第九章 敵城到着

 アリスたちが守護騎士との戦いを終え、城のさらに奥へ進むと、バルガスのいる最深部の塔が見えてきた。途中には、崩れかけた階段や不安定な足場が続いており、一歩間違えれば落下の危険もある。彼らは緊張感を保ちながら、一歩一歩慎重に進んだ。


「この先が最終地点、バルガスが待っているわ。」ルナが静かに言った。


「あいつはきっと、今まで以上の罠や攻撃を準備しているだろう。気を抜くな。」ライアンが剣を握りしめ、周囲を警戒する。


 アリスは魔法書を抱え、深呼吸をした。「ここまで来たんだもの。もう迷うことはない。私たちでこの戦いを終わらせる。」


 塔の入口には、再びバルガスの声が響いた。「よくここまで来たな、アリス。そしてルナ、だが、これ以上先には進ませない!」


 その言葉と共に、塔の入口に黒い霧が立ち込め、無数の魔物が現れた。彼らは不気味な唸り声を上げながら、アリスたちに向かって突進してきた。


「来るぞ!」ライアンが前に出て剣を振り下ろし、魔物を迎え撃つ。


 アリスは「光の結界」を展開し、魔物たちの攻撃を防ぎながら反撃の準備を始めた。「ルナ、何か突破口はない?」


 ルナは空中に浮かびながら、魔物たちを観察した。「彼らはバルガスの魔力で操られているわ。その中心にいる核を破壊すれば、全て消滅するはずよ!」


「わかった、それを狙う!」アリスが頷き、魔法書を開いて呪文を唱えた。「フィル・フレイム・フォーカス!」強烈な火球が放たれ、魔物たちの群れを突き抜けて核を直撃した。


 核が砕けると、魔物たちは次々と消えていき、黒い霧も晴れていった。


「やった、これで道が開けた。」アリスが息をつきながら言った。


「でも、これはただの序章だわ。本番はこれからよ。」ルナが険しい表情で塔を見上げた。


 三人は再び足を進め、バルガスの待つ最上階へと向かった。緊張感が漂う中、彼らは互いを信じ、最後の戦いに挑む準備を整えていた。


 バルガスの待つ塔の最上階へ向かう途中、アリスたちはさらに強力な魔法の防壁と罠に遭遇した。廊下全体に魔力が充満し、空間が歪む中、進むたびに仕掛けられた罠が発動する。


「気を抜けないわ。この魔力、バルガスが私たちを本気で足止めしようとしている証拠よ。」ルナが警戒しながら言った。


「でも、どんな罠が来ても突破するしかない!」ライアンが剣を構え、アリスとルナを守るように先頭を進む。


 突然、床が光り輝き、魔法陣が出現した。その中から出てきたのは、バルガスの魔法で召喚された強大なゴーレムだった。その巨体は廊下を埋め尽くし、一撃で周囲の壁を破壊するほどの力を持っていた。


