第59話
話を聞き終えたマルエ公爵夫人は改めてトキノリに頭を下げてくる。
「貴方がいなければユーラシアはどうなっていたかわかりません。改めてお礼を言うわ」
「当然のことをしたまでですから。それにマルエ公爵様からは十分な見返りを頂いていますし」
「そう言えばまだ、名乗っていなかったな。トールズだ。親しみを込めてこちらで呼んでくれ」
「わかりました。トールズ様」
「まだ、固いが・・・。まぁ、良しとしよう」
「トキノリ様は勘違いしていませんか?運送会社の設立はお礼の一部ですよね?」
「そうだな。運送会社の件はこちらにも利がある話だ。だから、他にも何か贈らせてもらおう」
「そうそう。運送会社の件は私の実家も噛ませてもらうわ」
そう言ってマルエ公爵夫人は自信満々に言い切った。
「ほう。それはいいな。お前の実家は貴重な鉱石の産地だったな」
「産出しても運び手が少ないってよく愚痴を言ってたもの。トキノリさんが運んでくれたら実家も喜ぶと思うわ」
「公爵夫人のご実家はもしかしてペテネウス星系ですか?」
「あら。ご存じなのね」
「運送ギルドでは有名な話ですよ。運べれば利益は高いけどリスクも高いと」
「そうなのよねぇ。リスクが大きすぎて受けてくれる人がいないのよ」
ペテネウス星系で採れる鉱物は貴重な金属だがその扱いが難しかった。
設備の整っていない船では輸送中に事故が起こる。
なので、今では許可を得た宇宙船でしか運ぶことが出来なくなっている。
雪風は無駄に設備が整っている。
その金属を運ぶことも理論上は可能だった。
「考えてみます」
トキノリはそう言うに留めておいた。
そこからは固いお話は終わりとなりお茶と出されたお菓子を楽しんだ。
客室に通されたトキノリは今後のことを考えてみる。
ユーラシアを助けたことでマルエ公爵家だけでなく夫人との実家とも繋がりを持てそうだ。
商売としてみた場合は大きな進展だろう。
だが、はたして自分はその期待に応えられるだろうか?
期待を裏切るのはもちろん怖い。
だが、自分がどこまで出来るのかわくわくしているのも事実だ。
もし、宇宙くじに当選していなかったらこんな未来はやってこなかった。
それどころか、仕事を続けることも出来なかっただろう。
路頭に迷う可能性もあったことを考えれば幸運と言える。
冷静に考えれば雪風を買った金があれば一生遊んで暮らすことも不可能ではなかった。
だが、雪風を買って正解だったと言えるだろう。
自分は宇宙船のことが大好きなのだ。
別の道を選ぶなど考えられなかった。
こうなったらいけるところまでやってやろう。
トキノリは決意を新たにして、今は休むことにした。
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