第2話 佐鳥飛鳥
俺があのバイク事故から庇った女子高生。
それが今目の前にいる美少女だと判明した。
まさかの偶然に驚いたが、とりあえず彼女が無事で良かったと思った。
「あの……お弁当がダメならこれはどうでしょうか? あーーん」
「てぇいっ! そんな恥ずかしいことができるかってんだっ!」
彼女の名前は
鳥が多いなと思いつつ、佐鳥さんは先ほどからこの調子である。
俺にお弁当を拒否されると今度は食べることを手伝うと言い出し、しまいにはあーんである。
誰に見られてるかわからないのに、そんなことできるわけがない。それに死ぬほど恥ずかしい。
「あと、連絡先教えてください! 今日の夜、母と一緒に謝罪に向かいます!」
「仰々しい」
「黒川くんのお母様も私の事を恨んでいるかもしれませんし、正式に謝罪しないと私も私の母も気が済みませんっ」
確か母さんも気にはしていたけど、謝罪なんて求めるタイプじゃないし、俺が謝罪させに連れてきたなんて言ったらタコ殴りにされそうだ。
「そこまではいいよ……」
「なら、今ここで土下座します」
「それはやめてぇ!?」
プライドないの佐鳥さん?
さっきまで冷徹に男子生徒の告白を断ってたように見えたけど、態度が違いすぎない?
「ともかく連絡先だけでもまずは教えてくれませんか?」
「んー、まあ連絡先くらいはいいか」
「やったぁ!」
「ん?」
「ありがとうございます!」
最初から思ってたけど、こいつ、わざと敬語使ってないか?
本当は普通に喋りたいんじゃ……ま、俺が気にする事じゃないか。
「じゃあ、また放課後に!」
「何にも約束してないけど!? 誰と放課後なの!?」
話が済むと佐鳥さんはびゅうっと校内へと戻って行った。
彼女は台風のような女子だった。
◇ ◇ ◇
『住所教えてくれますか?』
五時間目が終わった後の休み時間、佐鳥さんからメッセージが届いていた。
俺は授業中しばらく考えていたのだが、彼女がしたい謝罪を済ませれば、もう俺なんかに関わらないのではないかと考えた。
だから俺は彼女に家の住所を教えた。
すると、一度家に帰ってから母と向かうと昼休みに言ったことと同じことを返してきた。
◇ ◇ ◇
そうして放課後。家に戻った俺は母に学校はどうだったかと聞かれた。
「鳥女に付き纏われた」
とだけ言ったら、ちゃんと説明しなさいとぶたれた。痛いよママ〜。あ、この人がママだった。
「へえ、律儀な子じゃない。今時ちゃんとお礼言える子は少ないと思ってたけど、中にはいるのね」
「律儀なのかはわからんけど、変な子だったよ」
「あんたには一番言われたくない言葉ね」
「マザー!?」
これが大事な息子にかける言葉なのかと毎回思うが、母さんは厳しいのか厳しくないのか微妙なラインの母親だ。
そうして夜。予定通りにチャイムが鳴り、左鳥さんがやってきた。
「この度は娘が大変申し訳ございませんでした。息子さんには助けていただき本当に感謝しています」
佐鳥さん似の超美人の母親が直角九十度に頭を下げながら玄関先で謝罪した。
「あの……黒川くんのお母様。私は佐鳥飛鳥と申します。もし彼がいなければ、私はどうなっていたかわかりません。本当にありがとうございました」
続いて佐鳥さんが丁寧に頭を下げた。
そこまでしなくても良いと思いつつも本人たちは気が済まないのだろう。
「わあ、いるところにはいるのね〜すっごい美人じゃない。ねえ、悠?」
「いや俺に聞くなよ。良いから答えてあげて」
「とりあえずお茶でもどうですか? 時間があるならですけど」
「な、母さん何を血迷っ──」
「はい! ぜひお願いします!」
母さんの提案に即座に反応した佐鳥さん。
おいおい嘘だろ。
うちの家は闇に染まった暗黒世界だぞ。
こんな美人親子が家に上がったら浄化されて消えてしまうじゃないか。
現在の時刻は午後六時。父さんはまだ帰宅しておらず、テーブルを囲んでいるのは四人だ。
母さんが用意したお茶が並べられ、和気あいあいとした雰囲気で会話が進んだ。
「あの、実はもう一つありまして……詳細は伏せますが今日の彼の頬の傷は私が原因でもあって、黒川くんが私のために傷ついちゃったんです」
「そうなの。それで可愛いうさぎさんの絆創膏だったのね」
「はい。可愛いものが好きなので」
気づいたのは家に帰ってからだった。
俺に似合わない可愛すぎるうさちゃん絆創膏だったため、母さんに指摘された瞬間剥がした。
「すみません。私はそろそろ……また治療費などは連絡させていただきますので」
「あー、その件については……子供のいない所で話しましょうか」
入院費はおそらくかなりかかったはずだ。一ヶ月という日数はそれなりで、バイクの運転手がどうなったかとか、金額はいくらだとか、保険は下りたのかなどは一切知らされていない。正直聞くのも怖いので、大人でやってくれたほうが助かる。
「飛鳥ちゃん、良かったら二階の息子の部屋で遊んで行ってね」
「え!? 良いんですか!?」
「ええ、この子友達がいないから、仲良くしてくれたら嬉しいわ」
「はい! 私なんかでよければっ」
俺の意思はどこに?
勝手に話が進み、佐鳥さんが俺の卑しい部屋に入ることになった。
一方で佐鳥さんの母は母さんと連絡先を交換した後に先に帰って行った。
俺は階段を登るにも一苦労だ。
手すりがある階段で良かったなと思いつつ、佐鳥さんが後ろからそれを眺めている。
「やっぱり手伝いましょうか?」
「いい、リハビリも大事だからな」
そう言って俺は彼女の介助を拒否した。
しかし、佐鳥飛鳥は俺の想像外のことをする人物だった。
「やっぱり部屋まで支えます」
「ちょ──え……それはマズ……」
二階まで登ると残り直線を数歩歩くだけなのに、俺の肩を無理やり持って支えてくれた。
突然の密着に俺は顔が赤くなり、慌てふためいてしまった。だからこんなことになってしまったんだ。
「あ、ちょっとバランスがっ──え、いや、きゃあ!?」
二人同時に転んでしまい、床に倒れ込んだ。
「黒川くんっ! 大丈夫ですか!? 痛くはな──」
「ん……あぁ……なんとか……それより左鳥さんのほうこそ──ぁ」
俺に怪我をさせまいと佐鳥さんが下敷きになってくれていた。
ただ、体勢が非常に問題だった。
なぜなら俺は佐鳥さんのお腹に顔を埋めてしまっていて自由な手が彼女の膨らみを揉みしだいてしまっていた。
「あはは……黒川くんもこういうお礼がお望みだったり……? さすがにここまでは私も……」
「ごごご、ごめんっ! わざとじゃないんだ! それに支えてくれたのに……痛くない!?」
「はい。私は大丈夫ですよ」
佐鳥さんが初めて顔を赤くしているのを見た。
笑顔、真剣な顔、泣き顔、冷徹な顔、頭のおかしい顔。短い間に色々見たが、彼女はこのように恥ずかしい顔はしないと思っていた。
なのに、今は恥ずかしそうにしていて、さっきまでの強引さはどこへやら。
その顔があまりにも可愛くて、こっちまで顔が赤くなってしまった。
「ええと……お部屋に行きましょうか」
「う、うん……」
急にぎこちなくなってしまったが、二人で立ち上がり、結局そのまま俺の部屋へと入ることになった。
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