バラとケーキと

紙の妖精さん

第1話

暖かな照明が灯る室内、その中心に彼女は立っていた。大きな姿見の前で、少しだけ髪のリボンを整え、ふわりとスカートの裾を揺らす。長いウェーブのかかったツインテールの髪が優雅に光を反射し、金色の糸のように輝いていた。髪に結ばれた淡いピンクと白のチェック柄のリボンは、ドレスと同じ繊細な雰囲気を持ち、統一感を与えている。リボンの柔らかな生地が髪のウェーブに寄り添い、ドレス全体の優しさと調和して、見る人に温かな印象を残し統一感のある可愛らしさを引き立てていた。


チェック柄の短袖ドレスは、クラシックな雰囲気を漂わせながらもどこか軽やかだ。襟元は丸みを帯び、袖はふんわりとしたパフスリーブ。柔らかなコットン素材が肌に優しく馴染み、軽やかな動きが彼女の所作をさらに引き立てる。裾に施された繊細なレースのトリムは、足元の小さな動きに反応するように揺れ、その一瞬一瞬が物語のワンカットシーンのようだった。スカートの広がりは控えめながらも、少し風が吹けば軽く舞い上がり、彼女の周囲に温かい空気を纏わせ、その姿が舞い上がる花のように、周囲に優しさを届けていた。彼女は静楚かな部屋の中で少し立ち止まり、目を閉じて深呼吸をした。今日はドライブに行く日だった。


「昨日までの忙しさが嘘のように、今日という日は静かで清々しい。これが何か新しいことの始まりの予感ならいいな、」と彼女は密かに思った。


小さく呟き、深呼吸を一つ。窓の外に目をやると、青空が広がり、日差しが柔らかく庭の花々を照らしていた。


彼女を乗せた、お屋敷の車は主要道路を直進する。彼女が乗る車は、白い外装が美しいレトロなデザインのセダン。運転席には、穏やかな顔立ちの運転手が座っている。運転手の顔に見覚えがあるわけではないが、彼女は自然と彼を信頼していた。まるで昔から知っているような、そんな気がした。彼はゆっくりと車を発進させ、広がる風景が窓の外に流れ始めた。


彼女は右手に、小さなサッチェルバッグをそっと持っていた。バッグの中には何も特別なものが入っていない。ただ、必要最低限のものだけが収められていた。そのバッグを軽く手にしたまま、彼女は車の中でリラックスした。


車の窓から見える街並みは青い空に溶け込み、優しい温かさを感じさせる。彼女はそれを見つめながら、今、この瞬間の静けさが心地よいことを実感していた。最近、忙しさに追われる毎日が続いていたが、今日はそのすべてから解放されたような気がする。


運転手は途中、少しだけ彼女に話しかける。「今日は、どこへ行かれるのですか?」その声に、彼女は少しだけ目を細めて答える。「特に決めてないの。でも、なんとなく出かけたくなったの。」運転手は軽く微笑んだが、それ以上の言葉は続かなかった。穏やかな会話が車内に溶け込み、心地よい静けさを生んでいた。


しばらく走ると、車は田舎道を抜け、緑の景色が広がる場所に差し掛かる。少し窮屈だった都会の風景が、あっという間に遠ざかり、心が落ち着いていくのを感じた。車内のラジオからは、軽快な音楽が流れ続けている。それに耳を傾けながら、彼女は少しの間、窓の外を流れる緑の景色をぼんやりと眺めていた。運転手がそっとボリュームを下げる音がして、『静かでいい日ですね』と小さく呟いた。その言葉に、彼女はただ微笑んで頷いた。」


「こんな日常を、もっと大切にしないといけないんだろうな」と、彼女はふと思った。今はただ静かに風景を楽しむことができる。心の中で少しだけ幸せを感じる。


「運転手さん、もう少しだけドライブを続けてもいいですか?」彼女が小さな声で言うと、運転手はすぐに応じた。「もちろん、お好きなだけ。」そして、車はさらに進み続けた。

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