第6話 初めてのお客さん
どうやらこの二人は、タイラントベア討伐の依頼を受けてこの森に来たらしい。
それを追いかけていたら、ちょうど襲われそうになっている私に遭遇したんだって。
それじゃあ、素材を分けて貰うのは無理かなって思ったんだけど……問題なく分けて貰えた。
なんでも、人の社会で活用されているタイラントベアの素材は爪や毛皮くらいで、肉や内臓なんて見向きもされないんだとか。
肉はまだしも、肝臓はすっごく貴重な錬金素材になるのに、もったいない。
まあ、そもそも錬金術自体、エルフが主に持っていた技術で……人間はどちらかというと、魔法そのものの破壊力や効果範囲に傾倒してるって話を聞いたことがあるし、仕方ないのかな?
というか、破壊力特化ってどんだけ戦争好きなの、人間。
神樹様の加護に守られて、あまり魔物の脅威もなかったエルフと比べるのもちょっとアレかもしれないけど。
「まさか、こんなにも小さいのに里を追い出されるなんて……苦労したのね、エリアちゃん……!」
そして今、私の現状について説明を終えたところなんだけど……何か随分と好意的に解釈されたようで、女魔法使いのレイラさんが号泣していた。
いや、追い出されたって言っても、家でぐうたらニート暮らししてたのが原因だからね? そりゃあ私だってブーイングの一つくらい投げつけたいけど、そこまで酷いことされたわけじゃないよ?
「それで、今は町の外で錬金術店を開いたのか……大丈夫なのか? 町の外ってことは、魔物がいつ来るかも分からないだろ?」
「大丈夫大丈夫、何とかなりますよ。優秀な助手もいますし……これでも私、里一番の錬金術師だったんですから」
心配そうな男剣士のローランさんにそう伝えるも、中々納得してくれそうにない。
まあそれなら、大丈夫だってことを示すためにも、私の錬金術の腕前を披露しようじゃないか。
主にポーションを売りつけるために。
「ほら、見ててくださいよ」
森の入り口まで戻って来たところで、私は近くに落ちていた石ころをいくつか集める。
何をするつもりなのかと首を傾げる二人の前で、私は一回り大きな石に羽ペンでサラサラと魔法陣を書き込み……魔力を注ぐ。
「ほら、起きて」
『────』
その瞬間、魔法陣を書き込んだ石ころがコアとなり、他の石ころを手足のように繋げ、小さなゴーレムが動き出した。
ものの三十秒で出来上がった簡単ちびゴーレムを前に、二人は「おお……」と目を丸くする。
「ゴーレムって、こんなにパッと作れるものなの?」
「分かんねえ、町の錬金術師ってポーションくらいしか作ってねえし、ゴーレムなんて野生の魔物でしか見たことねえもん。錬金術ってこういうのも作れるんだな……すげえ」
どうやら、そもそもゴーレムが初見だったらしい。
これじゃあ腕前の証明にならないじゃん。
「私、ポーションを売って生計を立てていくつもりなんです。お二人とも、お一ついかがですか? 私のお店まで案内しますから」
「……じゃあ、お願いしようかしら」
「そうだな」
腕前を示すことは出来なかったけど、とりあえずお客さん一号二号は確保できた。
最初のポーションは同情からのお布施みたいなものかもしれないけど……使って貰えれば、多少は評価して貰えるはずだ。
リピーターが二人出来れば、私一人生きていくには十分……十分? お金も入るだろうから、何とかなるだろう。
「ここだよ、私のお店」
そんなことを考えながら、私は丘の上にあるお店に案内した。
木が直接地面から生えて家の形を作ったかのようなその建物を見て、二人はこれまた驚いた様子で口をポカンと開ける。
「い、いつの間にこんなところに店が……?」
「全然気付かなかったわ……」
「あれ、街道の傍だからみんな気付くと思ったんだけど……そうでもなかった?」
「いや、こんなところに木なんて生えてたっけ? とは思ったけど、まさか店だなんて思わねえって」
どうやら、エルフ式の建築が人間的には建物に見えなかったらしい。
確かに、私もこの世界で二十年過ごして感覚が麻痺してたけど、遠目から見たらただの木だもんね。
だからお客さん来なかったのか……。
「街道のところに案内板立てて置いた方がいいのかなぁ……まあいいや、二人とも、早速私のポーション持ってくるね」
「あ、ああ……」
私のというより、ラチナが作ったものだけど、細かいことは気にしない。
店に残っていたポーションを二つ持ち出した私は、それをローランさんとレイラさんの二人に差し出す。
「はい、どうぞ。使ったら感想聞かせてくださいね!」
「ええ、分かったわ。ちなみに、これはいくらなの?」
「……値段決めてなかった。ポーションって、普通いくらくらいなんですか?」
「おいおい、商売するならそれくらい先に調べとけよ」
「あはははは」
元々商売するつもりゼロだったから、市場リサーチとかそういうの、すっかり忘れてたよ。
……そう考えると、ラチナに値段とか何も伝えてなかったけど、大丈夫かな? ちょっと心配。
「ポーションは、大体一つ千ゴールドくらいで売ってるわ。だから今回はその値段で買ってあげるわね」
「ありがとうございます、レイラさん」
ポーション二本で二千ゴールドを受け取り、私はお礼を伝える。
……二千ゴールドって、どれくらいのお金なんだろう。それも分からないや。
流石にそれを言うと二人に呆れられるどころじゃ済まないだろうから、口にはしないけど。
「それと、この辺は魔物がいつ出て来るか分からないから、本当に気を付けた方がいい。どうしてもここに居座るつもりなら、護衛を雇った方がいいだろうな。……そんな金もなさそうだし、せめていつでも避難出来るように準備しとけよ」
「はーい、ローランさんもありがとうございます!」
親切な二人にあれやこれやと教えて貰った後、今日のところはこのまま別れることになった。
去っていく二人に手を振りながら、私は頭を悩ませる。
うーん、護衛かぁ……やっぱり留守番専用のゴーレム、作った方がいいかな。
戻ってきたら、ラチナとも相談してみよっと。
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