第37話 リア超強化計画

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……きっつい……」


「ハッハッハ!まだまだ訓練は始まったばかりだよ!へばってないで2セット目いっくよ~!」


「ちょ、ちょっと待って!?」


「頑張ってください」


 絵里奈の魔法が聖域の空間全体に飛び交い、梨里愛が必死に避け、それをラファエルが眺める。何故こんな事になっているのか、それは数時間前に遡る……


― ― ― ― ― ―


「今日もお願いします!」


「ハッハッハ!任せ給え!」


「すごく不安ですね……」


 徹と絵里奈の雑談配信の後、徹は暫く帰らないと言って出かけた為、普段から徹が訓練場として利用していた箱根の聖域を徹に隠して使う事ができるようになっていた。なので、こんな好機逃せないと3人が訓練場として使うことに決めたのだった。

 ちなみに梨里愛は以前の龍事件以来、絵里奈達を師匠として従っている。ただし、徹には秘密である。


「今日はここで訓練するから、いつもよりハードにいくよ!?」


「お、お手柔らかに……」


「怪我したら私が治しますけど、あまりやりすぎないでくださいよ?」


「大丈夫!トラウマになるような技使うの兄さんだけだから!まあ大怪我はするかもだけどね!」


「大丈夫とは言えませんよ?それ」


(あれ?師匠たちなんかすごく怖い話してません?これ、私今日死ぬんですかね?)


 何となく嫌な予感はしていたが、命の危機に晒される覚悟は探索者になった時点である程度はできている上に、相手はあくまでも師匠なのでそこまで酷いことにはならないだろうと思っていた。しかし、これは大きな思い違いだった。


「じゃ、まずはこれ着けて!」


「いつものブレスレットですね?」


「そう!いつもの魔法禁止ブレスレットだよ!今日はこれをつけた状態で私の魔法を30分間避けきってもらいます!」


「……もう一回言ってもらってもいいですか?」


「だから、30っていったんだよ」


「……まじですか?」


「まじだよ、大マジ」


「……」


(ま、まぁいつも見せてもらっている魔法くらいなら、魔力を制限されて身体能力を強化していない状態でも逃げ切れる……のかな?)


「じゃ、いっくよ~!」


「はい!」


「まずは1属性から始めるからちゃんと避けてね!多重奏×輪唱 ー序曲:オーバチュアー」


 刹那、白い光の粒子がゆっくりと降り注ぐ。見た目は雪のように白く小さな光だが、それを見た梨里愛の顔が少しずつ絶望に染まっていく。


「……?????」


(何あの魔力の集中量……一つ一つの粒子が特級魔法5回くらい撃てるレベルで魔力集中してません!?え、私これ避けるんですか?こんなに散り散りなのに?)


「マスター?それ私も巻き添えになりません?」


「え?それくらい防御してよー」


「えぇ……」


「――っ、来る!」


 ぽつ……ぽつぽつ……ぽつぽつぽつ……


 1つ、また1つとどんどん地上に到達する光の粒子の数が増加する。そのたびに粒子と粒子の間が狭くなり、避けるのが難しくなっていく。


(右1、上3、左2……いやこれ数えるだけ無駄なやつですね!?)


「これ無理ですって!?さすがにもう避け―――痛っ!?」


「こらこら、避けることに集中しないと。それにこれでもかなり手加減してるんだよ?本来ならもう種類が増える時間とっくに過ぎてるし。さ、あと残り5分頑張れ!」


「きついですってぇぇぇ!?」


 そこから時間が過ぎ、ラファエルの治療を受け、現在へ……


― ― ― ― ― ―


「待ってって言われてもね……これは訓練だから負荷かけないと駄目だし」


「それにしたって……ひどくない……ですか!?滅茶苦茶キツいん……ですけど!?息も絶え絶え……ですし!?」


「うーん……これでもだいぶ手加減してるよ?」


「それ……本当ですか?っふぅ……というかそもそもその魔法私知らないんですけど……」


「そりゃそうだよ。だってこの魔法兄さんが下地を作って私が構築した魔法だもん」


「そうなんですか!?それどんな魔法なんですか?」


「本当なら企業秘密なんだけど……まあ師匠と弟子だからね!教えてあげる!まず既存の魔法って、属性と効果が既に定まっているよね?」


「はい、そうですね。そこから魔法の強さによって中級とか上級とかに分かれているというのが常識ですね」


「そうそう。でも、それだと創意工夫を魔法に当てはめることができないでしょ?自分のスタイルに合わせた魔法を扱う事こそが、より強い魔法使いになるために必要なことだと考えたんだよね。だから、兄さんの協力を仰いで魔法の研究をしてきたんだ。その結果、魔法を創り出すための条件とかが色々分かったんだけど……まぁここらへんは長くなるから端折っちゃうけど、色々やった結果出来上がった魔法が私が今扱っている魔法なんだ」


「ずいぶん吹っ飛ばしましたね……まあいいですけど」


(つまり研究次第で魔法は作れるってことですか……私も研究してみましょうかね?)


