7 絶対よくないことが起きる前兆だよこれ



 順調に冒険は進み、俺たちは10階層で見つけたセーフルームでいったん休憩を取っていた。


「いやぁ……アルラウネは強敵でしたね」

「欠片も強敵じゃねぇよロックが無防備に突っ込んでっただけだろうが」

「どうしてマスターは女性型の魔獣に躊躇い無く突撃してしまうのですか? どうして……」

「ハーピィとかアルラウネとかに対して欲情するのは極めてヤバいよロック……私もドン引きだよ」

『みゃあ……』

「だってあいつらおっぱい丸出しなんだぜ!? 仕方ねぇじゃん本能が飛び込めって叫ぶんだよどうしても我慢できなくてクソー!!」

『セイレーンやサキュバスが天敵になりそうですねロックは』


 飯の準備しながらこれまでの冒険を振り返ってたら全員から白い目で見られた。

 だってさぁ……アルラウネちゃんすっごいおっぱいおしり太ももがむっちむちでさぁ!! 甘い香りでこっちを誘ってくるんだから飛び込まなきゃ失礼だよねぇ!?

 まぁ飛び込んでおっぱいに頭埋めて堪能しつつ蔓による束縛攻撃は全力で避けてたんだけど。

 至近距離で胸揉みながらも蔓に捕まらない俺見て『なんやコイツぅ!?』って顔でアルラウネちゃんが見てきたのが印象に残ってるけど。

 その直後ティオのスローイングダガーが頭に突き刺さってお亡くなりになったけど。


 なんであんなに人間に近い体なのに魔獣扱いなんやろなぁ……ハーピィとかもそうだけどさ。結局ほぼ人間じゃん。あんな可愛いのになぜ討伐しないといけないのか。

 いわゆる魔獣扱いされる人間型の種族は知能が足りないみたいな学説をどっかで聞いたことある。セントールとかリンみたいな竜人とか、他にも獣人も結構いるけど、そういう亜人とされる種族は意思疎通ができて、かつちゃんとした関係性を作れれば人間を襲わない特徴があるので魔獣扱いされてない。

 それに対してアルラウネやハーピィは意思疎通ができないのだ。言葉を理解できない。テイマーの使役魔法を使って初めて使役魔獣として扱われて、それだって人間と同じ扱いにはならない。操ってるだけだ。

 悲しい世界の摂理だね。いつか人語を介するアルラウネとハーピィとセイレーンと女性型スタチューに出会いたいもんだ。

 サキュバスは人語理解するけど人間の精が主食なので魔獣扱いされてるしそもそもレア魔獣。悲しい。


「ま……でも探索はかなり進んだな! このセーフハウスには一番乗りじゃねーか?」

「せやね。道中で結構なパーティともすれ違ったけど5階超えたあたりからほとんど見なくなったしな」

「ロックの勘に任せて進んでるだけだもんね私達。それでも効率よく宝箱は拾えてるし……殆どファーストボックスばっかり! すごい儲けだよ!」

「……私は、マスターのその、勘? を見るのはこれが初めてですが……どうしたらそこまで宝箱や隠し通路や階段への嗅覚が冴えるのですか? レアスキル『直感』でもそこまでは……」

「え、なんでやろな……何となく?」

「私のマスターはもしかしてかなりヤバいのでは?」

「ってかイレヴンさん……え、何。イレヴンさん『鑑定』スキルもってんの? スキルやステータスまで見えるってなるとかなり高位の『鑑定』だよね!?」

「ええ、一応。ですが装備の能力や魔獣のステータスを見る程度で他人のステータスまでは見れません。皆さんの技能は同行する中である程度察せる様にはなってきましたが……マスターだけが全く分からない。攻撃はからっきしなのに逃げ回るのだけはゴキブリみたいに上手だしシーフの技能がキモいしなんなんですかこの変態」

「なんで急にディスって来た??」

「ロックがキモいのが悪いと思うな私」

『みゃあ……ハフハフ』


 弁当としてアイテムボックスに入れて持ってきたサンドイッチをみんなで食べ、ミャオにも解した干し肉を与えながら、冒険の成果などを確認する。

 ここまでの探索は上々のアガリだ。下層に続く道のほぼ最短経路のマッピングは出来てるし、道中の宝箱の位置もメモってる。

 処女探索でここまでの成果は中々上げられませんわよ? ウチのパーティ有能すぎ問題。出てくる魔獣の対処が3人に任せられるのマジで気楽だわ。

 で、しかしその中で俺の勘の良さにイレヴンが首をかしげていた。何や。いいだろ俺の勘が良くたって。

 勘のいいガキが嫌いとかそういう話じゃないやろ。直感スキル? 持ってねぇよバーカ!! ただの勘だよ!!

