箱庭と機械と工学と
みなと劉
第1章
第1話
第1話: 箱庭の夢
ユウキは机の前に座り、手元に広げた設計図を見つめていた。彼の目は、細部まで計算された数字と図形に釘付けだ。箱庭を作る――その計画が、彼の心を捉えて離さなかった。だが、ただの庭ではない。機械で動く庭だ。自然を再現するために、最新の技術を駆使して、まるで生きているかのように植物を育て、成長させる仕組みを作るのだ。
彼が目指すのは、完璧な庭園。精密に計算された水流、調整された温度、光の変化すらも機械の力で操る。それらが一体となって、庭はまるで生き物のように動き出すだろう。ユウキは心の中で、箱庭が実現した未来の姿を描き、顔に少し笑みを浮かべた。
だが、机の上に並べられた設計図の中には、思い通りに進んでいない部分もあった。水流のシステムは動力不足で、細かい調整が必要だし、光の加減を調整するためにはもっと効率的な機械が必要だ。もちろん、これらの問題は解決できるはずだ。しかし、ユウキは少し焦りを感じていた。完璧な箱庭を作りたいという一心で、少しばかり無理をしようとしている自分がいることを自覚していた。
机の上には、彼がこれまで作った無数の機械の模型や設計図が散らばっていた。それらは一つ一つ、ユウキが学び、改良を重ねてきたものだった。しかし、箱庭のように「生きている」と感じさせるものを作るのは、今までの経験とはまるで異なる。ユウキは、何度も設計図を見返し、目を細めた。
そのとき、部屋のドアが静かに開いた。振り返ると、彼の研究室の助手、リナが顔を出していた。
「ユウキさん、また遅くまでやってるんですね」
リナは少し呆れた様子で言った。彼女はユウキが夢中で作業をしていることをよく知っている。だが、今回は少し違う気配があった。彼女は設計図を指差しながら尋ねた。
「これ、箱庭の設計図ですよね? どうして機械で植物を育てることにこだわっているんですか? もっと自然に近づけた方が――」
「いや、違うんだ。」ユウキはすぐに反論した。「機械で動く庭園は、技術の最前線だし、自然を再現するだけではつまらない。機械を使うことで、すべての要素を精密にコントロールできる。完璧な庭を作ることが、僕の目標なんだ。」
リナは少し黙ってユウキを見つめた。彼女は自然が大切だと考えている人物で、ユウキの考え方には少し違和感を覚えていた。だが、彼の情熱を知っている彼女は、それ以上何も言わなかった。
「でも、自然に近づけることが最終的には目指すべきところじゃないですか?」リナが言った。その言葉に、ユウキは少しだけ顔をしかめた。
「自然を再現することに、感情的な部分がある気がする。でも、技術があれば、それを超えることができるんだ。」
ユウキは、理論的に考えた結果、感情や人間の美意識といった要素を排除して、純粋な技術で箱庭を作るべきだと考えていた。機械によって、感情を排除し、ひたすら精密に動作する庭を作ることができれば、それこそが理想的だと思っていた。
リナは少し考え込んだ後、やがて言った。
「ユウキさんがそう思うなら、私は応援するわ。でも、もし途中で迷ったら、私に相談してね。」
ユウキは微笑んで頷いた。「ありがとう、リナ。君の言うことも分かるけど、僕はこれをやり遂げるよ。」
その後、リナは部屋を出て行き、ユウキは再び設計図に目を落とした。彼の目の前には、未来の箱庭が広がっている。それは、機械が自然を模倣し、完璧に調和する世界だ。ユウキはその理想を信じて、再びペンを取り、設計図に手を加え始めた。
ユウキの中には、確かな熱意と自信が宿っていた。箱庭が完成した時、きっと誰もがその美しさに圧倒されるだろう。それを思い描きながら、彼は再び作業を続けるのであった。
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