としたときも見つからなくなるし、合理的判断だろう。しかし、今日だけでロケットは3本も宇宙に打ち上げられるのか……。また宇宙ゴミが増えて、地球に衛星が落ちてくるとかいうことになっても僕は知らんぞ? 


「先生!!」


 この声に、僕らは反応する。あ、彼もここの教授だったのか。

 呼んだ学生は、全然僕らとは関係のない女性の元へ近づいていく。食べかけのランチを噴水の横に置き中腰になった僕らは、互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る