「こんなところで立ち止まるわけにはいかない!」アリスが魔法書を開き、呪文を唱え始めた。「フィル・ライトニング・チェイン!」


 放たれた稲妻がゴーレムの全身を覆ったが、その巨体はビクともしない。逆にゴーレムは拳を振り上げ、アリスに向かって振り下ろそうとした。


「アリス、下がって!」ライアンが間に入り、その拳を剣で受け止めた。しかし、その衝撃は凄まじく、彼は後ろへと弾き飛ばされてしまった。


「ライアン!」アリスが叫ぶ。


 ルナがすぐにアリスの隣に浮かび、「このゴーレムには特定の魔力の核があるはず。それを破壊すれば倒せるわ!」


 アリスはゴーレムの動きを観察し、その胸部にある不自然な光を見つけた。「あれが核ね!ルナ、援護して!」


 ルナが光の矢を放ち、ゴーレムの動きを一瞬止めた。その隙を突いて、アリスは「フィル・フレイム・スピア!」を唱え、火の槍を核に向けて放った。


 槍が核に命中すると、ゴーレムの動きが急に鈍くなり、その巨体が崩れ始めた。ついにゴーレムは倒れ、廊下に静寂が戻った。


「やった、でも、ここまできついなんて。」アリスが息を切らしながら言った。


「これがバルガスの力の片鱗だ。ここからが本当の試練だろう。」ライアンが剣を握り直しながら立ち上がった。


「もうすぐ最上階ね。この戦いで全てを終わらせる準備をしなきゃ。」ルナが力強く言った。


 三人は傷つきながらも決意を新たにし、最上階への階段を登り始めた。その先に待つのは、バルガスとの直接対決だった。


 アリスたちはついにバルガスのいる最上階の扉の前に立った。重厚な扉の向こうから、冷たい魔力が漏れ出しているのが感じられる。三人は互いを見つめ、静かに頷き合った。


「これが最後の戦いだ。僕たちの全力を出し切るしかない。」ライアンが剣を構えながら言った。


「私たちは一緒よ。絶対に負けない。」アリスが魔法書を握りしめる。


「バルガスの力は強大だけど、私たちの絆がそれを超えるわ。」ルナが自信に満ちた表情で答えた。


 扉を開けると、そこには闇の魔法陣に囲まれたバルガスが立っていた。彼の手には強力な魔法の杖が握られ、邪悪な笑みを浮かべていた。


「よくここまで来たな、アリス。そしてルナ。だが、お前たちの旅はここで終わりだ。」バルガスの声が部屋中に響き渡る。


「終わるのはあなたの支配だ。この世界を守るために、私はあなたを止める!」アリスが叫び、魔法書を開いた。


 バルガスは手を振り上げ、闇の波を放った。それはまるで生き物のように三人に襲いかかる。


「ライアン、守って!」アリスが叫ぶと、ライアンが前に出て剣で波を切り裂いた。


「これくらいで怯むと思うな!」ライアンが叫び、バルガスに向かって突進する。しかし、彼の攻撃はバルガスの魔法の障壁に阻まれた。


「この程度の剣術では私には届かない。」バルガスが冷笑する。


 その隙にアリスが「光の結界」を展開し、ルナが魔法の分析を始めた。「バルガスの杖が彼の魔力の源になっているわ。それを破壊すれば、彼の力を弱められる!」


「わかった!ルナ、援護して!」アリスが「フィル・ブライト・ランス」を唱え、光の槍をバルガスの杖に向けて放った。


 光の槍が障壁を破壊し、その衝撃でバルガスが一瞬ひるんだ。「どうやら本気を出さねばならぬようだな。」


 バルガスは巨大な魔法陣を発動し、部屋全体を暗黒のエネルギーで満たした。アリスたちは一瞬で視界を奪われたが、ルナが空中で輝き始め、光の道を作り出した。


「この光を頼りに進んで!アリス、あなたの魔法でこの闇を払って!」ルナが叫ぶ。


 アリスは全力で呪文を唱えた。「フィル・ルミナス・ノヴァ!」眩い光が部屋全体を包み込み、闇を打ち消した。


 ライアンがその隙を逃さず、全力で剣を振り下ろし、バルガスの杖を真っ二つにした。「これで終わりだ!」


 杖が砕けると、バルガスの魔力が急激に弱まり、彼の膝が崩れた。アリスたちはついに彼を追い詰めたのだ。


「これが、終わりではない。」バルガスが苦しげに呟く。


「終わりよ、バルガス。私たちの力でこの世界を取り戻す!」アリスが杖を握りしめて宣言した。


 戦いはついに最終局面を迎えた。バルガスの力が完全に封じられるのは、あと一歩だった。


 バルガスの魔力が弱まり、部屋の闇が少しずつ薄れていく中、アリスたちは最後の一撃を放つ準備を始めた。しかし、バルガスはなおも不敵な笑みを浮かべながら立ち上がり、残された魔力を振り絞っていた。


「まだ終わりではない。この城と私の力は一体だ。お前たちがここにいる限り、私は永遠に蘇る!」バルガスが叫び、床全体に新たな魔法陣を描き出した。


 その魔法陣から巨大な黒いエネルギーが噴き出し、部屋全体が再び揺れ始めた。壁が崩れ、天井から石が落ちてくる中、アリスたちは足場を必死に守りながら行動を続けた。


「このままじゃ全員危ない!」ライアンが叫ぶ。


「ルナ、あの魔法陣を何とかできる?」アリスが急いで尋ねた。


 ルナは空中に浮かびながら目を閉じ、魔力を集中させた。「この魔法陣はバルガスの生命力そのものよ。でも、私たちの力を合わせれば封印できるかもしれないわ!」


 アリスは魔法書を開き、新たな呪文を探した。「それなら、私が結界を展開して魔法陣を封じる。その間にルナ、あなたの力で彼を抑えて!」


「了解!ライアン、バルガスの注意を引きつけて!」ルナが指示を出した。


「任せてくれ!」ライアンは剣を構え、バルガスに向かって突進した。彼の動きは素早く、バルガスの視線を完全に引きつけることに成功した。


 その間に、アリスは「フィル・サークル・プロテクト」と唱え、光の結界を魔法陣に展開した。結界が魔法陣を包み込み、その動きを徐々に封じていく。


「アリス、もう少しよ!力を合わせて!」ルナが輝きながら魔法陣に魔力を注ぎ込む。


 バルガスが怒りに震えながら叫んだ。「貴様らごときが、私を止められるはずがない!」


 その言葉に応えるように、アリスは全力で叫んだ。「この世界を守るために、私は負けない!」


 最終的に、アリスの結界とルナの力が完全に魔法陣を封じ込めた。その瞬間、バルガスの身体から黒い霧が噴き出し、彼の力が消滅していくのが分かった。


「これが、私の、終わりだとでも。」バルガスが呟きながら崩れ落ちた。


 静寂が訪れ、アリスたちはついに最終突入の戦いを制した。バルガスの支配は終わり、部屋に残ったのは壊れた魔法陣と三人の立ち尽くす姿だった。


「やった、ついに終わったのね。」アリスが息を切らしながら言った。


「いや、まだだ。今度はこの城から脱出しなければならない。」ライアンが警戒しながら周囲を見渡した。


 三人は力を合わせて崩れかけた城からの脱出を試みる。そして、彼らの冒険の最終章が幕を開けた。

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