第30話 最果ての地にて理想を描け(其の参)

 とは言ったものの、スクラマサクスの形態だとリーチが若干短くなるから懐にどうにかして入らないとなんだよな……

 速度と火力に全振りして特攻してみるか。


「多重奏 ーフィジカルブースト:8重ー」


 多重奏、その効果は魔法効果の重ねがけという至ってシンプルな技だが、効果の大きさに比例して難易度も上昇する。俺自身はあまり魔法関連が得意ではないから精々できても8重が限界だ。だが、フィジカルブーストの効果は、"基準能力値を2倍にする"という効果である。それを6重に重ねたのだ。ならばその効果は――基準能力値の256になるということだ。それだけあれば……


 フッ――キキキキキキキンッ!


「とりあえず白い方は細切れにしたからな。これなら再生にも多少時間はかかるだろ。その間にっ」


 間髪を入れずに赤皇炎龍に刃を向ける。重要なのは、確実に相手の息の根を止めるための一撃を見舞わせること。


「天流剣術 ー月刻げっこくー」


 1つのモーションで30連撃を敵に打ち込むことができる、徹が作り出した短剣術の最高傑作、月刻。一部の攻撃は赤皇炎龍の炎に防がれてしまったが、それでも殆どの斬撃が龍の体に当たった。その結果、2体の龍は再生が間に合うことはなく、地に伏した。


:うおぉぉぉぉぉぉ!

:キター!!!

:何も見えなかった……

:最強種2体同時討伐ま!?

:スゲェェェェェェ!

:これは強すぎんだろ

:早すぎて天さん何処行ったかわからなかった……

:後は真ん中にいるやつだけだ!

:天さん行け!

:勝てるんじゃないか!?

:勝ったな風呂食ってくる

:負けフラグを立てるんじゃない


「とりあえずこれで前座は終わりだな。ビビってないでとっととかかってこいよ、本命」


『見事だ人の子よ。よくぞ我が配下を沈めたものだ』


:!?

:ふぁ!?

:なにこれ気持ち悪い

:頭になんか言葉が響く……

:うげぇ……

:念話?にしても何で配信超えてこっちまで来てるんだ?

:待ってなんかトレンド一気に変わったぞ?

:脳内に言葉が聞こえるのなんか日本全体で起こってるらしいぞ!?

:は?

:まじ?

:やばくね?ダンジョン内の事象が地上まで届いてるってことでしょ?

:そんな事あるんか……?

:まさか、だからこその超越種……?

:そういう意味なの!?

:どのみちまじでやばいな

:まじどうなってるんだ……?


「念話でわざわざ話さなくていいわ。配信……俺とお前の会話を、世界中に届くようにすることができる道具を使ってるからな。だからそんなでかい声で念話を飛ばすな。あと、俺は天だ。お前もまずは名を名乗れ」


『良かろう人の子よ。我が名は天霊あまのみたま。偉大なる自然を司る真の精霊であり、高天原を守護する者の内の1体である』


 高天原の守護者?ってことはやっぱガチの超越種じゃねぇか……

 

 流石の徹でも表に出せないと隠してある情報はかなりあるが、そのうちの1つである、世界に存在する奈落(仮名)は国や地域によって全く違う土地になっているというものがある。そしてここ日本では、日本神話を元とした世界観が奈落には形成されており(らしい)、神話に出てくる天津神が住まう土地、高天原と呼ばれている。

 ちなみに確証がない理由は、徹自身奈落に入ったことがないと思っているからである。実際には以前、一度だけ入っているのだが。とは言えそれも正規ルートではなかった為、徹が勘違いをしても仕方がないのかもしれない。


:高天原ァ!?

:やっべぇじゃねぇか!?

:なにそれ何処?

:高天原まじ?

:天照様!?

:知らんのだが

:高天原知らないってお前らほんとに日本人か!?

:天照大御神をはじめとする、天津神たちが住まう天上の世界よ!?

:神の世界!!!

:は?まじ?

:え、超越種って神の土地の守護者ってこと?

:やべぇ今までで一番脳が追いついていない……

:ヤバイヤバイヤバイ

:アババババババババ

:ふぇぇぇぇぇ……

:視聴者壊れちゃった……


「そんな偉大なお方が何故ここに?」


『ただ産まれたからとしか言えぬな。だが、汝が先へ進もうと言うのであれば、我を超えねばならぬ』


「さいですか。じゃあ、とっとと殺り合おうじゃねぇか。こちとら覚悟はもう決めてんだよ。超越種は必ずいつかは超えねばならない。なら、今ここで超えてやるよ」


『その覚悟、気に入ったぞ。では始めようではないか……さらなる先へ進む為の試練を!!!』


 脊髄反射で回答してるうちに気がついたら試練が始まっていたんだが、まあいいか。とりあえずまずは様子見……


『ー大海ー』


「っ、マジか!?」


 ドガァァァァァァン!!!


