第31話 もうしばらく継続

 クレーンゲームにてぬいぐるみをとったあと、まだ少し時間があったのでおれ達は再びゲームセンター内を歩く。すると、琉奈がピタッと足を止め、その視線の先にはプリクラがあった。


「わたし、これは知ってる」


「そうなのか」


 まあ、女子はこういうの好きだろうし、女友達から聞いたことがあるんだろう。それで、琉奈のほうはというとプリクラの筐体をじーっと見て動かない。もしかして、


「やってみたいのか」


「うん」


「……ちなみに一人で? ……それとも、二人で?」


「……二人で」


 恥ずかしそうにしながら琉奈がそう答える。うーん、おれとしても恥ずかしいんだけどどうしよう。いやでも、琉奈の望みだしここは叶えてやるべきかと考えていたら琉奈が口を開いた。


「……だめ?」


 琉奈はさきほど取ったぬいぐるみで赤くなった頬を隠しながら、上目遣いでおねだりするような顔でそう言う。そんなことをされて断れるわけがない。


「いや、いいぞ」


「やった!」


 今度はぱああっと顔を輝かせてそう言った。そんな嬉しそうな顔の琉奈とともにプリクラの筐体へと入る。プリクラを撮るのは初めてなのでよく分からないが、説明に従い背景の設定などを行い、いざ撮影である。


やはり、こういうときは笑顔になるべきなんだろうが、いかんせん緊張するので難しい。琉奈のほうはどうなのかと思って見てみると恥ずかしそうにしていた。


 さっきまではプリクラを初めて撮る喜びが勝っており笑顔だったようだが、ここにきて緊張が強くなったようだ。結果として、互いにぎこちない笑顔のままプリクラを撮ることになった。


「ら、落書きとかできるみたいだけどするか?」


「こ、このままでいいんじゃないかな」


 というわけで撮った写真そのままで印刷され、その半分を琉奈に手渡した。さて、この写真はどうしたらいいんだろう? 家宝にでもするべきか? そんなことを考えながら時計を確認すると、そろそろ映画館へ戻ったほうがいい時間だった。


「いい感じの時間だしそろそろ戻るか」


「あ、そうだね」


 おれの言葉を受け時計を見ながら琉奈がそう返し、おれ達は映画館へと戻った。中に入ると、売店の前に列ができている。


「なんか買うか? おれは飲み物は買おうと思うんだが」


「あ、わたしも買いたい」


「食べ物はいるか? ポップコーンとかポテトとか?」


「わたしは飲み物だけでいいかな。日希くんは?」


「いや、おれも飲み物だけでいいかな」


 買う物も決まったので売店に並びそれぞれ好きな飲み物を買った。そのあとしばし待つと、おれ達が見る映画の開場のアナウンスが流れたため、上映されるスクリーンへと向かい席に着いた。


 それから数分待ち、映画上映前のCMや映画盗賊の映像が流れ、そのあとようやく本編である五等分できない花嫁の上映が始まった。


 *****


 映画といえば、運が悪い場合は上映中に喋ったりスマホをいじったりする輩がいるが、そんなこともなく無事に本日の目的だった映画を見終わり外へ出た。


「さて、どうするか。おれとしてはどこかで映画の感想でも話したいんだが」


「あ、わたしも話したい」


「じゃあ、どこか入るか。どこがいい?」


「うーん、どこがいいのかな?」


 琉奈は少し困った顔を浮かべていた。ならば、ここはおれが決めるべきだろう。こういうときに言ってみたかった台詞もあるしな。


「じゃあ、おれが決めてもいいか?」


「うん、お願い」


「ならサ店に行くぜ!!」


「……さてん、ってなに?」


 ……うーん、通じないかあ。まあ、これある意味三千年前のセンスだからなあ。


 そんなわけでおれ達はサ店ことスターチップスコーヒーへとやってきた。……のはいいがどうしよう。初めて来たので勝手がよく分からない。


 店員さんに、「ミルクでも貰おうか」って言えばいいのかな? そんなことをしたら、「なめてんのか小僧」って言われそうだからやめておこう。


とりあえず、カウンターに行って「ペペロプリプリパピプペポ ペロペパチーナのショート」とやらを注文する。少し待って注文した商品を受取り、空いている席に着いた。


「いやー面白かったな、映画」


「うん、タイトルの五等分できない花嫁ってああいう意味だったんだね」


「ああ、まさか長女が過去に言っていた隠された六人目の姉妹が本当に実在したとはな」


「あれはすごいびっくりしたなあ」


「てっきり長女の冗談だと思っていたら、まさかの伏線だったからな」


 そんな感じでおれ達は映画の感想を話していた。お互いに言いたいこともひととおり終わったあと、思い出したように琉奈が言った。


「そういえば、日希くんに頼みたいことがあるんだけど」


「なんだ?」


「お姉ちゃんが夏休みに帰ってくることになったの。それで、駅まで迎えに行くんだけど、お母さん達はほかに用事があるから行けなくて……」


「……一人だと危ないから友達か誰かに付いてきてもらうように言われたってところか?」


「うん、そんな感じ。悪いんだけどお願いしてもいいかな?」


「ああ、別にいいぞ」


「ありがと。じゃあ、よろしくね。時間とかはまたあとで連絡するから」


 おれはその言葉に頷きを返す。さて、そっちの話はまとまったところで、こっちはどうしようか? まあ、琉奈の希望に合わせてあげればいいか。


「それで、このあとはどうする? 一応、映画は見終わったけど」


「……せっかくだし、なにか買い物とかしていかない?」


「なにか買いたい物があるのか?」


「そういうわけじゃないんだけど……、だめかな?」


「いや、いいぞ」


 というわけで、琉奈とのデート(仮)はもうしばらく継続となった。

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