「ま、あと1周したらその魔法についてしっかり教えてあげるからもう1セット頑張れ!それに多分私が教える魔法が兄さんに対するの1つになり得るはずだからね」


(それに、梨里愛ちゃんは私と違って剣を使った近接戦闘もできる。それならひょっとすると兄さんのも突破できるかもしれない。私だと近接戦で絶対に勝てないせいで突破できないからね)


「わ、分かりました……頑張ります……!」


「よしそれじゃあ早速さっきの続きから行こうか!」


「へ?」


再構築リキャスト ー序曲:オーバチュアー、 ー第1楽章:コンチェルトー」


「ちょっと!?しかも増えた!?」


「制限時間30分のデスマーチはっじまっるよ〜♪」


 先程までのオーバチュアのみの状態ではかなりギリギリの回避劇を見せていた梨里愛だったが、2周目に突入し手数が増えた技の前では避けきれるはずもなく、少しずつ攻撃が当たる数が増えていく。


 ぽつ……ギュアンッ!


「――っあぶなっ!?」


(さっきまででもかなり厳しかったのに、これって厳しすぎませんか!?ただでさえこの雪みたいなの避けるだけでも相当体力削られるのに、それが地面に接触した瞬間槍みたいになって飛んでくるって……本当になんなんですかこの魔法!?)


「頑張れー!」


(いやーすごいね。この魔法既に2段階目に入っているのに時々ダメージを受けるだけで済んでる。何よりも動きに無駄が少なくなるまで時間があまりかからなかった。多分梨里愛ちゃん相当目がいいね。兄さんと同じ、五感が優れているタイプ。となると、私が訓練として採用した今のやり方は正解かな?普通なら体の動きに目が追いつけるように調整するけど、目が既に出来上がっているから動きの無駄さえ省ければいい。近接戦闘において圧倒的なアドバンテージになる、いい才能だね)


「梨里愛ちゃーん、体をそんなに動かしたら少しずつ削られちゃうよ〜?最低限の動きで躱しな〜」


「それミスったら死んじゃいますよ!?」


「ご安心ください。梨里愛様が亡くなられても私が蘇生いたしますので」


「蘇生できればいいってものじゃないんだよ!?あーもう!全部避けきってやりますよ!?」


 時々絵里奈に発破をかけているのか虐められているのか分からなくなるような言葉をかけながら、攻撃を避け続ける。そして遂に……


「時間です」


「ありゃ?もう30分たった?じゃあ終わりだね」


 パンッ!


 絵里奈が手を叩いたと同時に、漂っていた光の粒子と梨里愛に迫っていた槍が消滅した。


「あ、危なかった……危うく死ぬかと……」


「いやーお見事だよ本当。正直1、2回は死にかけまでいくかなって思ってたんだけど、まさか致命傷は一切無しで時間いっぱい避けきるとは思わなかったよ」


「え?本当に私のこと殺しに来てます?死にかけまでいくかなじゃないんですよ?」


「まぁまぁ、そのかわりちゃんと今の魔法とか教えてあげるからさ!ね?」


「仕方ないですね……今回は見逃します」


「やったぜ」


― ― ― ― ― ―


「さて、治療も終わってラファエルも帰ったし、魔法の解説に移ろうか!」


「お願いします!」


「と言ってもさっきの魔法についてはあんまり解説することないんだけどね?まず分類に関しては言うまでもなく神話級だね。魔法名は奏魔法。序曲から始まって、終曲で終わる1連の流れを魔法で作り出す魔法だよ」


「流れを作り出す……ということはさっきの雪みたいなのと槍も、その流れで作られたものですか?」


「その通り!この魔法は使う人によって効果も内容も全く違うものになるんだけど、私の場合は聖光領域を創り出すって効果になってるね。理由は多分、私が天使系の力を扱うからかな。光りに包まれた領域を創り出して攻防をその魔法だけで完結させ、自分や味方にはバフを、敵にはデバフをかけるみたいなこともできるよ」


「なんですかそのやばい魔法」


「でもあくまでもこれは流れを作り出すための魔法だよ?本当の能力は、前兄さんと天霊がやってた理想世界を作りだす為の布石だからね〜まあこの魔法だけで殆どの敵は倒せちゃうから次の段階まで行くことのほうが珍しいんだけど」


「そりゃあそうですよ……」


「ま、そんなことよりも今から魔法理論について教えてあげるから、一緒に魔法作ってみよう!」


「え、そんなに簡単にできるものなんですか?」


「理解さえすれば簡単だよ?と言うことでレッツスタート!」


「お、おー?」


― ― ― ― ― ―


「こ、これは……!」


「どうですか!?」


「いや、こんな考え方は今までにしたことなかったわ……これ面白いね!これなら兄さんの意表を突く事もできるかも!?」


「本当ですか!?」


「でも、しっかり扱えないとダメだからね!まずはこれを実戦で使えるぐらいまで明日以降ビシバシ鍛えよう!」


「はい!」


 こうして2人は新たな魔法を作り出したのであった。その力が一体どのようなものなのか、それはまだこの2人しか知しらない。



― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

あとがき


イソガシイ……イソガシイ……

3月に入ってしまえばもうちょいマシになるはず……

頻度低くてすみません

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