第10話 体に巡るもの
腹が空いたため俺たちは昼食をギルドで済まし…
…ひとついいだろうか
ご飯高いよー、ピンチだよー
朝食べた食事は今持ってるコイン1枚分の値段で昼食は1番安くて朝の1,5倍ぐらいする
うーん…上手くやりくりしないと足りないなこれ…
その後、図書館で眠りこけた
先輩は本を読んでたらしいが、俺は本を開いても意味がないので図書館はもはや眠る場所という認識になってしまった
いやほんとに図書館の落ち着き度合いはすごい
あのアズサさん…だっけ?俺たちが本を借りたお姉さんが眠たくなるのも理解できる
その後、風呂がないという話をしていて地図に銭湯と書かれていたことを思い出した
たぶん家の風呂は使っちゃいけないっぽいんだよな〜
というのも、そもそも存在自体が不明だし、あるとしても母親の不可侵領域内だから使えないのだ
うし、風呂行くか
…そういえばこっちきてから風呂入ってないなぁ
くさいかな?
とワンピースや肌に鼻を近づけて嗅いでみたが…分からん
乙女パワーで補正かかってるでしょ
知らんけど
さて、銭湯に着き、靴を入り口の横側の壁に連なっていた段の間に入れ、入場料を渡し中へと入っていった
…おぉ!めっちゃ広い!
食事スペース、休憩スペース、子供の遊び場、そして遠くに見える浴槽への入り口
浴槽の入り口には日本らしく暖簾が付いており、一発で分かった
それにしても広い。それに限る。これぐらい広いのにその広さを感じさせないほど人も多く、街を支える一環なんだなぁ〜と感心しながら財布の寒さに凍えていた
そう!もう夕食が食べれない!
今はコイン1枚あるが、明日からはそうはいかない
ここの入場料は昼食のお釣りと同じ値段で、つまりこのコインの半分ぐらいがここの入場料というわけだ
…うん。泣いていい?
本気でお金のやりくりしていかないと足りなくなるな
…この空気感…コーヒー牛乳飲みたくなってきたな…
はっ!だから金ないんだって!
銭湯の内装についてはそこまでにしておいて風呂に入ろう
ちなみに着替えとタオルは風呂に行く前に家に取りに行ったので今手元にしっかりある
俺と先輩はたまに旅行をしていたのだが、そのノリで男風呂に足を踏み入れ———
「だめだよ。そうゆうのが好きな人がいるから君ぐらいの幼い容姿は逆に危ういんだ。だから異性の風呂には入らないでね。」
男風呂に入ることは叶わず、風呂場から出てきた男に優しく追い返された
てことは…まじかー禁断のエリアに行かなくちゃあならないのか…
気が引ける…だって卑怯じゃないか!女風呂は修学旅行で覗くとかそういうのでいいんだよ!
なんて思いつつ、意気揚々と足を踏み入れた。
え?さっきの?君は建前というものを知らないのかい?
暖簾を手で返し…返…か…届かん
んまぁ…いいか
入り口を通ってすぐにある曲がり角を曲がった先の壁にはスタッフが待機していた
「いらっしゃいませ。こちらお洋服の洗濯を受けたまっております。お風呂をご利用の前にこちらをご利用していただくと、お風呂のご利用後あたりには洗濯をし終え返却が可能です。」
へぇ〜洗濯もしてくれるのか!
その場で脱ぐわけにも行かないので、着替えのエリアで服を脱ぎ手に持ってた衣類を棚の空いているカゴにぶち込んできていた服を渡した。
その間裸。いやん
「はい…承り…ふふ…まし…た…」
スタッフのお姉さんは笑いに堪えながら対応してくれた。女性のツボは分からんな
さて…
着替え場と浴槽の境のドアの前に立ち、ガラララッと勢いよく横開きのそれを開ける
眼前に繰り広がる光景に俺は興奮…
ではなく無であった
あれ?
確かにナイスバディの女性はぎょうさんいる
しかし、無
…ん?まぁ……いっか
いいのか?
男性に興味ない。女性にも興味がないというあきらかに欠損している人間が誕生しちまったぞ?
いや、先ほどと同じように普段は男性としての感性はあったし、裸体を見た時に俺の感性が死んだのだから、ギリセーフか(?)
セーフということにしよう
「おやおやぁ?魔法…使えましたかぁ?」
あまりの無感情さにモヤモヤしていたら後ろから声をかけられた。
「えっ誰…あ、図書館の館長だ。」
「あらぁ。聞かれちゃってましたか。うふふ、私のことはアズサって呼んでくださいねぇ。」
声をかけてきたのは艶やかなお姉さん…あらためアズサさんだった。
「いやぁ、まだ鑑定しかやってないんですよね…あ!でも魔力を増やすやつはやりました。」
「おや、ということはあの冗談には引っかかりましたね。」
アズサさんはくすくすと笑う
「はい。兄がキレてました。」
「それはすみませんねぇ。あれ、私が書いた本なんですよ。」
「え」
アズサさん本書いてるのか!だから館長になれた…?
