・異世界帰還リーチから始まる総動員
あの後、クローディアが黒猫に戻って宿の窓で昼寝を始めると、俺はこう聞いた。
「さて、俺は手記の情報集めに入るけど、これから2人はどうするんだ?」
「あ、すみません、肝心なところを忘れていました!」
するとシペラスはハッと何かを思い出して、わざわざ席を立って俺の隣に立った。
「最後の手記の行方がわかりました」
「え、マジで!?」
「はい、封印に携わった者からの直接の情報ですので、間違いないかと」
トリッシュの大神官様が信頼できるただのエッチなおじさんだったように、ルルド教上層部も一枚岩ではないようだ。
大多数は俺たち召喚者を、魔王を狩るためのマングースくらいにしか思っていない。
しかしシペラスの話に出てくる元テンプルナイトの男は『帰りたければ帰らせてやればいい』と言って、自らが封じた【賢者の手記】の場所を教えてくれたそうだ。
「王都北方、フォルカ山脈南部の渓谷に、隠された迷宮があるそうです。その最深部に隠したと、彼が」
「んなとこに……? わざわざ最深部に? それ、自力で見つけるのは無理だったかもな……。助かったぜ、シペラス」
「はい、貴方のためですからっ! それと、彼から言づてが」
「ん、なんだ?」
「『恥を承知で申し上げる。緑の英雄殿、故郷でご自分の目的を果たされた後は、どうか再び戻り、この地を救ってはくれまいか』……と、おっしゃっていました」
その代弁に俺は笑い返した。
そんなこと言われるまでもない。
元の世界でつまんない社畜として生きるより、こっちで縛られずに生きた方が断然いい。
「よかったです……。私も、それっきり貴方と離れ離れになってしまわないか、不安で……」
「ならいっそ、日本にくるか?」
異世界の人を日本にご招待!
俺としては寿司とかカツ丼をシペラスに食べさせてみたい。
動物園、遊園地、健康ランドもいいな!
「ふふ、どうでしょう。私にもテンプルナイトの仕事がありますから」
「そりゃ残念。あ、てか、1つ疑問が残ってるんだけど、なんでボロボロの状態で現れたんだ?」
そう聞いておいてなんだが、もう俺の中では答えが出ていた。
シペラスの負傷の原因は、賢者の手記の隠し場所を知ってしまったからではないだろうか。
「はい、モンスターに襲われました」
「え、そっち? てっきり神殿のやつらに襲われたのかと思った」
そう返すと彼女は黙ってしまった。
何か思い当たるふしでもあるのだろうか。
「どこかから、情報が漏れたようです……。大神殿を離れるなりすぐ、街道に出ると魔物の大軍に襲われるようになりまして……」
「それ、よくここまでこれたな……?」
「ふふ……だって、貴方のためですからっ!」
「お、おう……ありがとう」
この重いところだけ、クローディアに擦り付けたい……。
「明日すぐに取りに行ききましょう、先を越される前に」
「……ちょい質問。王都に入る前も襲われたのか?」
「はい、ですが粗方片付けてから逃げ込みましたので、王都の方にはご迷惑をかけておりません!」
どんな切ったはったを繰り広げたのか知らないけど、騎士として誇れるだけのすごい戦いだったんだろうな。
シペラスは武勇を誇るように爽やかに笑った。
「ううーーん……」
「どうかされましたか?」
「魔物の大軍、な……。それ、王都を出たら、また襲ってくるんじゃないか……?」
「はい、困りましたね! でも貴方とクロと一緒なら大丈夫です!」
「どんだけポジティブ侍なんだよ……」
得た情報を元に少し考えてみた。
1.最後の手記は人里離れた迷宮にある。
2.人里離れた場所はモンスターたちのテリトリーだ。
3.シペラスと俺たちが接触したことが、既に漏れていると考えた方が賢明だ。
答.王都を出たら俺たちは、モンスターの大軍に襲われる可能性が濃厚! やったね、死ねるよ!
「……あー、一応、今の居所聞いてみるか」
「居所……どなたのですか?」
「桶屋」
スマホを起動して、通信ソフトからメッセージと写真を送った。
写真はシペラスとのツーショット。
メッセージは『いえーい、オケヤ! 今から半月以内に王都に集合なーっ、遅刻すんなよ、待ってるぜーっ!』って送った。
「あ、あの……?」
「ん、どうした?」
「貴方の世界の道具のことは、よくわからないのですが……。この『オケヤ』という方は、まさか――」
「勇者様に決まってんじゃん」
「えっ、ええええええええーーっっ?!!」
「ちなみにー、ここに文章を打つとー、勇者様御一行全員にー、この画像とメッセージが届くんだなー」
「えっえっえっ、えっ、ええええーっっ!! こ、困りますっっ、そんな勝手なことされては、困りますーっっ!!」
普段お堅いシペラスも、動揺すると普通の女の子みたいでかわいいものだ。
俺は動揺する彼女に爽やかにそれに笑い返して、この状況を楽しませてもらった。
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