第14話

「いま自分が情けない。あんたみたいなのと二年も付き合ってたなんて!」


「また怒るし……」


「十人いたら十人怒るわよっ」


「ふう。そうだよな、恋の言うことはいつも至極まっとうっていうか正論だと思うし。そういう他人の俺とかにも真剣に怒ってくれる真面目なとこ好きだったよ」


編集者という職業柄なのか生まれつきの人格の問題なのか、博樹の私への同調が今の私にとっては嫌悪感と軽蔑でしかない。


私は二十代後半の二年もの期間をこんな人の為に費やしていたのかと思うと情けなくなくて堪らない。



その時だった。テーブルにやってきた店員が私と博樹の目の前に白いプレートをことりと置く。


──「お客様、前菜の真鯛と帆立貝柱のマリネでございます」


店員が流ちょうに前菜の説明をするがまるで頭に入ってこない。そして店員がお辞儀をして厨房へと戻って行くと博樹がナイフとフォークを手に持った。


「せっかくだし……たべよ?」


私は生きてきて一番大きなため息を吐きだした。


これがプロポーズのあとだったなら、私は生きてきて一番の笑顔でこの真鯛と帆立貝柱のマリネを食べたかもしれないが、今この瞬間から世界で一番嫌いな食べ物がこの真鯛と帆立の貝柱のマリネになったのは確かだ。



「ん?恋?」


「いらない。この二年無駄にしたわ……どうぞ二人末永くお幸せにっ!さようなら!」


私はテーブルに両手と突っ張ると勢いよく立ち上がる。


「ちょ……っ、恋……」


「…………」



後ろから博樹が何か私に話しかけていたが、私は振り返ることなくそのまま店を後にした。

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