前世が魔王の様ですが、よく分からないので自由気ままに暮らしたいと思います
@rihito0131
前世
「ここは?」
ソフィアは目を覚ました。辺りを見回すとここには暗黒の玉座がある。城なのだろう。
音がした。この間の入口にある大きな扉がゆっくりと開く。入って来たのは三人の男女だ。
ソフィアは彼らに話し掛ける。
「お……へい……だ」
自分が発したものであるのに関わらずソフィアはそれを聞き取れなかった。
「……も……だ」
やはり相手の声も聞こえはしない。
少しすると辺りが淡く白くなり、ソフィアの意識はそこで無くなった。
***
「う~ん」
ソフィアは目を覚ました。
「ソフィアちゃんっ!」
母親は目に涙を浮かべながらソフィアに抱き着いた。母親の名前はサラ・アストレア
「どうしたの?お母さん」
ソフィアはそれが疑問で仕方なかった。彼女からすればただ単に起きただけであり、そこまでの重大性に気付いていなかったからである。
「どうしたのって、あなた三日間も寝ていたのよ」
「え、そんなに?」
ソフィアは驚いた。
「はい、とりあえず飲み物飲んだ方がいいわね」
そう言ってソフィアの母は娘の身体を抱え飲ませる。
「もう体は大丈夫なの?」
「うん。大丈夫だよ。お母さん」
「じゃあ、何かあったら呼んでね」
母親は部屋を出る。家事に戻ったのだ。
ソフィアは何か違和感を感じていた。自分が自分では無いようなそんな違和感を。
あの夢のこと、そしてその内容。それらは自分にとって、なにか大切な事だった気がしてやまないのだ。
ソフィアはふとそこにあったひとつの絵本を手に取った。それはよくあるおとぎ話で、勇者が魔王を討つ旅に出るというものだ。
それを手に取ると、ソフィアは急な頭痛に襲われる。
「痛っ」
そして、頭の中にとある映像が流れる。それは夢で見たあの光景だった。
勇者が魔王を討ち倒すところである。しかし、その魔王はソフィア自身であったのだ。
「ううっ」
彼女は頭を押さえながらその場にうずくまる。
彼女の頭の中で様々なものが混ざり合う。それは記憶であり感情であり……そして人格でもある。
彼女はそれを受け入れるしかなかったのだ。自分が何者なのかを……。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ソフィアは息を整える。そして、彼女はその記憶を自分のものにする。
「私は……そう……魔王だ」
ソフィアは自分が魔王であることを受け入れたのだ。
しかし、魔王であったと言ってもそれは前世での話で、彼女はなにか自分が変わった気がしなかった。
そんな時母が部屋に来た。
「エレナちゃんがお見舞いに来てくれたわよ」
「大丈夫?」
そう言って部屋に入って来たのはブロンズの色をした髪を持つ女の子だ。歳はソフィアと同じ五歳。
名前はエレナ・レックレス。
エレナはソフィアとは幼馴染であり、お互いの家にしょっちゅう行き来する仲なのだ。
「うん、大丈夫だよ」
ソフィアは返す。
「そっか、ならよかった」
そう言うとエレナは彼女の横に腰掛ける。
エレナはまだ床に付かぬ足をプラプラと揺らし、少し退屈そうであった。
「ねぇ、暇だし何かしよ」
エレナが提案をする。ソフィアもそれを受け入れ、二人は遊ぶことにした。
「じゃあ魔法教えてあげようか?」
今のソフィアは魔王の記憶を持っており、その強大な魔法の数々を記憶している。最も彼女の魔力量ではそこまで大規模なものは発動できぬだろうが。
彼女はエレナが昔から魔法に憧れを持っていたことはよく知っている。
「でも、魔法は勝手に使っちゃダメってママが言ってたよ?」
ソフィアの記憶の所為で自分もそう言わなければいけない気がしてしまう。
「バレなきゃ大丈夫!」
「でも、悪いことが起きたら自分で止められないから、自分たちで解決できるようになってからってパパもママも言ってたよ」
「じゃあ、お母さん達と一緒にすればいいんじゃない?」
「う~ん」
エレナは少し考えてから答えた。
「それならいいよ!」
彼女らはリビングで雑談している母親達に許可を取りに行った。
「うーん。ミシェル、どうします?」
ソフィアの母親が聞く。ミシェルと言われた彼女はエレナの母親だ。
「まぁ、少しぐらいならいいんじゃないかしら」
「やったー」
ソフィアは嬉しそうに飛び跳ねた。
「ただし、危ないことはしちゃダメだからね」
サラが釘をさすように言う。
「はーい」
そうして二人は庭で魔法の練習をすることとなったのだ。
「まずは、お水からだね!」
そう言ってソフィアが手本を見せる。彼女は手の中に小さな水球を作り出す。
「おぉー」
エレナは感心したように声を上げる。
「すごいでしょ?」
ソフィアは得意げに胸を張る。魔王の記憶がある彼女にはこの程度の魔法は問題なく発動できる。
「じゃあ、次はエレナの番だよ」
ソフィアは水球を消した。そして今度はそれをエレナにやらせる。
「う、うん」
エレナは少し緊張しているようだったが、それでもしっかりと水球を作り出すことに成功した。
「やったー!」
二人はハイタッチをする。
「サラ、今の見ました?」
「えぇ、魔法を発動する寸前、膨大な魔力が一瞬身体から漏れていた。お城の賢者様だってあんなことなっていないのに」
「もしかして……ソフィアちゃんってとてつもない天才なのかしら!?」
親バカである。
実のところ、ソフィアは天才と称されるほどの魔力量をしている訳では無い。通常とは違いその身に記憶を刻んだ際、膨大な魔力を急に得た。故、制御が出来ておらず、それが外に漏れ出ただけのことなのだ。
「あら、もうこんな時間ね。エレナ、帰るわよ」
太陽は沈んでおり、二人は帰らなければならない時間だった。
「じゃあねソフィアちゃん。また明日もくるね」
「うん!バイバーイ!」
二人を見送ったあと、ソフィアは自宅の部屋へと戻り、ベッドに入る。
ソフィアはベットに入るとすぐに眠りにつくのだった。肉体的にも精神的にも魔王の時では無く今世のものだ。疲れたのだろう。
ソフィアは明日に備え、ぐっすりと眠るのだった。
次の更新予定
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