第41話 浴衣姿の美少女

 夏祭り当日、どうやら待ち合わせ場所にはおれが一番最初に着いたようだ。そして、少し待つと浴衣姿の美少女がやってきた。いや、よく見るとやっぱり美少女ではなかった。


「あ、天方君。ごめん、待った」


「いや、今来たところだけど。……というか、その格好は?」


「あ、これは姉さん達が着せてくれたんだ。似合うかな?」


「……そうだな。よく似合ってるぞ」


「うん、ありがとう!」


 いや、本当によく似合ってるな。由が着ているのは女性用の浴衣なのに。仮に、由が男性用の浴衣を着た場合は似合うイメージがわかないし、もう由は女子ってことでいいんじゃないかな? もしそうなら、鬼咲さんと由の百合展開が見られるから、おれ得だよ。


 そして、由と二人でしばし待つと、今度こそ浴衣姿の美少女が二人でやってきた。その二人のうち、長い黒髪を持つ美少女の浴衣姿におれは目を奪われ、つい素直な感想がこぼれでた。


「……きれいだ」


「……え? あ、うん、ありがと……」


 おれのその言葉に、琉奈は頬を赤くしながらそう答える。おれのほうも、つい口にしてしまったその本音が恥ずかしく、顔が赤くなっているだろう。


「うん、二人とも可愛いね!」


「……ふ、二人ってことは、あ、あ、アタシもか!?」


「うん、鬼咲さんもとっても可愛いよ!」


「そそそうか…………」


 かたや、まったく恥ずかしがることもなく女性陣を褒めた由に対し、鬼咲さんは非常に恥ずかしそうにしていた。鬼咲さんが照れるのは分かるとして、由のほうはなんでそんなにあっさり女子を褒められるんだろうな?


 少し考えてみたが、由には姉が二人いるからその影響で女性慣れしているとかそんなところかな。ついでに言うと、その二人の姉の影響で女装慣れしているとも言える。


 さて、今日の目的を考えると、鬼咲さんを由と二人きりにしてあげたほうがいいだろう。


「琉奈、ちょっといいか」


「どうしたの?」


「鬼咲さんが今日どうしたいかは聞いてるんだよな?」


「! うん、聞いてるよ」


「それなら、あいつらを二人きりにしてあげようと思うんだがいいか?」


「うん、もちろんいいよ。でも、どうするの?」


「おれにいい考えがある」


 おれは由に近づき、鬼咲さんに聞こえないように小声で話しかける。


「すまん、由。ちょっと頼みがあるんだが……」


「頼みって?」


「……実は、琉奈と二人きりになりたくてな。おれ達は途中でこっそりいなくなるから、由は鬼咲さんと二人で夏祭りを楽しんでもらってもいいか?」


「……そうなんだ。うん、いいよ」


 理由を訊かれたりしたら少々困るところではあったが、そんなこともなく素直に聞いてくれて助かった。


「じゃあ、行こっか」


 今のおれの頼みを実行するためか、由は鬼咲さんの隣に立ちそのままごく自然に手を繋いだ。すると、鬼咲さんがそれに驚き声を上げる。


「ひゃあ!」


「ご、ごめん。つい癖で繋いじゃって。嫌だったよね?」


「え、あ、い、いや、そんなことは……」


「本当にごめんね。もうしないから」


「あ、ああ。そうか……」


 そう返す鬼咲さんは残念そうにしていた。ならば、ここは助け船を出してやろう。


「……あれだぞ。人が多くてはぐれるかもしれないから、できれば手を繋いでいたほうがいいぞ」


「! そ、そうだな。ちょっとびっくりしただけだし、アタシは全然構わないぞ」


「鬼咲さんがそう言うなら……」


 由は再び鬼咲さんと手を繋ぐ。鬼咲さんのほうも嬉しそうにしているし、上手くいって良かった。


「よし、行くか、琉奈」


「うん。じゃあ、はい……」


 そう言って、琉奈は手を出してきた。……そうか。おれとしては、由と鬼咲さんの手を繋がせるための方便のつもりだったのだが、琉奈はそれに気付かず信じちゃうよなあ。まあでも、ここで手を繋がないと由に変に思われるかもしれないしな。


「……じゃあ、改めて行くか」


「……うん」


 おれと琉奈はぎこちなく手を繋ぎ、互いに頬を赤く染めながら、前を行く二人に続いて歩き出した。

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