第25話 反吐がでる

 朝がきた。今日はファン兄に揺すられてた。

 目だけを開けて、デイリーミッションチェック。


NEW デイリーミッション

・声に出して挨拶を10人とする 10ポイント

・50枚皿洗いをする      10ポイント

・牛乳をコップ一杯飲む     8ポイント

・間違えずに計算を10回する   8ポイント

・反復横とび30回        7ポイント

・6キロ歩く          7ポイント

・5人以上に頭を撫でてもらう  5ポイント

・人を笑わせる         3ポイント

NEW・馬車に乗る          3ポイント


 新しいの出た。馬車に乗る?

 おお、なかなかタイムリー。今日は馬車に乗るんじゃないかな。

 うまくいけばだけど。


ポイント総数はと、30699。


ステータスは?

     名前:ミルカ(5) 人族 

     性別:女

     レベル:3

     職業:???

New1up HP:52/52

     MP:151/151

     攻撃力:41

     防御力:31

New2up 敏捷性:43

     知力:51

     精神:71

     回避:90


 生命の実は10ポイントもするのに1アップってケチってるよなー。

 いや、いけないいけない。街に毎日行って6キロ以上歩いているのにHPは1も上がらない。それをさ、実を食べてあげることができるんだもん。文句なんか言うべきじゃないよね。


 さて、起きよう。体を起こす。

 毛布はうまく丸められない。アドが手伝ってくれる。アドの毛布を手伝おうとしたらもう終わっていた。アドはひとりでできるのか。

 アドに手を引かれて、裏庭に。顔を洗う。


 食事の時間。いつもと同じ風景。

 先生が感謝の言葉を述べて、みんなで復唱する。わたしは心の中で思うだけ。

 木の実が二個とくたくたになったピンガの皮を細くカットしたもの。

 ピンガは非常食にしようっと。エバ兄のアイテムボックスの中に入れておいてもらおう。

「皆さんにお話があります」

 みんなが食べ終わると先生が立ち上がる。ゆっくり歩いて、エバ兄の後ろで止まる。そしてその両肩に手を置いた。

「ダーシの代わりにエバンスが農家へ行くことになりました」

 なんとも言えない空気になった。

 泣き出す女の子がいて、先生が慰める。

 エバンスはここを出て幸せになるのよ。だから一緒に喜んであげましょうねと。

 泣いているのはエバ兄と別れるのが嫌だからと思ったんだろう。

 でもそれは違う。みんなどこかで期待していたのに。

 わたしたちにとって優しい存在。近くにいてくれた先生は、他の大人と違っていて欲しかった。親のいない自分たちの味方でいてほしかった。そして今まではそれを疑ったことはなかった。

 でも、先生はダーシの代わりにエバンスを差し出すんだ。エバンスがいなくなったら次は誰? 自分かもしれない。それに気づいてしまった。

 先生はダーシのことを全然心配してなかった。

「先生!」

「なぁに、アリス」

「ダーシはどうしちゃったんですか?」

 先生は眉を下げて悲しそうに笑う。

「仕事が辛くて逃げ出したのでしょうね。いいですか、辛いことのその向こうに幸せはあるのです。一見辛いことも、乗り越えればまた違うものが見えてきます。

 ダーシは逃げてしまったけれど、みんなは逃げるようなことはせずに向き合ってくださいね」

 反対派の子たちも暗い表情だ。

 反吐がでる!

 わたしは椅子から飛び降りて、食堂を出た。

「ミルカ、話は終わってないですよ? お行儀が悪いわね」

 そう聞こえてきたけど、かまうもんか。



 当番の仕事を終えると、二人組の大人が孤児院に入り込んできた。

「ガキの用意はできたか?」

「家を壊さないで! 働きに行く子は決まりましたから!」

 男たちはつまらなそうに鼻を鳴らしてる。

「どいつだ?」

「この子です」

 院長先生がエバ兄の両肩をもって、ぐいっと前に出す。そのエバ兄にわたしはひっついた。

「み、ミルカ!」

「なんだこのちっちゃいのは?」

「この子の妹です。兄と離れるのが嫌なんでしょう」

「へー、こんなところにいるにしては可愛い顔してるじゃねーか」

 顔を触ってきそうになったので、避けて、もっとエバ兄にひっつく。

 わたしは前もって書いておいた黒板を見せた。

「ん? わたしも行く? なんだこれは」

「その子は口がきけないのです。ミルカ、こちらへいらっしゃい。エバンスは働きに行くのです」

 いやーと首を横に振る。

 男たちは目で合図し合う。

「いいぜ、こっちは。口がきけないんじゃ、にーちゃんと離れるのは怖いよな? その代わりお前も働くんだぞ? 働かなきゃ飯は食えねーんだ、わかるか?」

 わたしはコクコクうなずいて見せる。

「それじゃあ、決まりだ。このちっこいのも連れて行くぜ」

 ファン兄とアドが涙目だ。

 わたしは目で訴える。こっちのことは任せたよと。

 ふたりはうなずいた。

 荷馬車の荷台にわたしたちは放り込まれた。

 見送ってくれるみんなの目を見ていく。一人一人うなずく。

 アイは思い出したように、先生の隣に行って手を握る。

 院長先生は小さなアイが急に寂しくなってしまったのかと、抱きしめてぎゅっとして、それから手を繋いでこちらを見送る。

 アイは院長先生担当だ。

 ダーシを連れてきたり、色々することがあるので、先生の行動は誰かが監視していないといけない。それからダーシのいるところに近づけないようにする、とかね。アイにはとにかく先生にまとわりついて一緒にいること。ダーシのいる方には近づけないようにすることをお願いしてある。

 馬車が走り出すと、馭者台から後ろのわたしたちを見て、静かなので安心したようだ。わたしはエバ兄にくすねてきた毛布を出してもらって、ふたりのお尻の下に敷いた。どれくらい遠いのか知らないけど、こんな揺れるのに板の上に座ってたらおかしくなっちゃうよ。

 エバ兄は不安なんだろう、わたしの手をぎゅっと握る。

 わたしも握り返した。

 大丈夫だよ、エバ兄のことはわたしが守るから。

 


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