 何も無かった空間に、突如大量の水が流れ込んでくる。それもただの水ではなく、魔力によって操作された敵を討つ為の水だ。油断は一切していなかったが、想定外の攻撃に徹は隙を一瞬見せてしまった。格下との戦いであれば多少の隙などどうにでもなるが、格上や同格の相手と戦う上ではその隙は致命的な一撃を浴びる事になりうる。そして……


『ー荒れ狂う渦ー』


 ゴキャッ――


 避けきれず、ほんの一瞬かすってしまったその攻撃により、徹の腕は引き千切られてしまった。


:!?!?!?

:は?

:え、何が起こった?

:互いに姿が見えなくなったと思ったら、次の瞬間には天さんの腕が引き千切られていた!?

:何が起こってるんだ???

:天さん、腕ぇぇぇぇぇぇぇ!?

:やっばグロ……

:うわぁ……

:探索者の配信を見ているからダンジョン内で死ぬ瞬間とか何度も見てるけど、ここまで力尽くで引き千切られたみたいな光景初めてみたぞ!?

:ヤバぁ……

:いやまぁ天さんも天さんで首と心臓刺されても死ななかった化け物だから平気だろうけど……


「ちっ、生身とはいえまだバフ残ってんだぞ?それなのに腕引き千切るってどんな威力だよ!?」


 何処まで行っても超越種は超越種かよくそったれが!それにしてもここまでガッツリ腕持っていかれるとはな……多分空間ごと削ってるなこりゃ。となるとこれは流石にスクラマサクスの形態じゃダメだな、小回り利かせて何とかなる次元じゃねぇ。これだから嫌なんだよ、コイツらの魔法は。とりあえず腕はポーションで治して元の大刀の型に戻すか。


 あくまでも結果的にではあるが、徹の判断と考察は正解であった。超越種が扱う魔法、神話級魔法には3段階階級が存在しており、1段階目に窮極魔法、2段階目に概念魔法、3段階目に理想魔法(世界)というふうになっている。先程天霊が使った魔法は、この中で言うところの1段階目の魔法である。故に、もしここで同スタイルでの戦闘継続を実行していた場合、更に精度と火力の上がった魔法により回復や蘇生の暇もなく、瞬殺される可能性もあった。

 ちなみに徹が魔法として扱えるのは2段階目の概念魔法までである。


「さて、仕切り直しだ馬鹿野郎。まずはお前の性質を理解しねぇと戦うことすらできねぇからな。手の内全部出させてやる。まずはその邪魔な水を消し飛ばしてやる。

ー天流抜刀術 弐式 とどろきー」


 ドゴォォォォォォォン!!!


:ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?

:耳ぃぃぃぃぃぃぃ!?

:知ってた

:鼓膜が……鼓膜がないなったよ……

:鼓膜オワタ

:耳キーンってなった……

:何今の爆音!?

:爆音芸はお約束かな?

:水の音もやばかったけどそれ以上にやばい音なってたぞ!?

:アホ火力=爆音

:これだな

:いやーそろそろ来ると思って音下げといてよかったわ

:音やべぇ……

:こいつらキッショ、なんでわかるんだよ……


 天流抜刀術弐式、轟。壱式響と対となる、激の剣技である。効果は音波増幅、音波熱発生、連爆、音響斬撃:激の4種である。抜刀の際のエネルギー全てを音に集約し、爆発的に発散させる事で周囲一帯を吹き飛ばすという、地上では絶対に使えない技となっている。

 ちなみに以前龍討伐の際に使った壱式響の効果は、音波集約、不可視、神速、音響斬撃:静の4種である。


 徹の放った斬撃により、天霊が生み出した水は全てが消し飛ばされた。しかし相手もまだ手の内はほぼ見せていない状況のため、膠着したままと言えるだろう。

 今度は一瞬たりとも隙を見せず、冷静に場面の動きを観察する中、天霊は再び行動に出た。


『ー大海ー』


「はっ、また同じ技かよ!芸がねぇなァ!」


 同じ技で来るならいくらでも対策なんて作れるんだよ!今度は抜刀術なんて使わず受けきってやらァ!

 

 しかし、徹の予想は外れた。天霊が放った技は、先程と同じ魔法などではなかった。そして、徹はこの技が更なる魔法を生み出す基礎でしかないことに気づくことができなかった。


『ー事象反転:理想世界:業炎冥海ー』


「は?」


 水に空間が覆われた瞬間、水が急速に熱を帯びた。なのにも関わらず、水は蒸発せずその場に留まり温度は上がり続ける。そして……

 空間を覆った水は灼熱地獄のように燃え盛り、辺り一帯が赤い月によって照らされる。その中に佇む天霊の姿は、小さな水でできた龍ではなく、燃え盛る水で形成された人型となっていた。



― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

あとがき


遅くなりましたすみません。

設定を色々まとめてたら時間過ぎてました。

多分分かりづらい所あるので質問あれば受け付けます。

あ、あといいねたくさんありがとうございます!

10kがどれくらいなのかはわからないけど……

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