学校裁判長。[統一・セカイ/THE NEW WORLD ORDER]
上田真希
学校裁判長。[統一・セカイ/THE NEW WORLD ORDER]
時は西暦2060年、第三次世界大戦の惨禍と異星文明との邂逅を経た人類は、新たなる時代の扉を開いた。
その歴史の始まりは1600年まで遡る。その頃の日本国においては、数多の困難に直面した結果、幕府の終焉を史実の200年も早く前に終わらせ、大政奉還と新政府「統合政府」が誕生し世界征服を夢見る。世界規模の統一戦争が勃発し、荒廃した地球は再び一つの秩序の下に纏め上げられたのである。
統合政府は、各文明の独立と共栄を志向する社会構想の一貫として、「学生社会独立構想」を打ち立てた。これは単なる教育制度の改革に留まらず、社会構造そのものを再定義せんとする壮大且つ苛烈なる試みであった。
国家の庇護に安住することを許されぬ学生層は、この構想により独立した自治権を付与され、同時に統治責任と経済的自立を強いられた。未だ成熟しきらぬ知識階層を社会の一翼として鍛錬し、新たなる社会秩序の礎とせんとする意図が、そこには秘められていたのである。
この構想は、既存社会の硬直した規律と旧態依然たる権力構造を打破し、未来の社会機構を先鋭的に試行する場として機能した。学生たちは、自律的な統治機構を形成し、法の制定、経済活動の監督、文化創生といった全領域にわたる行政権限を担うこととなった。教育機関はもはや単なる知識伝達の場ではなく、社会運営の実験場、即ち「準国家」としての役割を帯びるに至ったのである。
独立社会における学生たちは、自己完結的経済圏を築くべく独自通貨を発行し、労働市場の形成に邁進した。労働と学問の垣根は取り払われ、知的探求と生産活動が一体化する中で、次世代の経済モデルが創出された。文化面においても、彼らは従来の規範や価値体系に反旗を翻し、自由闊達なる左派思想へと表現を追求した。彼らが築いた文化圏は、旧来社会の腐敗した権威への鋭い批判精神と、未来社会を先導する使命感を内包していたのである。
しかし、その自由は無秩序と隣り合わせであり、自律は常に分裂の危機を孕んでいた。自治権を謳歌する学生社会は、統合政府の監視と干渉に晒され、しばしば弾圧の対象となった。学生内部でも権力闘争や思想的分断が深まり、自治の理想は容易に暴力と無政府状態へと転化した。自治という名の下で構築された学生社会は、希望と混沌、秩序と反逆、栄光と退廃が交錯する複雑な迷宮と化したのである。
「学生社会独立構想」は、国家が若年層に突きつけた冷厳なる試練そのものであり、社会進化のための苛烈な実験場であった。未来を担う者たちに与えられたその重責は、彼らを次世代の指導者として鍛え上げると同時に、絶えず破滅と隣り合わせの鋼鉄の試練であった。彼らが築き上げた独立社会は、まさに新たな文明の萌芽であり、統合政府の掲げた冷徹なる理想の縮図でもあった。
斯くの如き時勢の中、「学生社会独立構想」の一環たる「学生支援プロジェクト」により、高等学校一年生にして天賦の才を持つ忠山和人は、学務地域高等裁判所の裁判長に任命された。彼はその地位を重んじ、司法の名の下に諸犯罪を取り締まらんと努めたが、司法権力の限界を早々に悟った。
そこで彼は、秘密結社「ダイス」を創設し、学務地域という限定的且つ広域な領域を、裏社会の立場からその秩序を維持せんと図ったのである。然るに、学務地域内には「スパーク」と称する覚醒薬物が流通し、新たなる変革の風が巻き起ころうとしていた。
忠山和人は、若干15歳にして、その卓越した知性と判断力を以て、学務地域高等裁判所の裁判長に就任したが、彼の任務は学生社会における法と秩序を維持し、違法行為を厳正に裁くことだ。しかし、現実の社会は彼の理想を容赦なく打ち砕き司法の力だけでは、蔓延する犯罪や腐敗を根絶することは叶わなかったのである。
「ダイス」その名は、未来を賭ける「賽の目」に由来し、未知の運命に挑む覚悟の象徴であった。組織は厳格な階層を持ち、和人を頂点とする一枚岩の指導体制を敷いた。構成員は皆、彼と同じく学生社会の歪みを肌で感じた若者たちであり、裏社会という闇の中で秩序の光を灯さんとする、選ばれし少数精鋭であった。
ダイスは法の網を掻い潜る犯罪者たちを、裏の論理で追い詰め、裁くことを使命とした。公然たる法廷での裁判が届かぬ領域に、和人たちは敢然と踏み込み、独自の調査と裁定を下した。彼らの手法は冷徹でありながら、決して無慈悲ではなかった。秩序維持のためならば、時に脅し、時に暴力をも辞さなかったが、それはあくまで「必要悪」としての自覚に裏打ちされた行動であった。
だが、学務地域の闇は予想を遥かに超えて深かった。ある日、和人は「スパーク」と呼ばれる新種の薬物の存在を知る。これは脳神経に作用し、使用者に一時的な高揚感と集中力をもたらすが、繰り返しの使用で精神崩壊を招く危険な代物だった。薬物の蔓延は、ただの犯罪ではなく、学生社会そのものを蝕む病理であった。
和人は直ちにダイスの全力を挙げて調査に乗り出した。彼は、「スパーク」の流通経路を洗い出し、その背後に潜む闇の勢力を突き止めようと試みた。だが、それは茨の道であった。情報の断片は掴めども、敵の姿は霞のように掴み難く、まるで巨大な幻影が、和人たちを翻弄するかのようだった。
和人は斯くして学務地域に渦巻く陰謀を解決することはできるのだろうか。
[制作:StudioAMONE]
[企画:上田真希]
[世界観設定:統一・セカイ/THE NEW WORLD ORDERより]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます