・裏切り者とドロシー・トト
で、ここからが問題だ。
推定午後1時頃に迷宮攻略を始めた俺たちは、何度も休憩をはさみ、やがて眠くなってきたので寝た。
「あ、あん……♪ ダメです、クロ……ッ、ミフネ様に気付かれて、しまいます……っ♪」
「そしたら……仲間、入れてあげたらいい……。かわいいよ、シロ……♪」
寝るとシロとクロがイチャイチャし始めたのはまあお約束。
こんだけ得体の知れない場所の奥深くに入り込んでいるというのに、図太い精神しやがってこいつら!
だがね、俺はね、百合にはさまる勇気はない!
これに混ざるのは冒涜的な気がするので、タヌキ寝入りオンリーで楽しませていただきます、あざっすっ!!
と、感謝しつつもドキドキの夜を過ごし、ふぅ……、翌朝目覚め、行軍開始。
進んで進んで進み続けて、昼飯が食べたくなった頃。
俺たちはようやくのことで、迷宮の深層にたどり着いた。
ただし、そこには大きな問題が待ちかまえていた。
あり得ないことが起きていたのだ。
簡潔に言えば、俺たちの陽動作戦は失敗していた。
迷宮最深部の祭壇部屋。
そこへとホイホイと興奮に駆け込んだ俺たちの背後に、待ちかまえていた魔物の軍勢が入り込み退路を塞いだ。
「ふふふ……お疲れさまー♪ 賢者の手記探しは、楽しかったかしらー?」
その魔物を率いていたのは、学術都市アサティスのナタネ・シルフィード教授だった。
祭壇の宝箱は既に空で、エルフな彼女はそこから取り出した手記を俺たちにちらつかせる。
「お前、魔王軍側、だったのか……?」
「さてどうでしょうー♪」
「なら、クローディアも……?」
シペラスと俺は隣の黒魔術師に剣を向けた。
クローディアはノーリアクション。
いや、耳をパタパタとさせた。
「ナタネ……これ、どういう冗談……?」
「残念、冗談じゃありませーん♪ 殺されたくなかったらー、賢者の手記をこちらへどうぞー?」
挨拶代わりにはあまりに危険な、氷の槍をナタネ教授は俺に撃った。
それをクローディアのエネルギー魔法と、シペラスの剣が弾き飛ばした。
ビ、ビビッてなんかいねーってばよっ!?
「賢者の……手記……?」
「そうよー。わざわざ封印の中から、禁断の書を取り出してくれて、ありがとう、緑の英雄様♪」
「お前っ、ミフネ様を利用していたのかっ!?」
そういうでかい声で叫ばれると、突きつけられたような気分になるから止めて?
いや、まあ、利用されてたんだなぁ……なんか実感薄いけど。
「んじゃ、集めれば元の世界に帰れるってあの話……まさか、嘘……?」
ナタネ教授は邪気を混じらせながらもやさしく笑った。
「それは本当よ」
「はぁっ、ああよかった……ならいいじゃん……」
帰れるなら何も問題ない。
だってそうじゃない?
寄越せと言われても渡さければいい。
ていうか逆だね!
奪えばいいじゃん、あの手にある手記を!
「けれど貴方の世界に行くのは、貴方ではなく、魔王軍よ」
「マジでー? ははは、そりゃちょっと面白いじゃんっ、やってみようぜーっ!」
「なっ、ミ、ミフネ様っっ!?」
「現代兵器VS魔王軍! 俺、それちょっと見てみたい!」
ちょっと魔法が使えるくらいで重機関銃に勝てると思っているこいつらの断末魔を聞いてみたい。
ナタネ教授は想定のリアクションと大きく外れていたのか、言葉を失っていた。
勝てるわけねーじゃん。
地球人類の悪意にこいつら魔王軍ごときが。
逆にカモにされる未来しか見えねーわ。
「ナタネ……賢者の手記……その筆記者の、名前は……?」
「あら、謎かけ? ドロシー・トトでしょう?」
「……ふっ、大ハズレ……。ドロシー・トトなんて人、存在しない……」
はい、ドユコト……?
クローディアが爆乳を揺らして鼻で笑った。
「あの人の……本当の……名前は……?」
ドロシー・トト。そういえば、どこかで聞いたような響きがある。
そんなガイジンサンのお知り合いなんていなかったはずなんだが、転移前のどこかで、聞いたことがあったような……。
「昔々、ドロシー・トトは……魔法の渦に巻き込まれて……この世界にやってきた……」
ドロシー・トトも異世界召喚された転移者だった、ということか?
「彼女の本当の名前は……オオズ・キョウコ……。賢い彼女は、本当の名前を隠したの……」
ドロシー。
トト。
オオズ……。
あ、どこかで、聞いたことのある名前だと思ったら……オズ! オズの魔法使い!
異世界に飛ばされた女の子がドロシー、その飼い犬がトト!
ドロシー・トトは自分が元の世界に帰るために、この魔法を作り出したのか!?
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