 一時期めちゃくちゃ勘を鍛えてたこともあるしな。俺の生命線。


 まぁこれまでの冒険家業では他人とパーティ組むときにこれを信じてもらえなくてティオやカトルが一緒じゃないと効果が万全に発揮されなかったんだけど。ノックスさんはそう考えるとめっちゃ任せてくれてたなぁ。有難かった。

 なんでみんな右の道がいいっすよ! って言っても左に行きたがるんだろうな。そういう理論でもあんのか。俺の言葉そんなに信頼できなかったかな。

 まぁ確かに同行した女性冒険者からの信頼を勝ち取れたことは殆ど無いのだが(落涙)。

 みんな汚物を見るような眼で俺を見てきたが……(号泣)。


「……さて。この後どうする? 俺は戦闘に参加してないからまだいけるけど。みんなの意見を聞きたい」


 食事休憩も終えて俺達パーティの今後の方針を決めていく。

 敵はまだ余裕で対処できるレベルだ。つっても並みの銀級冒険者なら苦戦するくらいには魔獣は強くなってきているが、ウチのチームは銀級トップエースの二人とイレヴンだ。戦闘はまだまだ問題ないだろう。

 しかし初めてのダンジョンでどこまで進むかというのは判断が難しい。どこまで階層があるかもわからないし。

 ボスクラスの魔獣がこの先出てこないとも限らない。5階層で出て来たジャイアントトレントはカトルの炎が特効だったんで苦労せず倒せたけど、この先に何が出てくるやら。

 なのでまずみんなの体力の残り具合を確認する。それを聞いてから判断としたかった。


「んー、俺はまだ全然行けるぜ? 魔力は半分も使っちゃいねー。体力も十分。ただ転移陣がないから帰りも踏破することを考えるとあんまり深くまでは進みたくはねぇな」

「私もまだ余裕あるー! ここ自然の魔素がすごい満ちてるから自動で魔力は回復して満タンだけど……体力の方がちょっと心配かな? セーフハウスでぐっすり寝て進むならもっと行けそうだけど。でもこのハウスであんまり時間かけると他の冒険者が先に来るかもしれないし? パパっとあと5階くらい行ってそこで退却する?」

「私も稼働は特に問題ありません。ここまでに使用した攻撃は魔力消費が低いものに抑えましたし、内臓魔力炉による魔力の充填も間に合っています。皆さまのご判断にお任せしますよ」

『収穫は十分。ここで退き返しつつ、帰り道は別のルートを探してみるのもよいかとは思いますが』

『みゃあ』

「ふむー。まぁ俺もここに来るまでで探索しかしてねーから体力は問題ないんだが……」


 みんなの話を聞いて少し考える。

 とりあえず戦闘とかは十分な余力がまだあるようだ。しかしこのダンジョンはまだ転移陣が組み込まれていない。あれはギルドが高位の魔術師を安全に派遣して設置するやつだしな。恐らく後日このセーフハウス付近に転移陣が出来るんだろうな。

 となればここの情報を持って帰れるのはかなりの収穫になるだろう。新ダンジョンの処女探索としては相当アガりはある。3人で分けても一山当てたレベルの儲けになるはず。ファーストボックスもブチ開けまくって来たし。

 ただ、この先がどれほど深いかを探るのも損はない。ってかセーフハウスで地図探索が終わってるとその先の開拓が絶対他の冒険者にいい感じに取られちまうだろうな。折角ここまでいいペースだったのに勿体ない。

 逆に考えれば帰り道、ここのセーフハウスと5階層のボスゾーンで休めるからそこでアイテム使って回復しながら戻れば余裕はあるか。上の階層はウチのパーティにとっちゃ雑魚魔獣ばっかだったしな。

 

 ……よし。


「もうちょい進むか。2~3階層進んで……それで魔獣のランクがかなり上がってくるようなら無理せず撤退。セーフハウスで落ち着きながら帰ろう。で、どこまで進んでもあと5階層。5階層進んだら今日は一旦退却……でどうだ? 一番つまらねーのが帰れない事だからな、進むけど安全第一。俺もヤバいなって勘が少しでも囁いたら即時撤退を進言するからよ」

「ん。いいんじゃねーか? もっと先も見たいけど初回の攻略で無理する必要はないし、今回はファーストボックスとマッピング目当ての冒険でロックも頑張ってくれてたし……いつ撤退でも文句なし。ロックの勘に任せる」

「うん、私もロックのそれでOK。この階層までは魔獣もそこまで強くなかったけど、この先がそうって保証はないしね。次来る時は転移陣が出来てもっとしっかり準備してから最下層目指してみよっ!」

「私はマスターの判断に従います。無茶な判断でもありませんし……ティオもカトルも銀級の称号が似つかわしくないほどの強さを持っています。まだまだ進むことはできるでしょう」

「イレヴンさんに褒められると嬉しいな……でもイレヴンさんも信じられないくらい強いよな! 金級でもおかしくないぜその強さ!!」

「毒とかの状態異常系全部無効の体に、多少の攻撃もはじき返すほどの防御力。身のこなしも素敵でカッコいいし! ロックはホントにいい人見つけたねー!!」

「お褒め頂き有難うございます」

「あと腕も回るしな!!!!」

「それな!! めっちゃかっこいいよなあのドリル突き!!」

「わっかるー!! バサァッ! って魔獣が血煙になるの痺れちゃうよねー!!」

「想像以上にドリル推しでしたね。子供か。まだ子供でしたね……」

『みゃあ』

『年長者としてどこでブレーキをかけるかいつも頭を悩ませていますよ。イレヴンもいずれそうなるでしょう』

「いえ私はどちらかというと一緒にアクセルガン踏みするタイプです」

『今からでも即時撤退しませんか??』


 今後の方針を決定した。

 ここからは無理せず進むモードに切り替える。帰り道は別ルートで帰れる余力を残しつつ、先の魔獣の強さだけでも触れられればよし。

 ちょっと手ごわいな……ってなった時点で即戻る。何階層が最下層かも分かってないわけで、変にダンジョンボスにこのままの勢いで挑むのも怖いしな。

 俺と比べてカトルもティオも猪突猛進タイプなんだけど今回は俺の案に納得してくれた。いいのか俺の勘にそんなに信頼置いちまってよ……!! プレッシャーあるなぁ頑張るけどさぁ!!


「んじゃ軽く仮眠してから進むか。見張りは俺がやるよ、戦ってないしな」

「あ、マスター。私が見張りを代わりましょう。私は睡眠が必須ではありませんので寝なくても稼働が出来ますから」

「え、でも昨日寝てたじゃんお前」

「寝ることもできる、というのが正しいです。眠らなくてもスペックに支障はありません」

「寝なくていいんだーイレヴンさん! 便利ー! いいなー!」

「寝ずの番って長期遠征の冒険の時とかローテ組んでも結構面倒だもんな。俺もイルゼがいるから楽できるけど……すげー便利だなイレヴンさんの体」

『私も熱量の感知は広げておきますから、3人ともしっかり休むといいですよ』

「無機物系の仲間が頼りになり過ぎてこれはありがたい……」

『みゃあ』

「ミャウは私と寝ようねー! ぎゅーってしちゃう!」

「寝床が平らすぎてミャウが休めねぇんじゃねぇかティオの胸だと」

「ふんッ!」

「んグへっ!!」


 その後、ミャウを湯たんぽ代わりにティオに持っていかれて口が滑り拳骨を見舞われ、イレヴンとイルゼに見張りを任せて俺たち3人は仮眠を取って、体力を回復させてからさらなるダンジョン攻略に進んだのだった。




※    ※    ※




【side カトル】



 その後の探索も、問題なく進められていた。


「お、またなんか宝箱っぽい感じだ。こっちのほう……ただちょっと魔獣もいそうか? カトル、どう?」

「かもな……そっちのほう、熱量がたけーや。動いてるのもいる……このサイズならトロールかな。木々に体隠してるっぽいけど……十数体ってところか」

「ヒュージトロールじゃなければまだ余裕だね。行こっか!」

「少し木が密集したところですから、むしろこちらが有利な地形ですね。私とティオは脚の腱を狙っていきましょう」


 11階層を超えて12階層まで来ても、劇的に魔獣の質も量も変わることはなく、まだ銀級冒険者なら十分に攻略が出来るレベルだ。

 もちろん俺もティオも銀級の中でも別格の実力を持っていることもあるし、イレヴンさんもすっげー強いし、ロックはほっといても死なないから、問題なく魔獣をバッタバッタと切り伏せている。


「おー……宝箱の前に罠があってさらに宝箱にも罠があるパターンね!! はいはいそう言うのわかっちゃう! 宝箱に近づくなよみんな! フヘヘ!! フッヒヒ!! ファーストボックス祭りじゃい!!」

「あいつ宝箱の前に来るとキモさが増すよな……」

「……足音や重さで感知する罠なのでしょうか。マスターの足音が消えましたね」

「忍び足というには余りにもキモいゴキブリのような動作で宝箱に取りついたね。腕前は一流なんだけどねぇ……キモいんだよねぇ動きが……」


 ロックが持ち前の身軽さと勘の良さを発揮し、罠が幾重にも張られている宝箱に近づいて無事に開錠成功して宝箱を開ける。

 アイツのシーフとしての腕前はマジで本物だ。すべて勘でやってると本人は言ってるけど、これまで他の冒険者とパーティ組んだこともある俺からすればあれは異常。マジで便利な事この上ない。キモいけど。

 他のシーフだと罠を調べたり、そもそも宝箱の位置だってしっかり探さないとってのが当然なのだが、コイツは勘の一言でその辺全部すっ飛ばして宝に一直線だ。そしてそれが外れることは少ない。

 時々女性型の魔獣にも勘が働いて突撃するアホな面はあるけど……流石ロックって所か。相変らずすげーやつだよコイツは。


 さて、その後宝箱も開け終えて順調に俺たちは進んでいた。

 ロックのアイテムボックスはLLサイズだからまだまだ余裕あるし、魔獣は全然行けるレベルだし、こりゃもしかすれば踏破あるか、なんて考えも頭にふと浮かんでくる。

 けど、冒険ってのはたいていこういう想像した時が命取りなんだ。

 新ダンジョンのファーストアタックってことで、俺たちは少し浮かれてたのかもしれない。


 そしてやっぱりというか、それは来ちまった。

 全く予想だにしていなかった、不意の襲撃が。


「───ッ!? 避けろッ!?」


 少し開けた通路を歩いていた時、不意にロックが叫んだ。

 急だった。俺の熱量感知には何の反応もなかったし、周りを警戒してたティオもイレヴンさんも何も感じ取ってはいなかった。

 けど、ロックが叫んだのなら絶対に何かある。


「くっ!?」

「え、何々っ!?」

「……!! 急な、魔力の奔流ッ!?」

『みゃー!?』


 俺たちはとにかくその場から飛びのいて退避行動をとった。

 それが功を成した。

 俺たちがついさっきまでいたところに……天井に穴を開けたなにかが、闇の魔力の奔流を叩きつけて来たのだ。

 その勢いで俺たちの体が転がされる。直撃だったらマジでヤバかった。


 俺たちパーティの虚を突いて一撃で仕留めようとしたその敵が、天井の穴からゆっくりと降りて来た。


「……な、んだアイツはっ!?」

「人間じゃねぇ!! 感知に引っかからない……!?」

「なに、この気持ち悪い魔力……!? こんな魔獣、初めてっ!?」

「いえ、あれは魔獣ではありません。あれは─────です!!」


 その、人型をした男は。

 筋骨隆々とした肉体から翼を生やしたそいつは、名乗りを上げた。


「ほう、先程の一撃を避けたか───我が名は魔王軍6大将軍が内の一人、破壊将ベルゼビュート様の第一の腹心『バアル』。このダンジョンに挑みし者に死を齎す者なり!」


「魔王軍、だと……!?」

「魔王軍の中でも割とランク低くね? トップの下の下って事だろ?」

「ロックもうちょっと緊張感もって!!」

「急に名乗りを上げんのもポッと出の雑魚キャラ臭すげぇし……あとムキムキの男なのも減点だわマジで。エロいねーちゃんで来いよカスが」

「カスはロックだよこのおバカー!!!」

『みゃあ!』

「マスター、気を付けてください! この男、本物の魔族です!! 通常の攻撃では傷すらつかない可能性がある……ですが私なら!!」

『カトル!! 私に全力で魔力を籠めなさい!! 油断は文字通り命取りになります!!』

「わかってる……!!」


 目の前に現れた男から迸る闇の魔力の奔流。

 それを身に浴びているだけで、とんでもない相手だというのが分かる。ロックは魔力感じられないヤツだから能天気だけど……マジで、ヤバいかもな。

 手に握る暁剣に全力で魔力を廻し、高温の炎を纏って構え───俺たちは初めて経験する魔族との戦闘に入った。



※※※




~登場人物紹介~


■バアル

魔族。身長2mくらいのムキムキマッチョゴリラ。

最初に出てくるボスキャラを女の子にしなかったのをちょっと後悔している。

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