第7話 新たな人格の目覚め

 雲川は美怜の空気が変わり、以前とは別人になった事を感じ取っていた。


「むむっ……性格が変わったようだな……。だが、どう変わろうともお前を斬るだけだ……」


 彼はそう呟くと刀を八双に構え、じりじりと間合いを詰める。対する美玲は先程までと違い落ち着き払っており、冷静に相手の動きを観察していたのだった……。


「人を斬る事しか頭に無いんですね……」

「それが私の生きる支えだ……」


 即答すると刀を構えて一気に距離を詰めてきた。だが、美玲は怯む事無く冷静に相手の動きを見定めていたのだ。そして、雲川から弾き飛ばされた刀を拾うと構えるのであった。


「斬られるのは貴方の方だ……」


 美怜の口調でなく、新たな人格の音色でそう呟くと間合いを詰め刀を振り下ろしたのだ。だが、雲川も素早く反応し刀で受け止めたのである。


「良い反応ですね……」


 彼女はそう言うと、素早く刀を横に一文字に薙ぎ払う。雲川はそれを避けようとするが間に合わず袴に刃が掠めたのだ。


「おっ……やるではないか……」


 雲川は斬られた袴を見て感心すると、口角を上げて彼女を褒め称える。そして、再び間合いを取ると喉元を狙い突きを放ったのである。

 彼女は放たれた突きを刀で弾くとカキィ――ンと剣と剣ののぶつかり合う音が響き渡ったのだ。


「良い動体視力だ……これも躱せるかな?」


 彼はそう呟きつつも連続で突きを放ち攻め続けていく……。その剣速はとても速く達人であっても避けるのは困難なものであった。

 しかし、彼女はその突きを軽々と避けていくのだ……。雲川は次第に苛立ちを覚え始めてきたのである。

 そして、決定打を与える為に間合いを取ると体勢を立て直して刀を脇構えに構えたのだ。彼は半身になり剣先を後ろに下げている。


「決着をつけようぞ……」


 彼はそう呟くと深く深呼吸をした。そして、意識を研ぎ澄ますかのように集中し始めたのである。すると、彼の身体からは見えない闘気のような物が噴き出していたのだ。

 その目はまるで獲物を狙う猛獣のような鋭い目つきになり、彼女を見つめていたのであった……。


「行くぞ……」


 彼はそう言うと、じりじりと間合いを詰めていく。美玲はその動きを見て無表情で呟く……。


「本気になったようですね……」


 呟いている間に雲川は目の前に来ていたのである。そして、後ろに下げた剣先を左逆袈裟斬りに移行し、素早く美玲に斬りつけたのだ。

 その動きは常人の目には追えぬ速さであり、目で捉えることは不可能に近いものであった。しかし、彼女は動きを完全に見切っていたのである。


「くっ……」


 雲川は驚きの表情を見せるが、それでも攻撃の手を緩めず連続で剣戟を繰り出したのであった。だが、それも空しく全て弾かれてしまい戦局は変わらないままである。

 そして、雲川が一旦距離を置こうとした瞬間であった……。一瞬の隙を突いて、美玲は刀を右手だけで持ち離れた間合いから片手で突きを放ったのだ。

 その剣先は彼の腹部に突き刺そうとしたのであるが、彼も尋常でない反応で躱そうとしていた。


「くっ……!」


 切っ先は彼の左脇腹を掠り服を貫き鮮血が滴り落ちていた。彼は苦しそうな表情を浮かべ美怜を憎しみのこもった目で睨んだのである……。


「まさか……ここまで、やるとはな……」


 雲川は刀を構え直しながら言うと、対して美玲は至って冷静を装っていた。


「貴方に勝ち目は無いですよ……。大人しく斬られてください……」


 彼女はそう言うと構え直したのだった。そして、再び攻防が始まったのである……。




「おおっ、これが新たな人格の力か?」

「もう彼に勝ち目はないだろうね……」


 モニターで試合を見ていた賢一と彰は予想以上の展開に興奮し感嘆の声を漏らしていた。


「どうやら、彼の命は風前の灯火だ……」


 賢一が呟くと彼は頷き返した。そして、雲川の方を見ると彼は美玲の猛攻に防戦一方となっているのだった……。

 しかし、反撃する余裕はなく彼女の攻撃を避ける事に精一杯になっていた。だが、彼は次第に斬り付けられていき袴が鮮血に染まっていたのである。


「奴もそろそろ限界だろうな……」

「そうだね……」


 兄弟はそう言ってモニターを見つめる彼等の目は、まるで実験動物を観察する研究者のように冷淡な目付きだったのだ……。




 雲川が攻撃を避けるため間合いを取ると美玲は、すかさず追い打ちを掛けるべく斬りかかるのである……。だが、雲川も攻撃を受け攻撃に転じようとした瞬間であった……。

 彼が袈裟斬りを仕掛けようと剣を振るうと美怜の左肩の上で剣を受け弾くと反対に左袈裟斬りを仕掛け、肩を斬り付けたのだ。


「ぐあぁぁぁあ!!」


 雲川は苦痛の叫びを上げると、右肩に走る激痛に耐えられず体勢を崩し膝から崩れ落ちるのであった。

 美玲は彼に止めを刺すべく刀を振り上げると雲川は瞬時に叫んだのだ。


「待ってくれ!!」


 彼の必死な訴えに美玲は躊躇ったのか振り下ろそうとした手が止まる。そして、雲川を見ると彼は右肩を押さえながら苦しそうにしていたのである……。


「頼む! 命だけは助けてくれ……」


 必死に懇願するように言うと彼女は刀を下ろしたのであった……。


「確か、この試合はどちらかの死をもって終了すると言ってませんでしたか……?」

「そ、それは……。後生だ! 助けてくれ!」

「知りませんよ……」


 美怜は、そう答えると雲川は苦痛に顔を歪めながらも美玲を睨みつけたのだ。しかし、彼女はそれを気にする事なく彼の目の前まで来ると刀を振り上げたのである。

 そして、そのまま勢い良く振り下ろしたのだ!


「がっ……!」


 振り下ろされた刀が彼の首を斬り付け、そこから鮮血が迸り首の半分以上斬り裂いてしまったのだ。雲川は一瞬、断末魔の悲鳴を上げたがすぐに息絶えたのである……。

 そして、美玲は倒れた彼の屍を冷徹な目で見下していたのだ。その目は別人のように鋭く光っており表情も残忍で冷酷なものに変わっていたのだ。


「これが首を刎ね落とす感触か……」


 彼女は、雲川を斬った剣を見詰めながら口角を上げ、初めてニヤッと不気味な笑みを零したのであった……。

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