俺たちは一緒に体を洗うことになった
シャワールームにはシャワーは無く
…ややこしいな。ま、いいや
シャワールームには一本の水の流れる道があり、そこから桶を使って水を掬うシステムのようだ
その道に沿って椅子が並べられてあり、俺たちは適当な席に腰掛けた
石鹸も存在しており、木の容器に液体の洗剤が入っていて、それを手に垂らして洗うようだ
桶で掬った水を頭にかけ、洗剤を手で泡立てて頭に乗せる
ム…男の時と同じ要領でやると全然洗えない…
いいや、髪の汚れはお湯だけで大体取れるって言うし、流しちゃお
「苦戦してますねぇ。髪、洗ってあげましょうか?」
神現る。なんとありがたい!
アズサさんの手が俺の髪に入ってきた
頭全体をマッサージするような優しい手つきでシャンプーを泡立る
…気持ちいい…というか心地よい。男の俺の洗い方とは全く異なり、美容師の洗い方そのものであった。
女の人は毎回これするのか…大変だなぁ。
「魔力増幅トレーニングは上手くいきましたかぁ?あれ、難しいんですよねぇ。」
危うく寝かけていた俺の耳元でアズサさんはそう囁く
「うひょい!」
くすぐったさと驚きが相まって変な声が出てしまった
「うふふ、面白い方ですねぇ」
「……上手くいってない…かも」
「ですよねぇ。やっぱりギ回自分の魔力の限界を越える体験をした方がいいと思うんですよぉ。体験してみます?」
ギ回とは一回ということだ
体験ってどうするんだろ…まぁ減るもんでもないだろうしぜひ体験させてもらおう
「したいです!お願いします」
「では一旦こちらに向いてもらって…」
今髪を洗うのを一旦切り上げ、アズサさんのいる方向に振り向いた
「失礼しますね」
俺の胸に手がそっと置かれた……!?
っ!!!
次の瞬間、体に何かが入りこんで身体中を駆け巡った。
熱い。体全体がじんじんと熱を発し全く止む気配がない
何が起こったのかもわからず、熱い…熱い…ただ熱い
思わず体が仰け反りそうになるが
「動かないでくださいねぇ」
という言葉でなんとか我慢した。
「はい!終わりましたよ〜」
アズサさんはそういうと触れていた手をそっと離した
その直後、さっきまでの熱が嘘のように引いていく…
「どうでしたか〜?魔力がたくさん流れる感覚、なんとなく分かりました?」
…これが魔力が自分の限界を越える感覚…
まるでサウナに入った後のようにすっきりする
「なんとなく、分かった気がします…」
「それは良かったですねぇ、やる甲斐がありました」
「ありがとうございました!アズサさん…いやっ!アズサ姉さん!」
「あらあらお姉さんですか。嬉しいですねぇ」
アズサ姉さんは両頬に手を乗せてのらりくらりと体を揺らして嬉しさを表現してくれた
「あぁあと、謝らないといけないことがありまして」
謝るって…俺は何もされてないと思うが…
「実はぁ、あなたの…そういえばあなたのお名前を聞いていませんでしたねぇ。」
自分の名前!?待て何だっけな…確か…
「えーっと……リュウカ…と申します」
「リュウカさん!素敵な名前ですねぇ。」
「それでその謝らなきゃいけないことって…」
「そうそう、リュウカさんの魔力量を多く見積り過ぎてしまってですねぇ。今、リュウカさんの体内の魔力の経路がボロボロなんですよ。もちろんすぐ治るんですけど数日は魔力が使えなくなります。」
数日ぐらいなら何も問題はないな
「リュウカさんの魔力は格段に増えるんですけど、魔力の総量が増える時って体力が消費されるんです。なのでその分たくさん食べてくださいねぇ」
それも何も問題は…あるわ
オレ、カネ、ナイ
「お腹が空いてどうしようもないときは私の元に訪れてくださいねぇ。いつもあそこで寝て…お仕事してるので」
今本音が出そうだったぞ?
この後、アズサ姉さんに背中も流してもらった
面倒ぐさがりな人なのに意外と面倒見が良いんだよなぁ
ちなみにアズサ姉さんとは分かれた
だってあの人水風呂に直行するんだもん!
俺は水風呂が苦手なんだよ!
1番広い浴槽に浸かることにした
湯の下の床が思ったよりもゴツゴツとしているが…適度にツボが押されて気持ちいな
…子供の体の時点でツボが効くとかあるか?
と思い足裏を強く押してみるが…全く痛くない
さっきの気持ちよさは幻?
まぁ幻を見るぐらい気持ちいいという———
っっっ!!!痛ってーーーー!!!!
左ふくらはぎの膝と踵の中点の少し上のところを横から押した瞬間、ありえない程の痛みが生じた
訳が分からない。なんでここを押したら痛いんだよ!
