第二話 周囲がプロ候補ばかりだろうとも

 七月中旬の金曜日。


 冬の選手権大会県一次予選を翌日に控え、僕が所属する吉田体育大学附属高校よしだたいいくだいがくふぞくこうこう男子サッカー部は午後五時過ぎに練習を終えた。


 この高校の男子サッカー部員のほとんどが、中学時代までに県大会上位、そして全国大会を経験してきた生徒だ。


 僕は中学まで、そういった舞台を経験することができなかった。



 吉田体育大学附属高校男子サッカー部は、サッカーがしたいという生徒全員に門戸を開いている。


 入部にセレクションのようなものはない。



 僕は迷うことなく、吉田体育大学附属高校を志望し、受験した。


 そして見事に合格を掴み取り、男子サッカー部に所属している。



 僕は各大会でベンチ入りを果たすことができないまま、この日を迎えた。


 この冬の選手権予選が試合出場の最後のチャンスだ。


 絶対にベンチ入りの座を掴もうと、より一層練習に励んだ。


 周囲は、プロ候補生のような部員ばかり。


 しかし、僕は決してへこたれることなく、練習を積み重ねた。



 そして練習が実を結び、ベンチ入りの座を掴んだ。



 着替えを済ませ、僕は右手に携えたスパイクを眺める。


 すると僕の頭の中に、幹恵の姿が浮かぶ。


 彼女は笑顔の中に力強さが窺える表情で笑顔を浮かべていた。



 スパイクを眺める僕の表情には、自然と笑みが浮かぶ。


 そして、幹恵に向けて言葉を贈る。



「絶対に活躍するからね……!」



 更衣室の照明の影響だろうか。


 僕が右手に携えた黒いスパイクは僕の目をくらませるほどの眩い光を放った。

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