第4話 双子の精神科医と外科医

 美怜は無言で掴んでいる髪を離すと、無造作に首を投げ捨てたのだ。榊の生首が床をゴロゴロと転がっていったであった。

 そして、彼女は配信を見て面食らう視聴者達の姿を想像してほくそ笑んでいた。


『この女……狂っている』

『これは、中々の残酷ショーだ……次の試合も楽しみだ』

『綺麗な女だが、クレイジーだな……だが、イカれている方が強いと言うことを証明したな……』


 コメント欄にはそう書かれていたのである。だが、彼女には全く知る由もなかったのだった。

 この様子を見ていた施設のスタッフ達は、凄惨な光景に不快感を示す者と興奮している者、それぞれ違った反応を見せていたのである。


「こいつは危険な奴だ……。微弱の神経ガスを使って気絶させるぞ!」


 施設長がそう叫んで指示を出すと、スタッフ達がガスのスイッチを入れ美怜の部屋の通風口にガスを流していったのだ。

 部屋にガスが充満していき美怜は眩暈が起きると意識が朦朧として、そのまま倒れていった。そして、次第に意識を失っていくのだった……。


「これで、こいつは動けないはずだ。後は監禁部屋に連れて拘束衣を着せろ……」


 施設長はそう呟くと、他のスタッフに指示して彼女を部屋から連れ出させたのであった。



 美怜は目を覚ますと、ベッドに寝ていたが部屋が暗く自分が何処に居るのか分からず混乱していた。


(ここは……何処?)


 周囲を見回して状況を確認しようとしていたのだ。しかし、体が思うように動かず起き上がる事が出来なかったのである。


(何……? どうなっているの?)


 彼女は自分の体を見ると、両手を拘束衣で縛られ手が動かせない状態で、両足も足枷が嵌められていた。


(これは……どういう事?)


 美怜は訳が分からず混乱していたのである。すると、部屋の扉が開かれ誰かが入ってきたのだ。


「起きたようだな……」


 そう声を掛けてきたのは2人の男であり、顔は整って綺麗であった。彼等は白い歯を見せながら彼女に近付いてくる。


「誰なの?」


 美怜は睨み付けながら男達に問い掛けた。


「私は組織から君の精神状態のメンテナンスをするように命じられてやって来たんだ。まぁ、今の君は正常な人格のようだが……」


 男達は顔が、そっくりだが髪型が違うようであった。1人はミディアムの髪にパーマをかけた感じで、もう1人は長い前髪を立ち上げた感じにしていた。


「顔がそっくりだろ、双子だからな……私は兄で大御門おおみかど賢一けんいちという、こっちは弟であきらだ……」


 男のうち兄の方がそう答えると、美怜の体を舐め回すように見詰めていたのである。その視線は彼女の瞳を深く覗き込むようにしていた。

 瞳を凝視され不快感を感じ眉をひそめ顔を背けるが拘束されて動けない状況だった。


「僕達を恨まないでくれよ……これは、上からの命令なんだ。僕達は医師で兄は精神科医、僕は外科医だ」


 弟の方がそう答えたのだ。そして、美怜の体に触れようとしてきたのである。


「触らないで!」


 彼女は拒絶し叫ぶが、拘束されて動けない状態であり抵抗は出来なかった。


「そう言わないでくれよ……君はナイフ使いから、色々傷つけられただろう? だから、僕が治療してあげるよ……」


 彰は彼女の耳元に顔を近づけ囁くと、口元に笑みが浮かんでいた。


「治療って何をする気?」


 美怜が警戒しながらそう問い掛けると、弟は注射器を取り出したのである。その注射器には得体の知れない液体が入っており不気味さを醸し出していたのだ。


「この注射は僕達が開発した薬液だよ! 君の中に眠る殺人鬼の人格が起きないように大人しくさせることが出来る代物なんだ」


 彰はそう言って興奮気味に注射器を見せつけてきたのだった。


(私に……殺人鬼の人格?)


 美怜は意味が分からず困惑していた。しかし、目の前に居る男達は自分の知らぬ心の中を知っているような感じだった。


「やはり知らないようだな……。君は多重人格者なんだ。しかも、複数の殺人鬼の人格がある……」


 賢一がそう告げると、彼女は驚愕の表情を浮かべたのだ。自分にそんな秘密があったとは思ってもみなかったのである。


(私が? この人達の言う事が本当なら……)


 彼女は戸惑いながらも考えを巡らせていた。そして、思い当たる節がある事を思い出す。

 それは榊との戦いの時であった。あの時に頭の中で声が響き、その声に委ねた後の記憶が無くなったのだ。

 その事を話すと、2人は納得した様子で頷いていた。そして、賢一が美怜に話し掛けてきたのである。


「やはり……君は多重人格者だ。それも複数の人格がある」

(そんな……私が?)


 彼女は信じられないと言った表情で、賢一の言葉を聞いていたのだが頭の中では混乱していたのだった。


「だが、安心してくれ……私達は君を良くするために来たんだ。だから、協力してくれるかい?」


 賢一が問い掛けると、美怜は少し考えてから答えを出したのである。そして、2人は彼女の言葉を聞いて微笑んだのであった。


「分かったわ……」

(今は彼等に従うしかない……)


 彼女は心の中で呟くと、覚悟を決めて男達に従う事にしたのだ。その様子を満足そうに見ていた2人であったが、注射器を美怜の右腕に刺したのだ。

 すると、何か液体が注入されていくのを実感していた。


「何を注射したの?」


 美怜は不安げにそう聞くと、2人は笑みを浮かべて答える。


「特別な精神安定剤だ……君の殺人鬼の人格を抑え込むために薬を打ったんだ」


 賢一がそう言うと、彰も続けて話す。


「これで暫くは他の人格に変わらず安全に過ごせるはずだよ……」


 彼女は2人の言葉を聞いて安心すると、体から力が抜けていった。だが、それと同時に激しい眠気が襲ってきたのである。


「眠く……なってきた……」


 そう問い掛けるが、既に意識が朦朧として閉じかけていたのだ。そして、最後に聞こえた言葉はこうだった……。


「人格が安定したら君には、再び試合をしてもらう……」


 その声を最後に彼女は意識を失ったのだった……。

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