現代侍~ Brave's Blade~

兎彗星

第1話 序章1

「○○警察署は昨夜未明、○○○○四十四歳を、銃刀法違反の疑いで現行犯逮捕しました━━」

薄型の液晶テレビに映ったニュースキャスターが、流暢に原稿を読み上げる。

その音声を聞きながら、一人の中年の女性が、テーブルに食事を並べる。

トースターにバター。

焼いたウインナーに少しのサラダ。

汁物はコーンポタージュ。

一人分はこの女性の分だとして。

テーブルには二人分の食事が並べられていた。

曜日は金曜日、時刻は午前七時。

朝食なのだろう。

「最近ホント多くなったわね、物騒な事件……」

誰に語るでもなく、独り言を漏らす女性。

しかしその間の手際には抜かりは無い。

「よし。出来た。才賀(さいが)ー、ご飯できたよー」

女性は二階の誰かに向かって、声を張る。

もう一人分の朝食を振る舞うために。

この女性の一人息子である。

少し引きこもり気味ではあれど、最愛の、目に入れても痛くない息子。

しかしこの女性はまだ知らなかった。

その息子が、今まさに、自室のドアノブに括りつけたトラロープを自分の首にも括りつけ、自殺を図ろうとしていることなど。

天城才賀(てんじょうさいが)という十六歳の命が、自らの手で、絶たれようとしていることなど。

足の着いた首吊り自殺を、非定型縊死(ひていけいいし)という。

十分、死ねる体勢だ。

十六の少年は、いじめを苦に、首を吊った。

学習机に、ひとこと、

『お母さん、生きてあげられなくてごめんなさい』

と殴り書いた書き置きを残して。

━━━意識が遠のく。

「才賀?」

返事のない息子を不審に思い、母親は階段を上がる。

最初の返事がないだけで不審に思えるあたり、普段の息子の“いい子”ぶりが窺えるが、母親はまさか非常事態とは思うまい。

その階段を上がる速度は、平素のそれだった。

階段を上がり切り、二階の突き当たりにある、息子の部屋のドアノブに手をかける。

鍵は元々付いていない。

なのに━━━開かない。

「才賀!」

母親は一気に焦燥する。

仕事柄、“こういった”現場を嫌という程見てきた。

母親は力いっぱいドアを押す。

ドアが少し開き、隙間から、無造作に投げ出された息子の右脚が垣間見えた。

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