王女様に召喚されたけど試験に通らないので、僕だけ元の世界に帰ることが出来ない

品画十帆

第1話 可憐な王女様

 僕達のクラスは、全員が異世界に召喚された後、今王城の大広間に集められている。


 可憐かれんな王女様が、王家のとうといお力で、異世界から有能な若者を呼び出したと、らしげに話されている最中さいちゅうだ。

 信じられない事だけど、その有能な若者の中の一人が、僕のことらしい。


清楚せいそな王女様は、僕達へ深々と頭を下げられ「どうかお願いします。 窮地に陥きゅうちにおちいっている我が国を救っていただきたい」と、キラキラとした目で懇願こんがんをされている。


 お話によると、同時多発的に全土が、凶悪な魔族に攻められているようだ。


 それを聞いたクラス全員は、我を忘れて熱狂的に「戦わせてください」と王女様に対して忠誠を誓っていた。

 あまりの感激に、王女様はただただ涙を流されている。


 もちろん僕もその一人だ、真摯しんしな王女様が嘘偽うそいつわりなく、話されている事は明白めいはくだったからだ。

 少しだけでも、お役に立ちたいと思わないはずが無い。


 ただ、その場の雰囲気も勢いも少しはあったかと思う、それほど王女様のスピーチが素晴らしかったんだ。


 その後一人一人が、神秘的な光をまとった王女様に、おのれが持っている適性をげられた。


 ある友人は剣士だった、もう一人は魔術師で、農夫や商人もいたと思う。


 もちろん僕も、瀟洒しょうしゃな小部屋に通されて、聡明そうめいな王女様から適性を告げられた。


 「あなたの適性は〈いやし〉となっているわ。 でも〈癒し〉とは、どんなご職業なんでしょう」


 可愛らしい王女様は、コテンと首をかしげられて、少し悩んでおられる様子だ。


 僕はその仕草しぐさに、ドキリと淡い恋心を覚えてしまう、高貴な王女様に対して失礼な事だけど、止められなかったんだ。


 他の男子も程度の違いはあるけど、素敵な王女様に好意を寄せていたと思う、ただ誰もそれを表に出さないように努めていた。

 女子達も、男子に愛される王女様を、決してねたんだりはしなかった。


 真直ぐな王女様が、ただ国を救いたいと願っている事を分かっていたからだ。

 公平な王女様が、召喚された男子の一人と恋をしたいなんて、全く思っていない事を、みんなが知っている。


 「うーん、〈癒し〉ならポーションよね。 あなたの適正は、ポーション職人よ」


 恥ずかしがり屋の王女様は、僕がずっと顔を見詰めているのに、耐えられなかったのだろう。

 顔を真っ赤に染められながら、適性を教えてくださった、声がとても可憐だ。


 当たり前だけど僕も、国をうれいておられる王女様と、恋をしたいなんてこれっぽちも思ってはいなかった。

 お顔を間近で見せて頂いただけで大満足だ。


 それから僕は、ポーション職人の工房に見習いとして入り、必死にポーション作成技術を覚えようとした。

 工房の親方や先輩も親切に教えてくれたので、僕の日々は輝いていたんだが、でも最初だけだった。

どれほど頑張っても、丁寧ていねいに教えてもらっても、少しも技能が上がらないんだ。


 初級ポーション職人になる試験を、三年連続落ちた時に、親方と先輩に僕は見捨てられてしまった。


 「三年も修行して、初級ポーション職人の試験に落ちるなんて、この無能め。 お前には適性なんか、何も無いんだ」


 親方に罵声ばせいを投げられてしまった、僕があまりにも不甲斐ふがいないので、イライラが限界になったのだろう。


 僕も本当にそう思う、この世界の若者もポーション職人になろうと工房にやってくるのだが、皆一年か遅くとも二年で、初級ポーション職人の試験に合格している。

 中には、それほど真面目に修行していない人もいるのだが、それでも合格出来るほどやさしい試験なんだ。


 僕の方が一生懸命なのに、どうしてだろう、誰でも受かる試験なのに。


 理由は良く分かっている、薬草と水を清浄な物にすると言うまじないが、僕では上手く作動しないんだ。

 不純物があっては、まともな物になるはずがない。


 初級ポーション職人なんて、素人に毛が生えた段階なのに、上級ポーションを作れるようになって、一人前なのに、これは絶望的な事だ。


 だけど僕はこの国のために、尊敬している王女様のために、頑張るしかないんだ、絶対に一流のポーション職人となり、この世界を救う手助けをしたいんだ。



 工房の全ての人に無視されながらも、時には邪魔だとられても、僕は歯を食いしばって修業を続けている。

 そんな苦しい日々の中、可憐な少女から麗しい女性に変わられた王女様が、僕の元を訪れてくださった。


 いつまでっても、初級ポーション職人にさえなれない僕を、心配されて来られたらしい。


 「親方さん、この方はどうして、試験に合格されないのでしょう」


 「えぇっと、それは。 うーん、この召喚された者の努力が足りないからです」


 「えっ、そうなのですか」


 「はい。 誓ってそうなのです」


 「あなたには、すごく幻滅げんめつしました。 他の方は皆様頑張っておられますのに。 何を考えているのですか」


 「王女様、すみません。 僕なりに頑張っているのですが、試験に通る事が出来ないのです。 もっと精進しょうじんいたします」


