第183話

トキノリの率いる艦隊は指定された宙域でヒューゲル侯爵家の艦隊と合流していた。

頼まれていた食料を引き渡す。

トキノリはヒューゲル侯爵の乗る船に移って固い握手をかわしていた。

「ハラヤマ伯爵。本当に感謝する。これで、まだまだ戦うことができる」

「いえ。お役に立てたようでよかったです」

「ハラヤマ伯爵にはすっかり世話になってしまったな。これを渡しておこう」

そう言って渡されたのは金色に輝くコインだった。

「これは?」

「私が認めてた相手に渡している信頼の証のようなものだ。これがあれば私の影響のある地域では色々便宜を受けられるはずだ」

「貴重な物をありがとうございます」

「ハラヤマ伯爵。戦争が終わったら美味い酒でも飲みながら話をしたいものだな」

「その時が楽しみです。そろそろ物資の受け渡しも終わりそうですね。武運を祈っております」

「ありがとう」

トキノリはヒューゲル侯爵と別れ連絡挺に乗ると雪風に戻ってくる。

「おかえりなさいませ」

「ただいま。船はいつでも出せますか?」

「いつでも出航可能です」

「では、我々も我々の仕事をするとしますか」

「了解」

トキノリの率いる艦隊はヒューゲル侯爵の艦隊と別れ前線の補給拠点に向けて出発した。

道中は平和なものでトラブルに会うこともなかった。

「補給物資をお持ちしました」

「ハラヤマ伯爵閣下。お待ちしておりました」

補給拠点の責任者はそう言って歓迎してくれる。

「あれからこちらの様子はどうですか?」

「酷い物ですよ。同じ人間のすることとは思えません」

どうやら占領した地域の統治は上手くいっていないようだ。

「我々に出来ることはありますか?」

「こうして物資を運んでいただけるだけで助かっております」

「物資を運ぶだけでは事態は解決しませんよね?」

「そうですね。ですが、そちらは皇帝陛下になにかお考えがあるようです」

「なら、安心ですね」

アルベルトはエニュー帝国を長年統治してきた実力者だ。

策があるというなら任せておけばなんとかなるだろう。

「物資を降ろし次第、我々は次の物資を受け取りに向かいますね」

「ありがとうございます」

積み荷を無事に降ろしたトキノリの率いる艦隊は休む間もなく本国の補給拠点に向けて出発した。

だが、後少しでワープ可能地点に到達するという時に所属不明の艦隊と遭遇した。

「トキノリ様。どうしますか?」

「取りあえず呼び掛けてみてください」

「了解。こちらはエニュー帝国ハラヤマ伯爵率いる艦隊である。所属を答えよ」

だが、返信が返ってくることはなかった。

「どうもきな臭くなってきましたね。戦闘の準備を」

「各艦に通達します」

何が目的かはわからないが返答がない以上、最悪の事態を想定する必要があった。

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