痛みのあまり、左の痛みから避けようと右に大きく揺れてバランスを崩してしまった
しまっ———
次の瞬間にはバシャッと意外にも小さな音を立てて顔を水中に沈めていた
人はパニックになると5センチ程の水深でも溺れるらしい
パニックに陥った俺は座ってでも顔の出るぐらいの湯で溺れてしまった
——まずいっ!おぼれ———
ジタバタと必死に這いあがろうとするが——
「———!!!」
声が…出な…
あ…
死……
「おい!お前!大丈夫かっ!?」
少し低い声が聞こえ、腕を誰かに掴まれた感覚がする。
そのまま腕を引かれて水面から顔を出す。
「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…あの…うっ…ありがとうございます…はぁ…はぁ…」
目の前には銀髪の立ち姿が凛々しい少女がいた
恐らくこの子が助けてくれたのだろう
「銭湯で溺れるなんて普通ないぞ。一体何があったんだ?」
「左足を痛めてしまって…」
少女の手を取り立ちあがろうとした時、左足の痛みに耐えきれず少女に倒れ込んでしまった。
「おい、まだ座ってた方がいいんじゃないか?」
結構な勢いで倒れ込んだつもりが、少女は全くぶれずに俺の体を支えてくれた
「ありがとうございます。体幹お強いんですね。なにか運動されてるんですか?」
「おっ!分かるか!?私は騎士に憧れていてな…毎日修行に励んでいるのだ。」
待ってました!とでも言わんばかりにはちきれんばかりの笑顔を見せる
よほど騎士に誇りを持っているのだろう
「かっこいいですね!」
「かっこいい…ふふん…」
かっこいいと言う言葉を噛み締めながらにやけていた。
この子分かりやすいなぁ〜
「あぁ、だが私には魔法適性があってな…騎士になることを反対されているのだ。」
さっきに笑顔から一転、少し俯いてから作り笑いをする
助けてもらったお礼だ。何か助けになってあげたいな…
「では、魔法騎士になってみては?」
「…ん?なんだそれは」
この世界には魔法騎士という概念はないのか…?
いや、知らないだけか
無いわけがないしな
これは根拠のない愚考だが、おそらく騎士という危ない仕事を親は反対しているのではないだろうか
この子の親には申し訳ないが、助けてもらったお礼だ。教えてあげよう
「武器に魔法をかけて強化したり、魔法で防御力を高めたり、武器がなくなっても戦えるようになります」
「それは凄いのか?」
いまいちピンときていないようだ
なにか例えを…そうだっ!
「…よし立てるな…私のこの手を剣に見立ててください」
「ふむ」
右手を湯に入れ、引き上げてまだ水が腕にまとわりついてる間に…
思いっきり振る!!
ビシャァと水の斬撃が発生する
「水の斬撃でこうやって間合いにいない敵も攻撃できます。私は非力なのであまり強くないですけど…」
「聞いたことがあるぞ!水は石をも破壊しうると…!ではその硬さで身を守ると…!!」
少女は目をキラキラとさせながら妄想にふける
「もし仮に他の方より力が劣っていてもその方より強くなることが十分可能だといえます」
「ありがとう!君のおかげで私は最高の騎士になれそうだ!こうしてはいられない!修行だ!」
少女は俺の手を握りぶんぶんと上下に振ると、その勢いのまま走り去ってった
あ、転んだ
しばらく別の湯の下の床が平らなところでぬくぬくしていると——
「おやぁ?その様子は左足のツボを押したんですねぇ」
アズサ姉さんに再び出会った。
「ん〜…少しまずいですねぇ…」
…えっ!?
少し困ったような顔をした後、俺を湯船から拾い上げたかと思うとお姫様抱っこをされた
いや困ってるのはこっちだよ!なんでいきなり!?というかまずいって…なにがだ?
アズサ姉さんの腕から離れようと暴れようとするも——
あれっ?体が言う事をきかない…
「あそこのツボを押すと魔力の経路の回復は確かに早くなるんですけど…体の機能が狂うんですよねぇ」
なんだか頭がぼーっとしてきたような…
「よいしょっと…ほんとは湯船に髪をつけたらいけないんですけどねぇ…」
ん…気持ちいい…
アズサ姉さんはどこかに俺を置いたようだ。
頭がだんだんと冴えてくる…
ここ…水風呂じゃん…
「今回は体が熱暴走するだけで済みましたけど…次どうなるのか分からないので、もう、触らないでくださいねぇ」
俺は今水風呂に頭まで浸かっており、顔だけが出ている状態であった
なのに寒いという感覚では無く少し冷たいぐらいであった。これは俺の体が異常に熱を発しているかららしい
「はい…気を付けます…」
「かなり深くまで押しましたねぇ。治るまでだいたい…」
「冷たっ」
なんだ?急に水風呂が寒くなってきたぞ?
「流石ですねぇ。もう治りましたか」
治ったのか…?取り敢えず寒いから出よっと
風呂から出た俺は先輩と合流した
そしてそのまま家路に着きベットに腰掛ける
「なんだか今日はとてもスッキリしてるな」
暗がりに1人肩の軽さにそう呟く
お風呂に入ったからかな?
さぁ、もう寝よう
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