 「ふん、三年もなまけておいて、良く言いますね。 でもやっとやる気になってくれたようです。 親方さん、よろしくお願いしますね」


 その後の初級ポーション職人の試験にも、三回落ちて、召喚されてもう七年が経ってしまった。


 他のクラスメイトは、魔族の軍隊を壊滅させたとか、新たな農産物を開発したとか、隣国との貿易で国に大きな利益をもたらしたようだ。

 そして、王城で大々的に感謝のお披露目ひろめをされて、嬉しそうな王女様からねぎらいのお言葉を送られてから、意気揚々いきようようと元の世界へ帰還していった。


 僕も一応召喚者だから、そのお披露目に呼ばれて、困難を成し遂げて晴やかな笑顔のクラスメイトを何十人も見送ったんだ。


 「こんなに喜んでもらえるなんて、最高の気持ちだわ」


 「苦労した甲斐があったよ。 この国の役に立てて良かった」


 「お前も、頑張れよ」


 その度に僕は決意を新たにするのだが、親方と先輩は五年前から、もう口もきいてくれない、目も合わせてくれない。

 後輩からは、明らかに邪魔者扱いされて、意地悪をされるようになっている。


 食べ物も満足にもらえないから、今の僕はガリガリにせている、足に力が入らなくてフラフラとしか歩けないほどだ。


 また三年経ったからだろう、魅力的になられた王女様が、再度僕の元を訪れてくださった。


 魔族の討伐がようやく完了したため、時間の都合がおつきになったらしい。


 「はっ、親方さん、この方はご病気なのですか」


 「うぅ、えぇっと、それが」


 「すみません。王女様、お腹が空いてたまらないのです。 何でも良いのでおめぐみください」


 僕はあまりの空腹で死にそうだったから、苦し過ぎて不敬ふけいにもかかわらず、王女様へお恵みを願ってしまった、頭も朦朧もうろうとしていたんだ。


 「いったい、これはどう言うことなのです、親方さん。よろしくお願いします、と言いましたよね」


 「そうは言われますが、コイツにはポーション職人の適性がまるで無いのですよ」


 「えっ、それなら三年前にどうして、そう言わないのです」


 「私ら庶民しょみんが、王女様の言った事に逆らう事などできましょうか。 コイツもそうなんだと思いますね」


 親方は僕を虐待していたことがバレて、開き直ったようだ、こんな事になった発端ほったんは王女様の告知が間違っていたと言いたいのだろう。


 そんな事は許しちゃいけなんだ、聡明そうめいな王女様が間違えるはずが無い。


 「すみません。 僕が初級ポーション職人の試験に合格しない事で、王女様にご迷惑をおかけしまた。 今直ぐ修行を再開します」


 僕はヨタヨタと歩いて、草を手に取ろうしたが、そのまま倒れて動けなくなってしまった。

 草を取ろうとしたのは、もう薬草をもらえないので、少し似ている雑草で修業を続けていたからだ、苦いけど食べてもいたな。


 近くを通りかかったのだろう、石鹸職人である最後のクラスメイトが、駆け寄って抱き起してくれた、泣いているらしい。


 「うぅ、こんなひどい目にあわされて。 無理やり召喚されたうえに、餓死がしするまでいじめられるなんて、コイツが何をしたって言うんだ。 どんな悪い事をしたって言うんだ。 教えてくれよ」


 工房が割と近くだったので、はげまし合っていたんだ、三年前からは僕がなぐさめられるだけだったけど。


 この最後のクラスメイトも、良く泡立つ石鹸を一万個作った事を評価されて、国中から惜しまれながら、もう直ぐ元の世界へ帰れる事が決まっている。


 はぁ、僕はこの世界で一人ぼっちなるんだな、そう思いながら僕は意識を失った。



 目が覚めたら、僕はベッドに寝かされていた、だけどお腹は吐きそうなほど空いている。


 僕が目を覚ましたのを、誰かが気づいてくれたのだろう、お城の人がスープを持ってきてくれた。

 僕はそれを飲んで何とか命を長らえたようだ、徐々に固形物を食べられようにもなって、数日後には歩けるようもなってきた。


 「お願いがあるのです。 時間を無駄にしましたが、一刻も早く初級ポーション職人の試験に合格しないといけないのです」


 僕がしつこくお願いをしたからだろう、沈鬱ちんつうな表情をした王女様が、僕がいる部屋まで来てくれた。


 「御気分はいかがです」


 「はい、もう大丈夫です。 食べ物を頂きありがとうございました」


 「顔色も良くなられたようですね。 念のため後で医師に診て頂きますわ」


 「えぇっと、もう大丈夫です。 それよりも、早く工房へ帰りたいのです」


 「うっ、もうあの工房へ戻る必要はありません。 それにもう戻りようも無いのです。 あの工房はすでに閉鎖しました」


 「えっ、そんな。 それなら僕はどこで修業すれば良いのですか」


 「あなたは、もう修行する必要が無いのです。 この城でごゆっくりと暮らして下さい。 私がかなえられる範囲ですが、ご希望をおっしゃって頂きたいです」


 「はぁ、何ですかそれは」


 「あなたの御同輩ごどうはいのご尽力じんりょくにより、魔族は一掃いっそうされたのです。 もうこの国に脅威きょういはありません」

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